図書館男・02〔武部 爪牙〕

 ティッシュの箱の陰、ソファーの隅、ベッドの脇。


何故か最後の一冊は電子レンジの横に置いてあった。置いた記憶がない自分が分からない。


慌ただしいほど急速に稼働してくれるエアコンからの涼風が、ポニーテールに結い上げた髪と薄手のシャツの間をするり、駆け抜けていき、気持ちが良い。


ほう、と息をつく。


「………まだ貴女は気付かないのですか。お嬢様。」


影がすうっと差して。男が後ろに立っていた。


「何、あ!?」


男が眼鏡を取り、きっちりと固められた髪をくしゃっと、かき上げて崩すと。私のよく知っている人物がそこに。端正な目鼻立ちがあらわになる。


性はタケルベ、下の名は忠臣の意を持つ……うちの執事ではないか!?


「ふむ。この部屋は貴女の香りがしますね。ふむふむ。」


「帰れ! 三秒以内に!」


「……学校帰りの寄り道、減点十。借り物を期限内に返さない、減点五十。知らない男を家に上げる、減点五百。お嬢様は、本当に困ったお方だ。」


うくっ。返す言葉もない。


「まったく。強情を張らず家に戻りなさい、お嬢様。お父上も、貴女を非常に心配されていますから。」


「嫌だもん。父に全てを決められる生活は、もうウンザリ。」


執事はため息をつき、変装用の眼鏡を胸ポケットに仕舞った。


「ひとり暮らしをしたい、と考えるのは貴女の勝手ではありますが。資金の提供はご家族からでしょう。ろくに自活もせず、なのに縛られたくないなんてのは……子供のワガママだ。大きな口を叩く権利はない。」


「ーーーー!!」


「おっと。」


激情にかられ本を投げようとした私を、執事が素早く正面から抱きすくめてきて、振り上げた腕は押さえられた。



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