第16話 加害悪夢
「はぁッ……はぁッ……っ……はぁッ」
手のひらに感触が残っている。小さな丸い頭を覆うように把持した右手、すべすべとした細い両足をまとめて掴んだ左手。
両腕がぷるぷると震える。小さな力からだんだんと大きな力で引っ張って、人形を、真っ二つにぶっちぎったあとの感覚。
「また、またこの夢……いや、いやぁ……」
近所にある有名なごみ屋敷。庭に人形を山のように捨てている不気味な家。
あの家の庭のごみ山に座って、まだ五体満足な人形を手にとっては引きちぎる悪夢を、……もう三日も連続で見ていた。
◇
「大丈夫大丈夫、疲れてるだけよそんなの。あんた引っ越したばっかりなんだから、色々ナイーブになってるのよ。ちゃんとあったかいもの食べてる?」
「食べてるよ。新しい電子レンジ、片方しかあったまらないけど……」
「なんでそれでいいと思ってるのよ! 自炊しなさい自炊! もーしょうがない、お母さん今度の日曜に行ったげるから」
「えーいいよ、そういうことしてほしいわけじゃないよ」
「なに遠慮してるのよ、家族でしょ。気にせず頼ればいいんだから。それよりちゃんとお部屋掃除しておくのよ! あんた昔っから色々ほったらかしてすぐ散らかすんだから!」
◇
その日の夜も悪夢を見た。
真っ暗な夜の中で、私はまたあの家の庭のごみ山の上。
かよわい人形の頭と足を持ち、腰から二つに引きちぎる。
右から取って、引きちぎったら、左に捨てる。
右から取って、引きちぎったら、左に捨てる。
ちぎる。捨てる。
ちぎる。捨てる。
ちぎる。捨てる。
ちぎる。 あ。
その人形は、最後に見たお母さんの姿と全く同じだった。
◇
「おかあさん……きちゃだめ、きちゃだめ、きちゃだめ……」
「なに言ってるの、そんな声した娘をほっとけるわけないでしょ!? お母さんいま車でそっち向かってるから! もう高速降りてすぐだからそれまで頑
」
激しい音がして電話は切れた。
翌日、私のスマートフォンを鳴らしたのは警察からの電話で、お母さんが車の事故で死んだことを告げられた。その遺体はひどい損壊状態にあるため、心の準備をしてほしい、ということも。
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