敵司令部打通作戦 後段
第三十一話 大隊を目指して
しばらくして見えたパルチザンのカザン防衛陣地は、僅か1日ばかりの間であったにも関わらず、何か懐かしさを感じた
ずっと近づいていって見れば、陣地は随分と東西に延伸され、北へも拡張の用意がなされているように見えた
現状は3個自動車化狙撃兵中隊600人と4個対戦車砲分隊、その他火力支援分隊を擁するパルチザン戦闘団……もうそろそろ第7自動車化狙撃兵大隊となる部隊が守りを固めていた。パルチザン初の大隊なのにナンバリングが7なのは突っ込んではいけない
彼らは第6中隊戦闘団に比べれば未だ装備で劣るものの、それでも平野での戦闘の為に大口径の7.62×39mm弾を扱うAKMSNとサイドマウント式の光学照準器を備えているし、各小隊にはしっかりと軽機関銃と対戦車兵器を持つ火力支援分隊が配備されている
横目に各員の仕事っぷりを眺めている内にコンボイは坂を登り、高地に茂るラクスの森に差し掛かった
斜面に据えられた塹壕と重機関銃、簡易的な隠掩蔽壕には9M133 Kortnet ATGMがその頭をのぞかせている
しばらくして戦闘団の後方……指揮所や医療ステーションのある地域にたどり着いた俺たちは路肩に車列を止める
「よし、負傷者と子供は大隊の医療ステーションまで送れ、丁重にな」
俺は戦車兵とカヤに待機を命じた後、一人で戦闘団指揮所に向かう。戦闘団指揮所は市街の外れにあり、その大部分は地下に収められており、その入り口……天幕の入り口には、一人の男がいた。いやエーリッヒ戦線参謀ではない
彼は俺が書類整理の為に雇ったかつての文官上がり……今では戦闘団の参謀かつカザンでの指揮官代理、ズレーズニャ大尉だ
「お疲れ様です、ヴィクターさん。お早いお帰りで」
皮肉気味な口調とは裏腹に優しげな声色をした彼は、制帽の下からその両目を覗かせている
「状況が変わってな……詳細は先んじて通信で話した通りだ。部隊の増強が急務となる」
俺は彼を後ろに連れて戦闘団の指揮所を進む。簡易的な照明に土埃が煌めいている
「一応の準備はこちらでしておきました。現時点で300人の志願者、200人の保留者がいます。第7中隊の仮編成も一応はできています」
「いや、今回の増強は少し違う。既存の第3、4、5自動車化狙撃兵中隊と第6中隊戦闘団にいる部隊をまとめて、第7自動車化狙撃兵大隊として再編成する。さらに機械化を推し進め、前線に展開し……そのための補給部隊も用意する」
「……なるほど、パルチザン全体に遠征能力を、と言う事ですね?」
「そうだ。その為にまず全部隊を自動車化し、自動車化歩兵中隊の機械化に必要な車両数を算出、次いで戦車中隊や補給部隊、医療ステーションも行おう」
「了解です。ではこちらに」
彼はそう言って俺を追い越すと、通路の右手に向かった下り階段……戦闘団の参謀室へと向かった
ここにはカザン市を中心とした地図や舞台を表す駒、資料など、指揮場に必要な様々な物が揃っていた
俺達は資料を机の上に広げ、手分けして計算……の前に、装備の調整を始めた
「おそらく相当数の車両が必要になると思われますが、車両は何を使いますか?」
「IFVに関しては、その大半が使用する30mm口径の徹甲弾が早々に威力不足となった。大口径とはいえ機関砲クラスの物理弾の威力に限界が見えてしまった。だからここは……」
俺は額を抑え、脳内でIFVを何両も比較検討する。機関砲のみの車両は早々に除外され、ついでミサイルを持つが機関砲が小口径の車両の車両、マルダーIFVなどを除外する
ブラッドレイは悩ましかった。たしかに優秀なIFVではあるが、肝心のATGMが有線誘導のTOWであるし、連装発射機への装填は車外へ身を乗り出さなければならない
結局候補に残ったのは、BMP-2/3系列、
「BMP-2も3も、前提としては増加装甲の装着が前提になる。浮上航行能力は失われるだろうが、対戦車魔法一発で歩兵も乗員も全員死ぬよりはマシだろう。BMP-2は2Mへの改修も含まれるし……3も一応、幅広く改修が効く」
「クルガニェツ-25は微妙だ。シャーシに問題があるとか言う曰くがあるし、正直これならばBMP-3M Manulでいい気もする……向こうじゃ採用すらされてないしな……」
「BMP-T T-15も正直怪しい。”アルマータ”プラットフォームのA-85エンジン自体の問題が解決されていないんだから、そもそも出しても動くかわからん。T-14に比べればマシだが」
あのT-14とか言う
「ZBD-04A、正直こいつも微妙だ。素の状態ならこいつ一択になるかもだが、BMP-3MやManulがいるのだからこいつである必要性も薄い。2A72でAPFSDSを使えるのは魅力的だが……3UBR8でもマンティコアβには有効だし、結局あの未確認四つ足には効果がない」
俺がひとしきり喋った後、ズレーズニャは悩む様に唸る
「単純な性能で言うなら、どれが優秀ですか?」
「カタログスペックならT-15だな。最初に採用したNamer IFVと似てはいるが、戦闘モジュールの多様さや正面の堅牢さ、
「その次だと?」
「BMP-3か、ZBD-04だろうな。BMP-3はKaktus ERAを装備できるし、砲塔自体もいくつかの戦闘モジュールと交換できる。フロントエンジンではないから防御面に心配はあるが、歩兵部隊の矛として十分に期待できる。ZBD-04は確かにBMP-3より優れてはいるが、収容兵員数や拡張性には疑問が残る」
「ではBMP-2が、その中では最も劣ると?」
「あぁ……
「ふむ……では、ヴィクターさん」
俺は自分の脳みそと検討加速させていく中で、ズレーズニャが唐突に、ふと思いついた様に言葉を発した
「コンペティション、しましょうか」
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彼の思いつきと言うのは、つまり競争であった
結局机上で何を考えたところで現場でどうなるかなどわかった物ではない。ではもう実際にやってしまおう、と言うことで、前述の4両に加え、いまあるNamer IFVを用いた5両の性能比較試験が行われる運びとなった
試験の内容は魔法に対する対弾性能、攻撃性能、走破性能、乗り降りのやり易さ、召喚、整備、修理などの各種コスト等、様々な項目で試験が行われる
各種2両が用意され、それぞれにあてがわれた乗員は一定の習熟訓練の後試験に臨む
「おおT-15動いてる!奇跡か!あっちじゃプラットフォームの計画丸ごと死んだのに!」
「えもうこれ戦車いらねぇや!こいつに統一しようぜ」
「バカ言わないでくださいヴィクターさん」
スペックとか設計とか採用の経緯はともかくとして見た目はたいへんに大好きなので、本当夢物語の様な感覚だ
T-15がこれならT-14にも期待ができる。いや無理だ。あのクソみたいな車体内弾薬庫やクソみたいな砲塔装甲の棺桶に乗せるくらいならまだT-64Bに乗せる
「試験までは時間がありますからほら、眺めてないで仕事しますよ!」
「やだ!1回!1回でいいからあれに乗らせて!お願いします!」
「お願いしますはこっちのセリフです!まだ仕事残ってるんですから!ほら!」
結局俺はズレーズニャに担ぎ上げられ、司令部へと戻される事になった
ちょっとくらい駄々こねてもいいじゃないかと言う俺の抗議は、「AK一丁でマンティコアの相手したくなかったら言うこと聞いてください」という脅迫によって打ち消されてしまった
俺、本当にパルチザンの最高司令官なんですよね?
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