第28話 ゴーレムダンジョン(裏ボス①)
「キシャアアア!ガチガチガチガチ!」
委員長の幻影と双子の魔法の杖を使った爆撃を振り払い、クルセイド・センチビートが僕等の方へと向かってくる。
「キシャ!『
しかもこれまでは使って来なかったスキルまで使用して、完全に本気モードだ。
クルセイド・センチビートが咆哮し、無数の牙が生えた口からから血の滴るような赤黒い霧が噴き出す。刹那、その身体が不気味に震え、甲殻の隙間から紅蓮の輝きが漏れ出す。
スキル発動の前触れだ。
センチビートの全身が突如として紅く発光し、甲殻の節々が血の花弁のように開く。
まるで華が咲くように、赤い結晶のような甲殻が剥がれ落ち、辺りを血の色で染め上げる。
無数の脚が地面を叩き、地震のような衝撃波が周囲を蹂躙する。
その動きは尋常ではない――通常の数倍の速度でうねり、捕捉した敵、即ち僕等へと突進してくる。
「キッシャアアアア!!」
「委員長…いけそう?」
今、打ち合わせた作戦通りに行けるかってことだけど…正直ちょっとこれは…。
「だ、大丈夫…だと思う、正直ちょっと怖いけど…やるわ、『
志恵が囁くように呟くと、彼女の周囲に淡い紫の霧が立ち込める。
両手を広げ、まるで闇を編むように指先を動かすと、空気が揺らぎ、空間そのものが歪み始める。
スキル発動――『
──刹那、戦場が一変する。
クルセイド・センチビートの無数の眼が捉える光景は、志恵ただ一人のはずが、突如として数十もの彼女の幻影が現れる。
どの志恵も本物と見分けがつかぬほど精巧で、それぞれが異なるポーズで微笑み、嘲笑い、あるいは冷たく睨みつける。
彼女たちの瞳は血の色を帯び、まるで吸血鬼の誘惑のようにセンチビートの意識を絡め取る。
「さあ、どれが本物の私かしら?」
幻影の志恵たちが一斉に囁き、声は重なり合って不協和音のように響く。
センチビートが咆哮し、鎌状の牙を振り下ろすも、牙が貫くのはただの幻。
攻撃が空を切るたび、幻影は血の花弁のように散り、再び別の場所に現れる。
センチビートの無数の脚が地面を叩き、毒液を撒き散らすが、志恵の幻影はまるで霧のようにすり抜け、嘲笑うように踊る。
──作戦はこうだ。
僕等にはあのクルセイド・センチビートにダメージを与えられる術、即ち光属性の攻撃手段が無い。
光属性を持つ高位の神官も、あの強固な装甲を砕ける重戦士も僕等の中にはいない。
だが、先程まで戦っていたあのシルヴァーゴート・パラディンなら、正にその条件に当てはまるのでは?
勿論、普通に頼んで戦ってくれる訳もなく、そもそも煌のブレスとクルセイド・センチビートの不意打ちで半死半生状態の今では、まともに戦えはしないと思う。
だが、僕のぬいぐるみ使いのスキル…『クリエイト』でぬいぐるみに、つまり僕の従魔にすれば良いのではないか?
『クリエイト』の発動条件はおそらく、自分で倒したモンスターであることなのはほぼ間違いないと思う。
更に、先程確かめた『リアライズ』の効果、『ぬいぐるみを一時的に本物にする』効果を使って、全快状態のシルヴァーゴート・パラディンを顕現させれば、アイツとも互角に戦えるのでは?
──そう考えたのだ。
「でもカナちゃん、さっき煌ちゃんを『リアライズ』させて、もう魔力が残ってないんじゃ?」
作戦会議中、委員長がそう聞いてくる。
「うん、だから…これを使う」
そう言って僕が『トイボックス』から取り出したのは、キラキラと光る蒼い液体の入った小さなビンだった。
「これは?」
「これはショッピングモールダンジョンのクリア報酬で、マナポーション(Lv.4)ってやつ」
ロックスパイダーを倒した後、クリア報酬として出て来た物だ。
あの後、サリエさんに預けて鑑定に回してもらってあったけど、ついこの間結果が出た。
他の素材系は殆ど売却したけど、これは使う機会もあるだろうと取っておいたのだ。
因みに、売却した場合の金額も教えて貰ったけど、ゼロが多すぎて怖くなったので、忘れる事にした。
…僕は何も見てない。
因みにこれが鑑定結果。
名称: マナポーション(Lv.4)
分類: 魔法回復アイテム(中級~上級)
概要:マナポーション(Lv.4)は魔法使い、魔術師、またはマナを消費する能力者が使用する高効率の回復アイテムです。
高度な錬金術と魔力結晶の融合により製造され、一般的なポーション(Lv.1~3)に比べて強力なマナ回復効果を持ちます。
価格: 一般市場で1本あたり約5,000,000円~8,000,000円。
闇市では割高になる場合も。
「ごっ!」
「「ごひゃっ!」」
(Dランクくらいになれば、それぐらいコンスタントに稼げるけどな?)
(普通にガブ飲みする事になるぞ?)
(胃腸が弱い俺には辛い)
(頑張れ)
(待って、こないだオークションに希少素材が大量に出品されて騒ぎになってたんだけど…)
(まーた繋がってしまったな)
…余談になるが、僕等探索者はダンジョンに入って戦えるのなら、たとえ未成年でもダンジョンドロップ品を売ったりして、大金を簡単に稼ぐことができる。
(実際、僕もこの前銀行口座を確認しに行ったら、ゼロの数が物凄い事になってて気が遠くなりそうになった…レッドオーガやロックスパイダーの希少素材にオークションで物凄い値がついたらしい)
ただ、その稼いだお金を全部自由に使えるという訳では無い。
よく考えて見れば当たり前の話で、未成年(僕らなんて、この前までランドセル背負ってた訳で)にそんな大金を自由に使える状態で渡したら碌なことにならない。
悪い人が寄ってきて巻き上げられるか、そうでなくてもお金の絡んだトラブルに巻き込まれるのは間違いないだろう。
だから、未成年探索者のLMDMカードに紐付いた口座のお金は、保護責任者があらかじめ設定した上限までしか使えないようにされている。
僕もちょっとお小遣いが増えたけど、自由にできるお金はその程度だ。
ダンジョン探索に必要な物…特に高価な武具やポーション類とかを買いたいと思えば、あらかじめ保護責任者の許可を得ないといけない。
それだと、一部の毒親が子供のお金を勝手に使ったりするんじゃない?と思う人もいると思うけど、そこら辺はシステムがしっかり整備されてて、基本的に保護者にできるのは上限額の設定だけで、引き出すのはあくまで本人にしかできない。
いずれ成人したら自己責任で使ってね?なんならいっぱい使って経済を回してね?たくさん納税してね?ということだ。
というか、あまり不自然なお金の動きがあったりすると、ダンジョン庁の監査が入ったり、児童相談所が介入して来たりとなるので、滅多に悪用されるようなことは無いらしいけどね。
因みに情報元はサリエさんと母さん。
母さんにはその内確定申告について相談に乗ってもらう事になってる。
多分、母さんの知人の税理士さんに頼むことになると思うけど。
(あ~、まあなあ)
(コンスタントに稼げるようになると、初めて会う親戚がやけに増えたりなあ…)
(税理士さんに頼むのが一番良いと思うぞ)
(とは言え、おかしなのに当たるとそれはそれで)
(お母さんの紹介なら間違いないんじゃね?元探索者なんだよな?)
…何が言いたいかと言うと、五百万円というのは(例え実際にはもっと稼いでいようとも)僕にとっても大金ということで…マナポーションを握る手が震えてしまってもしょうがないのだ。
「か、カナちゃん…いいの?そんなの使って…」
「い…いいの!」
「「駅前の『レヴェラン』で豪遊できる額だよ!」」
(うちの学校で人気の洋菓子店)
「豪遊どころか買い占められるけどね!えい!」
(キュポン!ゴクゴクゴク!)
「「「ああああ!」」」
(www)
(wwww)
(初々しいなあ…)
(ほっこり~)
(もう慣れちゃって味とか感じないよ…)
(…大丈夫?それポーション中毒になってない?)
委員長達の悲鳴をバックに封印を破ってコルク栓を開け、中身を一気に飲み込む。
…柑橘系の炭酸飲料みたいな味がする。
(シュウウ…)
柑橘系の酸っぱさが喉に拡がるのに合わせるように、喉の渇きが癒されるように魔力が回復していくのを感じる…体感で、6割くらい回復したかな?
思ったより少ない気もするけど…確かレベルによって回復量が違うんだっけ?
(Lv4で全回復しないって…どんな魔力量してんの)
(俺魔法職、Lv2を1本でもうお腹パンパン)
(それは少なすぎでは?魔法職なら《魔力量増加》とか覚えてないの?)
「…よし、委員長には『
「アタシは?」
「絵麻ちゃんは…もう魔法の杖は使い切ったんだよね?じゃあ悪いけど、煌と紅蓮を連れて隠れててくれる?」
「ミャ…」
「ガウ…」
煌は『リアライズ』で力を使い果たしたらしく、紅蓮もリペアで3人を庇った時の傷は塞がっているものの、精神的なダメージが大きかったらしい、2匹ともへばってしまっている。
「わかった、まかせて!」
─そんな訳で、委員長がクルセイド・センチビートを引き付けてくれている内に、僕はシルヴァーゴート・パラディンの元にやって来た。
「メ゛…」
半死半生で意識も無いようだが、かろうじてまだ生きているようだ。
そんな山羊の聖騎士の前に立った僕は、剣のようになった尻尾をその頭に突き付ける。
「許して欲しい…とは言わないよ、寧ろ怨んでくれていい」
自分で考えておいて何だけど、大概酷い事をしている自覚はある…それでも、4人で一緒に帰ると決めたんだ。
「…ピクッ」
その声が聞こえたのか、シルヴァーゴート・パラディンが微かに目を開く。
思わず目を背けそうになるが、
(いや…駄目だ、自分が殺す相手から逃げるな)
その目をしっかりと見つめ返す。
「山羊の聖騎士よ、これより汝を我が配下とする…拒否権は無い」
暫く見つめ合っていたが、やがてシルヴァーゴート・パラディンが辿々しく口を開く。
「…………ナヲ、オキカセ、ネガイタイ」
(喋れたのか…名前を?)
「奏、
高貴な騎士に失礼にならない様、言葉を選んで告げる…ファンタジー小説好きで良かった。
「オオ…ワガ、ヒメ、チュウセイヲ…チカイマス」
誰が姫かと思いつつ、そのまま尻尾を差し込んでトドメを刺す…次の瞬間、
《リアライズが発動しました》
《種族名:シルヴァーゴート・パラディンの眷属化を開始します》
《リアライズ》により、奏の新たな従魔として作り変えられるシルヴァーゴート・パラディン。
かつて人間だった頃の記憶が、彼の山羊のような瞳に映る。
銀色の毛並みに輝く聖なる鎧をまといながらも、彼の心は過去の重荷に沈む。
(私の名はかつて、※※◯✕だった。
聖騎士の誓いを立て、若き姫君、アリシアに仕えた。
あの可憐な姫は、戦乱の時代に希望の光だった。彼女の笑顔を守るため、私は剣を握り、命を捧げる覚悟だった。
だが…あの夜、魔王の襲撃を受けた王城で、私は無力だった。
炎に包まれた玉座の間、姫の叫び声が響く中、私の剣は敵の黒魔術に砕かれた。
彼女を救えず、ただ逃げることしかできなかった。私の失敗は、姫の命と王国を奪った。あの後悔は、今も私の魂を焼き尽くす炎だ。
神々の呪いか試練か、私は人間の姿を失い、山羊の聖獣へと変貌した。だが、この姿になっても、姫を守れなかった罪は消えない。
シルヴァーゴート・パラディンとして力を得た今も、心の奥で叫ぶ声が止まない。『なぜ、彼女を救えなかった?』)
(だが、今、私は新たな光を見つけた。奏様――私の新たな主。
彼女は、かつての姫とは異なる強さを持つ。戦場で舞うように魔法を操り、どんな絶望にも屈しない魂。
彼女は私を、ただの呪われた獣ではなく、聖騎士として再び認めてくれた。
その言葉は、私の凍てついた心に温もりを灯した。彼女の笑顔は、アリシアを思い出させるが、どこか違う――この姫様は守られるだけの存在ではない。
彼女は戦友であり、私の救いだ。
彼女のために剣を振るえば、過去の罪が許される気がする。
彼女のそばで戦うことは、私に新たな誓いを刻んだ。
『もう二度と、大切な者を失わない。』)
sarvant2:
skill:ホーリーマジック(new!) ウェポンマスタリー:ポールウェポン(new!) ウェポンマスタリー:タワーシールド(new!) ウェポンマスタリー:ヘビーアーマー(new!) リアライズ(new!)
Equipment:白銀の聖鎧、巨斧槍「神罰の断罪」、塔盾「不滅の守護」
「さあ、共に行こう!君の名前は…『
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