みちのく遊撃隊!

阿弥陀乃トンマージ

ディレクター、初陣

「ディレクター、指示をお願いします!」

「ええっと……」

 聴こえてくる女性の声に対し、気弱そうな男性が戸惑う。男性は今、青葉山に立っている。杜の都、仙台の中心地を見渡せる場所だ。

「戸惑っている暇はないよ……山寺官九郎やまでらかんくろう少尉……」

「い、井上中佐……」

 山寺と呼ばれた男性が振り返ると、チリチリパーマで丸眼鏡をかけた男性がそこには立っている。山寺よりは一回りほど年上の見た目で、やや長身で短髪の山寺とは対照的に、小柄で特徴的な髪型をしている。

「君を東京から呼び戻したのは見込み違いだったかな?」

「じ、自分は、劇団の立て直しの為に呼ばれたと思っておりましたが……」

「それは建前だね」

「た、建前……」

「ああ、本音はこの地に迫りくる『妖機ようき』を退ける仕事をしてもらいたい……」

「お、お言葉ではありますが、自分などよりも、井上中佐の方が適任かと……」

「僕のことを知っているのかい?」

「そ、それはもちろんであります。先の大戦でも英雄的活躍をした井上俊二いのうえしゅんじ中佐のお名前を知らぬ者などおりません。特にこの仙台では……」

「……妖機との戦いは人とのそれとはわけが違う……「その為に特殊な隊員を東北中からなんとかかき集めた」

 井上と呼ばれた男性はこれまでとは違った低い声で告げる。

「は、はあ……特殊な隊員?」

「見えるだろう? あの緑色の機械的な鎧を身に着けた若い女性が」

 井上が指し示した先には、先程、山寺に指示を仰いだ女性だ。

「は、はい……」

「あれは『パワードスーツ』だ。あれを着用することで妖機とも互角に渡り合える……ただ、それでは不完全だ」

「不完全?」

「『演出』が必要なんだよ、団員たちが思い切って、戦場というステージで思い切って『演技』を出来る為のね」

「え、演出……?」

「そうだ、この『みちのく遊撃隊』の活躍には、山寺君、君の演出が必要不可欠なんだ……!」

 井上が山寺をビシっと指差す。

「み、みちのく遊撃隊……妙な劇団名だとは思ってはいましたが……」

「ディレクター、指示を!」

 緑色のパワードスーツを着た女性が再び、声をかけてくる。

「ディ、ディレクター? 自分のことですか?」

「他に誰かいますか⁉」

「え、えっと……」

 山寺が自らの後頭部を抑える。

「早くお願いします!」

 緑色のパワードスーツを着た女性が山の方を見上げる。長く綺麗な髪が翻る。

「そ、そう言われてもな……」

 山寺が戸惑う。

「山寺少尉」

「は、はい……」

 山寺があらためて井上の方を見る。

「彼女たちの演技をまとめた映像には目を通しているんだろう?」

「ああ、それはもちろん、頂いたこちらで……」

 山寺がタブレット端末を取り出す。

「ならばそれを踏まえた演出プランを考えるんだ」

「え……」

「大丈夫、君ならば出来る……この『劇都』仙台を守り抜ける!」

「ええ……」

「おい!」

「えっ⁉」

 茶色いパワードスーツを着た角刈りで筋肉質の男性が山寺の方に近づいてくる。

「これ以上戸惑っている暇はないぞ! さっさと指揮を執らんか!」

「あ、あなたはもしかして……?」

大友文太おおともぶんた少佐……僕と一緒にこの隊を立ち上げてくれた方だ」

「防衛隊の英雄ではありませんか! パワードスーツも着ていらっしゃるし、少佐こそ指揮官にふさわしいのでは……?」

「ワシでは駄目なのじゃ……ワシが着ているのは、『パワードウェポン』じゃからな……」

 大友と呼ばれた男性が顎の無精ひげをさすりながら答える。

「パワードウェポン……?」

「おのれが彼女らの頭となり、ワシは手足となって動くんじゃ……!」

「頭……手足……そうか、そういうことか!」

 山寺がタブレット端末を操作し、いくつかの情報を確認して頷く。井上が笑みを浮かべる。

「どうやら理解頂けたみたいだね……」

「もう少しご説明が欲しかったです……!」

「『習うより慣れよ』とはよく言うじゃないか」

「土壇場過ぎますよ!」

「ほら、妖機が迫ってくるよ……」

「!」

 妖機とは、体が機械で出来ているが、その正体はほとんどが謎に包まれている。どこからやってくるのかも分からない。ただひとつ分かっていることは、彼らは人間に仇なす存在だということだ。人間よりも一回り大きいカマキリのような姿をした妖機が緑色のパワードスーツを着た女性に迫る。山寺が声を上げる。

「大友中佐!」

「おう!」

「『剣』を演じてください!」

「分かった!」

 大友が剣に変化する。

「そう、少佐は高い演技力で武器を演じられる……」

 井上が頷く。山寺が指示を出す。

「彼女のもとに!」

「おおっ!」

 剣となった大友が緑色のパワードスーツの女性の方に近づく。

「手に取って!」

「ええ!」

 緑色のパワードスーツの女性が剣を手に取る。細長い目つきが一段とキリっとする。

「カマキリ型妖機、鎌が厄介だが、『後の先』、カウンターを取るんだ!」

「はい!」

「シャア!」

 カマキリ型妖機が片腕の鎌を振る。鋭い攻撃だが、緑色のパワードスーツの女性はそれを落ち着いてかわし、懐に素早く入り込む。

「はああっ!」

「シャア⁉」

 女性が振るった剣がカマキリ型妖機の体を断つ。まさに一刀両断だ。山寺が声を上げる。

「よし! 伊達青葉だてにあおばさん! 得意の『活劇』で鳴らした見事な『斬撃』です! さすがは宮城のサムライガール!」

「……どうもありがとうございます……」

 青葉と呼ばれた女性が山寺に向かって丁寧に頭を下げる。黒髪がなびく。

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