第16話 加害悪夢

「はぁッ……はぁッ……っ……はぁッ」


手のひらに感触が残っている。小さな丸い頭を覆うように把持した右手、すべすべとした細い両足をまとめて掴んだ左手。

両腕がぷるぷると震える。小さな力からだんだんと大きな力で引っ張って、人形を、真っ二つにぶっちぎったあとの感覚。


「また、またこの夢……いや、いやぁ……」


近所にある有名なごみ屋敷。庭に人形を山のように捨てている不気味な家。

あの家の庭のごみ山に座って、まだ五体満足な人形を手にとっては引きちぎる悪夢を、……もう三日も連続で見ていた。



「大丈夫大丈夫、疲れてるだけよそんなの。あんた引っ越したばっかりなんだから、色々ナイーブになってるのよ。ちゃんとあったかいもの食べてる?」

「食べてるよ。新しい電子レンジ、片方しかあったまらないけど……」

「なんでそれでいいと思ってるのよ! 自炊しなさい自炊! もーしょうがない、お母さん今度の日曜に行ったげるから」

「えーいいよ、そういうことしてほしいわけじゃないよ」

「なに遠慮してるのよ、家族でしょ。気にせず頼ればいいんだから。それよりちゃんとお部屋掃除しておくのよ! あんた昔っから色々ほったらかしてすぐ散らかすんだから!」



その日の夜も悪夢を見た。

真っ暗な夜の中で、私はまたあの家の庭のごみ山の上。

かよわい人形の頭と足を持ち、腰から二つに引きちぎる。

右から取って、引きちぎったら、左に捨てる。

右から取って、引きちぎったら、左に捨てる。

ちぎる。捨てる。

ちぎる。捨てる。

ちぎる。捨てる。

ちぎる。     あ。




その人形は、最後に見たお母さんの姿と全く同じだった。





「おかあさん……きちゃだめ、きちゃだめ、きちゃだめ……」

「なに言ってるの、そんな声した娘をほっとけるわけないでしょ!? お母さんいま車でそっち向かってるから! もう高速降りてすぐだからそれまで頑






激しい音がして電話は切れた。


翌日、私のスマートフォンを鳴らしたのは警察からの電話で、お母さんが車の事故で死んだことを告げられた。その遺体はひどい損壊状態にあるため、心の準備をしてほしい、ということも。

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