第20話 Dungeon Tuber

「Dtuber(ダンチューバー)?」

「「うん!」」

改めて話を聞いてみれば、もともと由麻と絵麻は配信者をしているのだそうだ。

委員長が作った可愛い服を着て、歌ったり踊ったり色々やっていたらしい。

当然、探索者適正検査にも“適正あり”を期待して挑み、晴れて探索者となった暁には、Dtuberとして華々しくデビューして、人気Dtuberとなった2人は、やがて芸能事務所にスカウトされてアイドルへの道を…とか考えていたらしい。


「…さすがに、皮算用が過ぎるのでは?」

「あはは…」

というか、委員長は?

委員長もやっぱりDtuber志望?

というか委員長、服とか作れるんだ。

「あ~うん、将来は服飾の専門学校行こうかなって…私はDtuberには興味は無いわよ?ただ、自分のデザインした服を可愛い女の子に着て欲しいだけというか…(モニョモニョ)」

おお…すごいな委員長、今からもう将来のこと考えてるんだ。

…最後の方、なんて言った?


だが検査結果は知っての通り“適正なし”。

それでしばらくは凹んでいた双子だったが、今回の件で探索者適正が生えてきたことで、今度こそ…という状況らしい。

「「ただ、自分達だけでダンジョン行くのはちょっと怖ーい、そこで!奏ちゃんに白羽の矢が立った訳!」」

そう言って僕をビシッ取指差す双子。

「こらっ!、むやみに人を指差すんじゃ無いの!」

「「ごめんなさい~」」

「ミャ~!」

「ガウ~!」

何が面白いのか、煌と紅蓮も一緒にごめんなさいしている。


「成る程、つまり2人がダンジョンの中で委員長達が作った服を着て戦ってる所を撮影したいから、僕に護衛をして欲しい…ってことでいい?」

「「「………」」」

んん?何だか3人の視線が…こっちを…。

「…え?僕も?」

「「「うん!」」」


「ちょ、待って待って!」

「「まわりこめー!」」

「ミャー!」「ガウー!」

「大丈夫!ちょっとだけ!ちょっとだけだから!先っちょだけだから!」

委員長!その台詞は誤解を招くと思う!

「ちょ、まって、ぎゃーっ!煌!紅蓮!どっちの味方ーっ!」


部屋の片隅にある大きな姿見の前に立たされた僕――いや、今は「私」か――は、目の前の光景に息を呑んだ。黒と白のフリルが幾重にも重なったドレス、まるで菓子細工みたいに繊細なレース、裾から覗くペチコートのふわっとした膨らみ。ゴスロリって、こんなに…重装備だったのか?


「ほら、じっとして、 まだリボン全部結んでないから」

背後でせわしなく動く委員長の手が、私の腰の辺りで何かをぎゅっと締める。

コルセット? いや、ただの飾りベルトか? よくわからんけど、なんか息苦しい。

鏡に映る自分の姿は、まるで別人だ。

肩まで伸びた髪はゆるくカールされ、頭には黒いリボンのヘッドドレスがちょこんと乗ってる。

顔だって、薄く化粧されてるせいで、いつもより目がでかく見える。

…これ、ほんとに僕か?


「う、うわ、なんか…これ、動きづらくない?」

思わず口に出すと、委員長がくすっと笑う。「最初はみんなそう言うのよ。でもね、慣れるとこれが癖になるんだから! ほら、ちょっとくるっと回ってみて!」

回る? この服で? スカートの裾がふわっと広がるのを想像して、なんか恥ずかしさがこみ上げる。

頬が熱い。

鏡の中の少女が、明らかに動揺してるのがわかる。

自分なのに、自分じゃないみたいだ。

「いや、でも…こんなの、僕――私、似合わないんじゃ…(モジモジ)」

「何言ってるの!すごく可愛いわ!」

委員長がぱっと肩を叩いて、強引に私の手を引く。

「ほら、ちょっと外出てみよ?(はあはあ)ほら、ね?ちょっとするだけだから」

(カチャ)

「え、待って、外!? この格好で!?その首輪とリードは何?ちょっとーっ!」


「あーあー、委員長、完全にスイッチ入っちゃってるよ」

「私たちの着せ替えしてる時もたまにああなるのよねえ」

「ミャー?」「ガウウ…(ぶるぶる)」

「ちょっと2人とも!見てないで止めてー!」


「ぜえ…ぜえ…」

「…申し訳ございませんでした」

(プシュウウ)

…何とか委員長を押し止めることには成功した。(力ずくで)

(あ、危なかった…危うく新しい扉を開いてしまう所だった…)

「本当だよ!まさか委員長にこんな趣味があるとは思わなかったよ!」

「どんな罰でも受けます…裸になって街を歩けと言うならそうします…(はあはあ)全裸土下座でも何でもしますのでどうか、どうか平にご容赦を…(はあはあ)」

「罰になってないよね?てかちょっと興奮してるよね?脱がなくていいから!正気に戻って~!」

マジか…まさかあの委員長にこんな一面があったとは…。

もう一度叩けば直るかな…。


「カナちゃーん、勘弁して上げて~」

「いいんちょ、普段真面目すぎる反動で、たまにこうなっちゃうの~」

…君らも手伝ってたでしょうが!なに他人事みたいに言ってんの!

「「きゃ~、おしおきされるう~、にげろ~」」

「ニャ~」「ガウ~」

…ああもう、めちゃくちゃだよ。


それで、ダンジョンに行くのは良いとして、どこのダンジョンに行くつもりなの?

「それなんだけど、こことかどうかなって」

そう言って正気に戻った委員長がスマホの画面を出してくる。

「ええと…○○町の…ゴーレムダンジョン?けっこう近いね」

「ええ、ここから近いのもだけど、ほら、私達は生産職でしょう?色々作るのにダンジョンのドロップ品が必要なんだけど…3人それぞれの必要な物がここで拾えるみたいなの」


服飾魔術師テイラーメイジが使う魔獣系の羊毛はクラウドラムが。

宝石職人ジュエルクラフターが使うゴーレム系が落とす宝石の原石はクリスタルゴーレムが。

木工魔術師ウッドウィザードが使う植物系が落とす木材はアーバンツリーアント。

がそれぞれドロップする。


「あ、勿論素材が手に入って、装備が作れたらカナデちゃんにもプレゼントするから」

「ん?だとすると、今着てるはは?市販の品?」

それにしては、うっすら魔力というかオーラというか、何かを帯びてる感じもするけど。

「ベースは市販品だけど、今使える≪スキル≫で多少強化してあるわ。初心者用装備よりはましな筈よ」


「じゃあ早速行きましょ!」

「「おー!」」

「ミャー!」「ガウー!」


「おー、って、ちょ、ちょっと待って!このまま行くの?着替えてから…」

「あ、そうね」

危なかった…うっかりそのまま出掛ける所…あの委員長?

「なに?」

いや…どうしてここで脱ぎ始めるの?

「どうしてって…私服で行くわけにもいかないでしょ?私達も着替えないと」

「それはそうだけど!こないだまで男だった相手の前であっさり脱がないでよ!」

そうじゃなくて、私服で行って、向こうのロッカーで着替えればって話で…。

やばい…慌てて目を瞑っても、委員長の白い肌が瞼の裏にちらつく。

てゆうか委員長、着痩せするタイプなんですね…。

「別に恥ずかしがらなくても…私達もさっきカナデちゃんの肌を見せて貰ったから、おあいこよおあいこ」

そうかな…そうかも…?

「「あたし達のもみる~?うりうり」」

「(スン)いや、幼児体型おこちゃまは別にいいです」

「「ぶー!」」


そうこうしてる内に3人の着替えも完了する。

一応マナーとして部屋を出ようとしたら、何故か引き止められたので、必死に目を瞑って、意識を飛ばして耐える。

…何だか…すごくいい匂いがする。

「もう目を開けてもいいわよ?」


思わず振り返ると、そこには見慣れたはずの委員長が立っていた。

いや、委員長…なのか? いつも地味なブレザーに、眼鏡の奥で真剣な目をしたあの委員長が、こんな姿になるなんて。


委員長は、漆黒のゴスロリドレスに身を包んでいた。フリルのついたスカートは膝下まで広がり、胸元には緋色のリボンが蝶のように結ばれている。袖口のレースはまるで蜘蛛の巣のように繊細で、彼女の細い腕を飾っていた。

髪は普段の地味なポニーテールではなく、黒いベール付きのヘッドドレスにまとめられ、まるで夜の貴族のような雰囲気を放っている。

眼鏡すら、シルバーのチェーンが揺れるアンティーク調のものに変わっていた。


「ふわあ…」

「ふふ、驚いた?」

委員長はクスクスと笑い、扇子をパチンと開いて口元を隠した。その仕草が、まるで舞台の女優のように優雅で、僕の心臓はドキリと跳ねる。


「「カナちゃーん! 見て見て、準備できたよー!」」

もう大分聞き慣れた元気な声が聞こえて振り返ると、そこにはいつも騒がしい双子の姉妹、由麻(ユマ)と絵麻(エマ)が立っていた。

…いや、立ってるってレベルじゃない。

まるで闇の貴族の姉妹が降臨したかのような姿だった。

由麻は、深紅のゴスロリドレスに身を包んでいた。

スカートの裾には黒いレースが重なり、胸元のコルセットには銀のチェーンが揺れている。

髪は普段のツインテールが、黒いリボンと赤いバラの髪飾りでゴージャスに変身。

手に持った小さなパラソルは、まるで魔法の杖のように先端が微かに光っていた。


一方、絵麻は蒼いゴスロリドレスを選び、袖口と襟に白いフリルが波打つデザイン。

彼女の髪はゆるいウェーブに整えられ、銀のティアラが月光のように輝く。

双子なのに、対照的な色使いが妙に調和していて、まるで鏡写しの絵画のようだ。


「…ふわあ。3人ともすご…」

「ふふ、じゃあ行きましょうか」

少し陶然とした僕は、委員長に導かれるまま、ゴーレムダンジョンに向かって


「おじゃまします!」

「わひゃっ!」

ゴーレムダンジョン併設の買取所のドアを開けて中に飛び込む。

「はあ…はあ…う、ううーっ」

しばらく自分で自分の身体を抱きしめて羞恥に悶える。

…歩き出してからしばらくして、自分がゴスロリ服のままだということに気が付いた。

途端に周囲から刺さってくる視線、視線、視線!ううーっ。

さっきまで何も感じなかったのに、気がついた途端、視線が全身に突き刺さるような気さえする。

(はあ、はあ、はあ)

(ドクン、ドクン、ドクン)

羞恥心で心臓が破れそう…。

思わず委員長の手を振り払ってダッシュ、目に入った買取所に飛び込んだんだけど…。


「だ、大丈夫ですか?え?カナデ…ちゃん?」

異様な様子を心配したのか、カウンターにいた職員さんが近づいてくる。

…あれ?この声って…サリエさん?

何でよりにもよって…。

「あ、あの、これにはですね、訳が…」

半ばパニックになりながら、言い訳をしようとする僕だったが、それよりサリエさんの反応の方が早かった。

「……………うっ(ブシュウウウ)」

サリエさんがいきなり鼻血を吹きながら昏倒した。

「ぎゃーっ!サリエさーん!」


「「カナちゃ~ん、そんな逃げなくてもいいじゃ~ん…え?」」

「…殺人事件?」

「ミャー」「ガウウ~?」

遅れてやって来た3人+2匹がドアを開けて入ってくる。

ああうん、状況だけ見ればそうとしか見えないよね。

「ふざけてないでちょっと手伝って!」

とにかくサリエさんを担ぎ上げて近くのソファに寝かせる。

「私、掃除道具探して来るわ!」

「「手伝う!」」


とりあえず、できる限り血を拭いて、鼻腔に詰まった血を出させた後、≪リペアⅡ≫を使用、外傷が無くても効くのかな。

「う、うん…」

「あ、気がついた」

まだぼんやりしてるようだが、頭を振りながら起き上がるサリエさん。

「あ、あれ?どうしたんでしょう私、恥じらいの表情を浮かべたゴスロリ服のカナデちゃんが見えたような…幻覚?」

「まあ幻覚ではないですが」

「…………うっ」

「何で気絶するんですか!≪リペアⅡ≫!や、やっぱりおかしいですよね?こんな格好…」

するとサリエさんが飛び上がるように起き上がる。

「とんでもございません!最高に可愛いです!あ、写真撮って良いですか?1時間おいくら位でしょう?金なら払います!」

…治った、のかなあ?


(あら、お仲間…かしら?)

…なんだろう、委員長から嫌なオーラというか、気配というかがしているような。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る