Episode.5

第34話

~流星Side~



フクの言葉に俺の声は大きくなる。



「来れない?!」


「ほんとすみません!ちょっと、用事ができて、」


その電話の後ろで女の声が聞こえてきた。


「ゆきくん、行こうよー」


「……おい、フク。隣にいる女だれだ?」


「女?いないですよ。

じゃ、スズちゃんのことよろしくお願いします」


「あ、ちょっ!フク!」



ぷつっ、と切れた電話に、はぁーとため息をかける。


「……あの、先輩?」


「スズ、ちょっと待ってな?」



一人で立ち尽くすスズにそう伝え、大澤の番号に電話する。



「……はい、もしもし」


「あっ、大澤?お前いま何してる?」


すがるように電話に言う。


大澤の眠そうな声にすら、すがりたい想いだった。



「今は……、寝てます」


「良かった。


今すぐ起きて新崎に来れるか?

来れるよな?お前の家、近いもんな!」


「まあ、近いですけど……。なんでですか?」



俺は電話の向こうの大澤を抱きしめたくなった。


「フクがさぁ、『新しいキーボード買いに行く』って俺とスズを誘ってきたんだよ。


なのに、あいつドタキャンしてよぉ!」



さっきまで眠そうだった大澤の声が突然、目覚める。



「先輩、ごめんなさい。俺も無理です。

今日ちょっと家の用事があって」



「……は?」


「ほんと、すみません。じゃ、頑張ってください」



ガチャ、と電話が切れた。


俺は電話を見つめてその後、スズを見る。



「……先輩、あの……」


「スズ、行くぞ」



覚悟を決めてスズの腕を握った。


「えっ?!フクちゃんは、」


「用ができたってさ。少がねーな、うん」


自分に言い聞かせるようにそう言ってから、スズの顔を見たら不安そうだった。



「……大丈夫だから」


「えっ?」



腕から手を離しスズに向き合う。



「俺、道とか分かるから!」



自分で言って何言ってんだ、と心の中でつっこんだ。



「いや、不安とかじゃなくて……。


これ、……デートですよねっ?!」




スズの顔が赤くなる。

俺はその言葉に、更にポカンとなってしまった。



そもそもの原因はフクの一言。



「キーボード、一緒に買いに行きません?」



その言葉にスズが振り返った。


「私も一緒に行きたい!」


「スズちゃん、欲しいメーカーとかある?」


フクがそう聞くとスズは立ち上がった。


「うん、ある!

前から買おうと思ってたやつ!」



フクの笑顔が微妙に変わった。



「じゃあ、三人でいきますか?」



俺は別にどっちでも良かったので、何も考えずに答えた。


「じゃあ三人で行くか」



……今、思い出して思った。


もしかして、はめられた?


でも、スズの赤い顔見たら、どうしようって気持ちは消えた。



「そうだな、デートだな」


俺がそう答えて手を握るとビックリ顔で俺を見上げる。



「デートなんだからいいだろ」



俺、もしかして今すげー楽しんでる?



「いや、あの!

手を繋ぐ必要はないってゆーか……!」


「えー?デートだぞ。普通、繋ぐだろ」


何も言わないスズを引っ張ると、戸惑いながらも手を握り返してきた。



「……、せんぱい!」


大声出されてビックリした。


「ん?どーした?」


「わたし、そのー……。


足、引っ張らないように気をつけます!」



……こいつ、やっぱりかわいいんだよな。

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