第21話 ゴーレムダンジョン

「…お恥ずかしいところをお見せしました」

サリエさんがどうにか正気を取り戻した。

…いや、叩いてないよ?

委員長は叩いてなかったかって?

…いや、あれはまあ…ちょっと身の危険を感じたので。


「それにしても…」

そう言いながら、サリエさんが僕の姿をまじまじと見てくる。

(うっ…)

「可愛い…(じゅるり)」

(じゅるりって何ですかじゅるりって!…やっぱり一度叩いて記憶を消しておくべきか?)

(ギリリ…パキパキ)

「おおっと、そろそろ真面目にやらないといけませんね?」

何か不穏な気配を感じ取ったのか、急にお仕事モードに戻るサリエさん。

(…チッ)

「カナデちゃんちょっと性格変わりましたよね?あ、でもSなカナデちゃんもそれはそれで…いじめてほしいかも…うへへ」

(すいません。真面目にやらせて頂きます)

心の声が駄々漏れですよサリエさん…いや、心の声と実際の声が逆になってるのか?


「はい、ではこれで善家志恵様、百井由麻様、百井絵麻様の登録を完了しました。以降はあちらのゲートにカードを翳していただければ…」

先日、僕と勇人も受けた説明を委員長達が受けるのを待つ。

…そういえば、なんでサリエさんがここに?

本来はセンター勤めで、こないだ初心者ダンジョンにいたのはヘルプで入っただけじゃありませんでしたっけ?


「…今、本部はショッピングモールダンジョン消滅の後片付けで大騒ぎでして」

何故か目を反らしつつ、サリエさんがそう言う。

「え?じゃあ尚更…」

本部にいないといけないのでは?

「…今帰ると、間違いなく今週は土日無しになっちゃうんですよね~」

それは…つまり…。

「逃げて来たんですね?」

「(´゚з゚)~♪」

口笛を吹きながら、聞こえないふりを続けるサリエさん。

(こ、この人は…)


「と、というか、カナデちゃん達こそそのお姿は?その服でダンジョンに入られるおつもりで?あまりお薦めはしませんが…いえ大変目の保養ではありますが」

あ、話を逸らした。


「あ、それなら…」

ここで委員長に交代し、3人が生産職であること、この服が彼女達が作ったものであり、それなりの防御力があることを説明して貰う。


「…まあまあ、お三方共生産職とは…あの、ちなみに作った装備を当庁に卸して戴く事って可能でしょうか?勿論それなりのお値段で…」

ほんとに、お仕事モードの時は優秀なんだなあ…。


そんなわけで、サリエさんに見送られながらゲートを潜り、ダンジョンへと入っていく。

通路を暫く進むと、やがて外の光が入ってくる。

…そこは、どこか高い山の中腹のような場所だった。

岩に覆われた山の斜面のあちこちに草原が点在し、岩場にはキラキラ光る小さな人影(ゴーレム?)がおり、草原の方にはモコモコした羊のような生き物が群れを成している。

「あれが、クラウドラムとクリスタルゴーレムかしら?」

「だと思う…ちょっと待って」

モンスト図鑑を起動して、スマホのカメラを向けてみる、この距離でもいけるかな?

(ピピッ!)

お、いけた。


名称: クラウドラム

属性: 風

分類: 精霊獣(小型)

出現場所: 風の丘、嵐の草原、浮遊岩の谷

レア度: ★★☆☆☆☆(コモン)

ドロップ品: 風の羽毛、雷の欠片、クラウドラムの毛皮

解説:クラウドラムは、風のエレメントを宿した小型の精霊獣で、羊のような姿とふわふわの白い体毛が特徴。風を操る能力を持ち、素早い動きで敵を撹乱するが、攻撃力は低く、軽い突進や風圧攻撃が主。単独または小規模な群れで行動し、嵐の気配を感じると活発になる。狩猟は比較的容易だが、動きの速さがやや厄介。「風の羽毛」は軽量な装備素材として利用される。穏やかな性格で、危害を加えなければ攻撃してくることは稀。


名称: クリスタルゴーレム

属性: 地

分類: 魔鉱物(中型)

出現場所: 結晶洞窟、岩石地帯、浅層鉱山

レア度: ★★★☆☆☆(レア)

ドロップ品: 結晶の欠片、魔鉱の塊、クリスタルダスト

解説:クリスタルゴーレムは、魔力を帯びた結晶から形成された中型の魔鉱物モンスター。体は半透明のクリスタルでできており、鈍い光を放つ。動きは遅く、単純な打撃攻撃や地面を叩く衝撃波を繰り出すが、攻撃パターンは予測しやすい。ダメージを受けると結晶の一部が砕け、周辺に小さな破片を撒き散らす。知性はなく、近くの魔力や侵入者に反応して動く。ドロップする「クリスタルダスト」は、初級の魔法装備や薬の素材として広く使われる。


「間違いないと思う。どう?」

「ええ、このモンスターだわ」

「でも、アーバンツリーアントがいないね~?」

「カナちゃんカナちゃん、あのずっと上の方に見えてる緑がそうじゃない~?」

絵麻ちゃんが指し示す方を見る。

(ギ…)

だいぶ遠いが、確かに緑色の枝?蔦?のようなものが蠢いているのが見える。

「多分そうだね、緑の植物っぽいのが動いてる」

「…この距離でよく見えるわね?」

そう言えば…元々視力は悪い方じゃなかったと思うけど、ここまではっきり見えたっけ?

視力が上がったのかな?


「じゃあ早速狩りに…」

「「まってまって、撮影するから!」」

あ、そうだった、それが目的だったね。

(ゴソゴソ…)

由麻ちゃんが鞄から取り出したのは、野球のボール程の黒い球体だ。

球体の回りにリング状に透明な球体が埋め込まれている。

「これがカメラ?」

「そう!これが≪ダンジョン・アイズ≫!ダンジョン配信の為に作られた魔法工学の結晶!(ピッ!)」

由麻ちゃんが手元で操作すると、黒い球体がふわりと浮かび上がり、埋め込まれていた小さな球体が外れ、衛星のように周囲を回転し始める。

(フォン、フォン)

「おお…」

「このダンジョン・アイズは、ダンジョン探索をリアルタイム配信するために特化した魔法工学カメラ、過酷なダンジョン環境や魔力干渉に耐え、視聴者に臨場感を提供する高性能デバイスなの!」

「お、おう…?」

由麻ちゃんが急に早口でダンジョン・アイズについて説明をしてくれる。

…ここだけの話、由麻ちゃんと絵麻ちゃんの区別がはっきりついてなかったんだけど(酷い)今のではっきりわかったかもしれない。

「…更に!この≪ダンジョン・アイズ≫は『魔力耐性コーティング』によりダンジョン内の高濃度魔力や魔法攻撃による電磁干渉を無効化。炎、雷、氷などの属性ダメージにも耐える防水・耐衝撃設計(耐久度:ミスリル級)!更に『オートトラッキング・マルチアングル撮影 』によりAI搭載の自動追尾機能で、探索者の動きや戦闘を最適なアングルで撮影、360°回転レンズとドローン型サブカメラで死角なしの映像を提供!更に視聴者リクエストに応じてアングル切り替え可能!(例:主観視点、俯瞰視点、モンスター視点)他にも…ゴホゴホッ」

由麻ちゃん由麻ちゃん、もうその辺で…。

由麻ちゃんは機械オタク、はっきりわかんだね。


「「ようこそしもべ達、闇の宴へ! ダークツインズのユマ(エマ)よ!今日はゴーレムダンジョンを攻略するわ!」」

ダンジョン・アイズのARオーバーレイが、ゴシック調のフレームと彼女たちのステータス(ユマ:宝石職人ジュエルクラフター、エマ:木工魔術師ウッドウィザード)を表示。

視聴者コメントがホログラムでポップアップし、「ゴスロリ最高!」「双子カッコいい!」と盛り上がる。


「…は~」

「カナちゃんはこういうの見てないの?」

端でその様子を見ていると、委員長がそう聞いてくる。

「存在は知ってたけど…あんまり。あの委員長?」

「何かしら?」

「いや、いつの間にか呼び方が…繰生君からカナちゃんに変わってるような…」

「…嫌だった?」

「いやいや、そんなことは無いよ!うん、大丈夫!」

というか委員長、なんだか妙に距離が近くない?今だって身体が触れ合いそうなくらい近いし…いや、あの委員長?さりげなく身体を擦り付けてくるのは…。


「は~い、それじゃあ今日は、前回予告で語った通り、ダンジョンアタックをやっていきたいと思いま~す!」


(マジか)

(探索者適性得たってこと?)

(でも大丈夫?あからさまに≪生産職≫ぽいけど)

(流石に生産職だけでダンジョンはやべえよ)

(前衛がいないとな~)


ARオーバーレイが視聴者達の双子を心配するメッセージを流す。

それを見た二人はニヤリと悪そうな笑みを浮かべ。

「「ふっふっふ…このユマ(エマ)ちゃんがそれぐらいのことを考えてないとでも?」」


(おお!)

(またなんかろくでもないこと考えてる…)

(悪い顔かわいい)

(( -_・)?ということは…?)

(誰か助っ人でも雇ってきた?)

(俺に言ってくれれば…!)

(↑探索者?)

(いや、一般人バンピー

(駄目じゃねーか!)


「「そのと~り!今日は同じクラスの探索者友達に来て貰いました~!カナちゃ~ん、どうぞ~」」

(………うえっ?)

いきなり双子に呼ばれて、おたおたしている内にダンジョン・アイズの前に引っ張り出される僕。

「ちょっと待って!台本とか…」

「「だいじょーぶだいじょーぶ、こういうのはノリだから!」」


(www)

(w流石に段取りくらいw)

(事前に打ち合わせしといてあげなよ…ww)

(www草不可避www)

(お?これは…)

(ユマエマとはまた違う方向性の可愛さ…)

(おたおたしてるの可愛い)

(白黒ツートンカラーのゴスロリ…いい!)

(腰ほっそ!ちゃんと内臓詰まってる?)

(黒髪美少女来た~!これで勝つる!)

(スタイルいい~羨ましい!)


次々に目の前を流れる文字に軽くパニックになっていると、双子が右手と左手にそれぞれしがみついて来る。

「「ほらほらカナちゃん!しもべ達にご挨拶~!(本名はいいから、カナちゃんで統一ね?それと顔は本人とはわからないようにAIが補正してくれるから!)」」

腕にしがみついたまま、ユマがそう耳打ちしてくる。

…あっぶな、思わずフルネーム言いそうだったよ。


「ええと…只今ご紹介に預かりましたカナです。今日は2人にレベル上げと素材収集の手伝いを依頼されて来ました…」

「「カナちゃん固~い!緊張してるう?」」

(誰のせいだよもう!)

「あはは…こういうの初めて何で、トチっても許して下さい」


(許す許す!)

(俺、ダークツインズよりこっちの方が…)

(はいは~い、質問!カナちゃんの職業は?)

(差し支えなかったらでいいよ~)

(武器とか持ってないし、魔法使いか?)

(こらこら、あんまスキルとか聞くのはマナー違反だかんな?)


(え~と、まあ少し位は良いか)

「職業は、≪ぬいぐるみ使い≫です。おいで、煌、紅蓮」

僕の呼び声に応えて、そこら辺をチョロチョロしていた煌と紅蓮がやって来て、するすると僕の肩の上に乗った。

「ほら、ご挨拶」

「ミャー!」

「ガウー!」


(うおおお?テイマー?)

(なにこれ、なにこれえ)

(可愛い!)

(生きたぬいぐるみ?)

(ドラゴンと…毛玉?)

(オーガっぽい?)

(カナちゃんが操作してる…訳でもないよね?動きが自然すぎる)

(おいおい、まだ世間に知られていない新しい職業じゃねーか!)

(ダンジョン庁のデータベースにも無いぞ!)

(マジか、検証班とダンジョン庁は大騒ぎだな)

(ちょっとー!今日でもう3徹目だってのに…なんつう爆弾を…)

(あ)

(あっ)

(あっ)

(…お疲れ様ですww)

(知り合いにダンジョン庁に勤めてる奴がいるんだけど…今あそこ、こないだいきなり現れて1日で消えたショッピングモールダンジョンの事で絶賛デスマーチ中だって)

(担当は誰ーっ!今すぐ報告書上げなさーいっ!)

(配信のコメント欄を仕事に使うなしwww)


(やば、余計なこと言っちゃった?)

…サリエさんにはわかる限り話してあるし、おまかせしよう。























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