第12話 ダンジョン発生
side:善家 志恵(ぜんけ ゆきえ)
ああ…参ったなあ。
友達と遊びに来たショッピングモールで、変なのに絡まれた。
「ユ、ユキエちゃん…」
「どうしよう…」
後ろに庇った2人、双子の百井 由麻(ももい ゆま)と絵麻(えま)が怯えた声をだす。
最初はほんのちょっとしたことがきっかけ。
久しぶりの外出でテンションの上がったユマが前を見ずに歩いて、こいつらにぶつかってしまったのだ。
「あいってえ~、折れたかも~」
「ひでえことしやがるなあ。こりゃあ優しく治療して貰わねえと収まらねえなあ~」
…ちゃんと謝ったし、そもそも彼らが探索者だと言うなら、女の子がぶつかったくらいで怪我などする筈もない。
難癖つけたいだけでしょうに…これだから探索者なんて嫌いなのよ!ちょっと特別な力があって、ダンジョンから資源を持ち帰ってくる存在だからって依怙贔屓されてさ!
「おい、聞いてんのかよ!」
(ガッ!)
頷かないこちらに業を煮やしたのか、とうとう手を出して来た。
ああもう、誰か助けなさいよ!
どいつもこいつも見て見ぬふりでさあ!
(…スッ)
「あの、止めませんか?こういうの、嫌がってますよ」
「………え?繰生君?」
そこに居たのは、クラスメイトの男子、繰生奏君にそっくりの女の子だった。
え~と、参ったな。
特に考えもなく飛び出しちゃったけど…。
「おお?なんだあ?こっちの方が可愛いじゃねえか…お嬢ちゃんが遊んでくれるのかあ?」
う…なんか凄く気持ち悪い、生理的に無理。
「あの、止めませんかこうゆうの?」
「ああ?」
「貴方達も探索者なら、一般人に手を出したらどうなるか知ってるでしょう?未成年だろうと関係なく罪に問われますよ?服役したいんですか?」
「ああ?可愛い顔してずいぶん生意気じゃねえか(ピキピキ)」
図星を突かれた…或いは年下の子供に正論を説かれたことを恥と感じたのか?どうも余計に怒らせてしまったようだ。
「あ、貴女!駄目よ逃げて!」
「生意気なガキには躾が必要だよなあ…オラっ!」
うわ、マジかこいつ、女の子の顔を殴るつもり…あれ?やけに遅いな?
………んー、どうしよう。
避けるのは簡単だけど、そしたら余計に怒るよねえ…いっそ一発殴らせようか?
こんな遅いパンチなら入っても対して痛そうじゃないし…よし、受けてみよう。
「らああっ!」
そんなことを考えてるうちに、漸く拳が迫って来たので、上手くおでこに当たるように調整して…。
(パシッ!)
……あれ?衝撃が来ない?
顔を上げて見ると、当たる直前の拳を誰かが掌で受け止めている…って、この白い髪は。
「あっちゃん?」
「あっちゃんは止めろって…あ?」
なんと、男のパンチを受け止めたのは、僕の幼馴染みの一人、虫賀 敦(むしが あつし)だった。
「お前…カナデか?いや、カナデは男の筈…?」
いけね、ついまた昔のあだ名で呼んじゃった。というか、この状況はつまり…
「あっちゃん、助けてくれたの?」
「だからあっちゃん言うなって…お前、カナデか?なんで…その格好…」
「あー、その、話すと長くなるというか…それより、その人放っといていいの?」
あっちゃ…アツシと僕に放置される形になった男が顔を赤くしてプルプルと怒りに震えている。
「てめえら…随分余裕じゃねえか…彼女のピンチに颯爽と駆けつける王子様かあ!死ねやこのリア充がああああ!(メキャッ)痛でででっ!ぎゃああああっ!腕、腕が折れるうっ!」
アツシ、それ以上曲げると折れちゃうから、人間の関節はそっちには曲がらないから。
因みにアツシもユウトと共に、子供の頃からお爺さんに鍛えられてる。
腕前は…互角くらいかな。
「うるせえ!人がしゃべってる途中だろうが!あと誰が彼氏だ!」
どうにか腕を振りほどき、アツシから慌てて離れる男。
「あ、兄貴!大丈夫ですか!」
「うぐう…て、てめえ…俺を探索者クラン
「知るか、失せろ」
「ギギギ…嘗めやがって…もう只じゃすまねえぞ…」
「かかってくんならさっさとしろや、こっちも暇じゃねえんだ」
アツシ…それ以上煽るのは止めてあげて。
「こっちです!こっち!」
そうこうしてるうちに誰かが警備員さんを連れて来たらしい。
「…チッ!覚えてろこのリア充が!」
「夏休みに彼女とショッピングモールでデートとか…爆発しろ!」
「女の子に怖がれそうな見た目の癖に、実はぶっきらぼうな優しさを見せるとか…呪われろ!」
「うるせえわ!誰がリア充だ!」
だいぶ個人的な恨みが籠ってそうな捨て台詞を残して3人が去っていく。
流石に不味いと気付いたらしい。
この状況で補導でもされた日には、探索者資格の停止もあり得るんだから、そりゃそうなんだけどね。
「て言うか、アツシも結構やばいと思うけど…」
「先に手え出して来たのはあっちだ。正当防衛を主張する…んで、説明しろ」
「私も聞きたいわ」「「私も」」
警備員さんに事情を説明に行っていた委員長達が戻ってきた。
あー、そりゃ説明がいるよねえ。
とりあえず、フードコートの席に座り直して、昨日からのことを説明していく…と言っても、慧竜族関係の事は秘密にしてるように言われているので、だいぶぼかした伝え方に成らざるを得なかったが。
「ドラゴンと人間のハーフ!」
「「すごーい、ラノベみたーい!」」
「……………」
まあ驚くよね。
そしてアツシはどうした?急に黙っちゃったけど。
(マジかよおお…こんなことなら焦って告白しなくても、ちゃんと女の子になってからにすれば…俺のバカ野郎…)
ショックを受けた様子で何かボソボソ呟いている…本当にどうした?
「「ねねね、じゃあ新学期からは女の子で学校来るの?」」
「う、うん。何か、そういう人の為の制度があるんだって」
「そう…何か困ったら言ってね?出来る限りの事はするわ」
因みに先程から2人同時に喋っているのは、クラスメイトの双子、百井 由麻と絵麻だ。
この2人、委員長と仲良いんだ…ちょっと以外だった。
…その喋り方どうにかならない?
どっちか片方に話しかけても両方から返事が帰ってくる…どっちがどっちか分かりにくい。
「…因みに、微妙に先に喋り出すのがユマで、続いて喋るのがエマよ、慣れるとわかるわ」
「「どっちがユマ(エマ)かな~?」」
成る程…いやわからんわ!見た目で分かるようにしてよ!
「ふふ」
「委員長?」
「ごめんなさい。でも繰生君、だいぶイメージが違うなって」
「イメージ?」
そう…かな?確かに委員長や百井姉妹とこんなに話した事は無かったけど。
「こう言うとなんだけど、いつもは神屋君や虫賀君の影に隠れて目立たなかったと言うか…」
そう言われると、そうかも。
「でも、今日の繰生君は私を助けようとしてくれたし…今の方がいいと思うわ」
「あ、ありがとう…?」
あれ、なんだか顔が熱いな。
「…そういや、あのでかい番犬はどうした」
「ああ、ユウトなら…」
昨日のダンジョンでの出来事を話す。
「スライムに負けて修行のし直しだあ?…あの熱血バカは…」
只のスライムじゃ無かったんだけどね。
「そういうアツシはあれから何処のダンジョンに行ったの?初心者用ダンジョンにはいなかっ…」
(……ユラッ)
その時だった。
いきなり何か、振動の様なものを感じる。
「ミャーッ!ミミミ…」
同時にトイボックスの中から煌が飛び出し、何かを警戒するような仕草をしている。
「きゃ!」
「「何これ?可愛い~」」
委員長も双子も何も感じてない?アツシの方を見ると、
「今の、感じたか?」
「うん、あ、この子は僕の従魔で煌、モンスターだけど、大丈夫…委員長!」
「え?」
気がつけば、委員長の後ろに緑色の小鬼のようなモンスターが立って、手に持った棍棒のような物を振り下ろそうとしている。
(ギャッ!)
(バシュッ!)
当たる寸前で委員長の手を取って引き寄せると同時に、煌の放った光線がゴブリンの頭を消し飛ばした。
「ひいいっ!」
「「きゃーっ!」」
「大丈夫!落ち着いて!」
突然の惨事に委員長達は真っ青になって震えている…無理もない。
「アツシ…何が起こってると思う?」
「わから…うおっ!」
(…ゴッ!ゴゴゴゴゴッ!)
先程とは比べ物にならない振動がまた襲って来る。そして気付けば、何処から現れたのか、僕らは周囲を緑色の小鬼達に囲まれていた。
「何処から?」
「わからん…が、カナデ、お前戦えるな?」
「う、うん」
そういえば…不思議だ。
こんな状況なのに、怖いとも感じない。
「…やれるんならいい。委員長達をカバーして脱出させんぞ…できるな?」
後ろで震えている委員長と双子を見る。
「大丈夫…守るからね?信じて着いてきて欲しい」
「繰生君…うん。2人とも立って、逃げるよ」
委員長、こんな状況でも双子を抱きしめて安心させようとしてくれている。
自分だって怖いだろうに、流石だ。
今僕らがいるのは2階のフードコート、エスカレーターがこの状況で使えるとは思えないから、普通に考えれば階段を下って、西口ゲートから出れる筈。
そう考えていた僕らだったが、どうやらその目論見は完全に外れた…というか、
「ここ一体どこ?このショッピングモールは3階建だったよね?」
どういうわけか、階段をいくら下りても1階にたどり着かないのだ、それどころか、階数表記は見たこともない文字になり、階段の外は緑色の小鬼が彷徨く、廃墟のような世界になっている。
「考えたくは無かったが、こりゃあ…」
「?」
「ダンジョンだ、どういうわけか、このショッピングモール全体がダンジョン化してやがる」
そんな!夏休みの真っ最中だよ?一体何人のお客さんがいたと…それに母さん…はぐれたままだけど、大丈夫だろうか?
昨日の話だと、母さんも探索者らしいから、大丈夫だとは思うけど…。
「そういえば、委員長達は3人で来たの?あっちゃんは…」
「私達は3人よ」
「俺は1人だ」
それならいいか…いや良くは無いけど、それにしても他の人を全く見ないな?
出てくるのは緑色の小鬼(不確定名ゴブリン)ばかりだ。
「ミャーッ!」
(ビシャアアッ!)
次々と出てくるゴブリンを煌の拡散レーザーが貫き、纏めて炭にしていく、凄いね煌、新技?
「煌…ちゃん?すごいわね、こんなに小さいのに…(ナデナデ)」
「ミャー」
委員長にだっこされた煌が撫でられて喜んでいる…君、誰の従魔か忘れてない?受け入れられたようで何よりだけれども。
「そういえば…アツシの≪職業≫は何なの?」
さっきから手に握り込んだ、爪の着いた輪みたいな武器(バグナヴだっけ?)でゴブリンの首を次々と掻き切ってるのは凄いと思うけど…何、アサシンなの?暗殺者なの?
「ああ?いや、俺は…≪蟲使い≫だ」
蟲?でも、さっきからずっと自分で戦ってるけど?
「従魔を呼んでもいいけど…」
委員長達の方を見て。
「…お前ら、でかい飛蝗とか大丈夫か?」
「「「え」」」(委員長+双子)
「…そうなるだろ?だから出さずにいたんだが…この状況なら、出した方がいいのは確かなんだよな…」
聞いてみると、飛蝗達は一体一体はそれ程強くない変わりに、数を出せるらしい。
戦闘もこなせるし、何匹か生き残りの捜索に行かせてもいいし、委員長達のガードに着ければ煌が自由に動ける。
「つうかカナデは…うん、聞くまでも無かったな」
「…え、何?」
(ゴキッ!)
ゴブリンの首を作業的に捻切っている僕に、アツシが何か言いたげな視線を向けてくる。
委員長達も軽く引いてる気がする…自分でもちょっと引いてるけど、不思議な事に全然怖くも無いし、寧ろ自分の力を振るうのがちょっと楽しくなってきてるというか…これが竜の血の成せる技なのかな。
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