あなたに鰻と執事の愛を

小太夫

お嬢様は○○がお好き?

図書館男・01

 じゃらじゃらん


「失礼。サイオンジ  モリノ様で?」


転がるぬいぐるみに熱狂する声と、その嬌声に負けず劣らすの騒がしい電子音に取り巻かれる両替機。


の前に立つ私に、長身の人物は話しかけてきた。分厚そうな黒縁眼鏡をかけて大きな袋を持つ、スーツ姿の男。


何だこの男、ナンパだろうか。でも、西園寺 森乃。私の名前を知っている……?


「××日に借りた本の期限、とっくに過ぎていますよ。」


「はい?」


聞き間違いかと、思わず間抜けな顔をしたであろう私に。ブリッジをくいっと指で上げて眼鏡フレームの位置を直しつつ、男は続ける。


「貴女が県立図書館で借りた五冊です。題名は『毒と薬の歴史』『図説! 毒生物』『毒と生きる』……」


「わ~~題名を言うな! あなた誰よ!」


「こほん。図書館のほうから参りました。随分と延滞されているので、本を回収に参ったのです。」


「はあ。」


図書館の人って、お金ならぬ本の取り立てみたいなこともしているのか。初めて知った。


「速やかに返却して頂きたく。毒と薬の……」


「言うな! 分かった、すぐに返すから来て!」


百円玉を受け取り口から慌ててかき集めると、学校指定のカバンを抱え直す。


ゲームセンターを出て、私のひとり暮らしのマンションまで図書館男と共に戻ることにした。


建物からスニーカーを踏み出した身に、触れた外の空気はむわっと蒸し暑く。セミの歌が近場から賑々しく聞こえた。梅雨はまだ終わっていないと思うが……すでに真夏のよう。


真っ黒な日傘を広げた男は、ゆっくりと背後から付いてくる。おっと、一人だけズルい。


図書館男を玄関に入れて待たせると、部屋のあちこちに散らばった本を探し出して机に積み上げる。

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