第12話 犬
ゆるやかな坂を疾走する一匹の犬がいた。黄金色の毛並みをした柴犬だ。
首輪に繋がれた赤色のリードが地面に付かないほどの速さで真っ直ぐに、道路の先にある場所へ向かっていた。健康的なその犬の走力で駆けること五分。犬は目的地に到着すると、総毛を逆立て攻撃的な吠え声を上げる。
ワンワンッ!ワンワンワンワンワンワンッ!
人形のごみが山と積まれたその家に、殺気立った犬の咆哮が叩きつけられる。
ひとしきり吠えると、犬は唸り声をもらしながらその場を一周、二周、三周くるりと回ってまた威嚇の姿勢を取り、再び鬼気迫る大声で鳴く。
そうすると、二階の曇った窓の向こうに人影が現れた。
ワンワンワンワンワンワンッ!ワンワンワンワンワンワンッ!
凶暴な咆哮は止むことを知らず、隣家の住人がなにごとかと窓から覗き始める。坂を下った向こうには声を聞きつけて飼い主の少女も走ってきていた。
ワンワンワンワンワンワンッ!ワンッ!ワンッ!
割れんばかりの叫びがぶつけられる。目の前にあればかみ千切っている勢いでその人影に吠えたてる。犬はその人影に対し、激しい怒りを抱いている。主を守らんがため、声の限りに威嚇を続け、そして。
人影は、家の奥へと消えた。
「こぉらハッピーっ! めっ! 吠えちゃだめでしょ! なんで急に走り出すのよもぉーっ!」
ほどなくして少女が駆けつけると、さっきまでの剣幕が嘘のように犬は大人しくなった。どこかしょんぼりとした顔をして、鼻先を少女の手へ絡めるように伸ばしてくる。
「ああもう、なになに、どうしたのよー。 ……げっ、ここ……」
少女は頭上のごみ山を一瞥して、ようやく自分がどこにいるのか気づいた。
「見てない。見てない。ほらさっさと帰ろうねー……」
目を逸らし不穏なことは考えないようにして、そそくさとその場を立ち去ろうとする。犬はその少し後ろを、聞き耳を立てながらついていく。
少女と犬は、そうして無事に家に帰った。
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