第39話 三者面談
対抗戦を三日後に控えたある日。
いつも通り、俺とマリウスは屋敷の闘技場で訓練をしていた。
すると、魔力回復のための休憩に入るタイミングで闘技場の扉が開く。
そして、こちらの様子をそーっとうかがいながらフローラが入ってきた。
彼女は俺たちが休憩しているのを見ると、こちらへ歩いてくる。
「どうかしたか?」
俺が尋ねると、フローラはマリウスに軽く会釈してから答える。
「お兄様が魔法学校の方と訓練をしておられると聞いたので、ぜひご挨拶したいなと思ったんです。少しだけよろしいですか?」
「ちょうど休憩のタイミングだ。構わない」
「ありがとうございます!」
フローラはぱっと顔を輝かせると、座っているマリウスに身体を向けた。
そして貴族の名家の娘らしく、凛とした声と姿勢で挨拶をする。
「初めまして。フローラ・キルシュライトと申します。アルガ・キルシュライトの妹です」
「えっと、マリウスです。アルガくんとは同じクラスで……友達? です」
マリウスも立ち上がろうとしたが、魔力切れでまだ思うように動けない。
仕方なく、彼は座ったままフローラに返事をした。
まあフローラも、いちいちそんなことに目くじらを立てるような人間ではないから、何の問題にもならないけど。
フローラのことだから、だいぶ前から俺がここへマリウスを連れてきていることには気づいていたはずだ。
きっと、声をかけるタイミングをずっと探ってたんだろうね。
「お兄様に、こうして屋敷へお連れになるほどのご友人ができるなんて……とても嬉しいです」
「友人だから連れてきたわけではない。あくまでも、マリウスを鍛えられる人目につかない場所の最適解がここだったまでだ」
「ははは。アルガくんらしい答えだね」
マリウスは苦笑いを浮かべつつも、穏やかな声でフローラに言う。
「アルガくんには、すごく助けられてます。実際、アルガくんと修行を始めてから、着実に強くなってる感覚がありますし」
「さすがお兄様です! そうなんですよ! お兄様ってアドバイスとか人を指導するのがすごく上手なんですよ!」
「本当にそう思います! あとは、どうしてそんなことまで知ってるんだろうっていうくらい、すごく知識が深いというか……」
「分かります!」
何だかよく分からないところで、フローラとマリウスが意気投合している。
まあ休憩中だし、言われてて悪い気はしないし、しばらく放置してみるか。
マリウスとフローラが交流を深めるのだって、プラスになるかはともかくマイナスにはならないはずだし。
「お兄様とはどういう経緯でお知り合いに?」
「もともとはヴァルエ王立魔法学校のクラスメイトで、クラス内で対抗戦をやるってなった時に、アルガくんがコンビを組もうと声をかけてくれて……」
「お兄様の方からですか!?」
「う、うん。アルガくんにとっては、それも僕と組むことが“最適解”だったからってだけらしいですけど」
「それはきっと、マリウス様の中に、お兄様が認めるほどの才能を見出されたということです。」
「そ、そうだといいんですけど。でも、組んでもらったからには、アルガくんの期待に応えて貢献できるように頑張るつもりです!」
マリウスはそう言いながら、ぎゅっと拳を握ってこちらを見る。
何だかやけに目がキラキラしているな。
こういう時、アルガのキャラでどう反応したら良いのか分からない。
だって原作のアルガは、誰かから好意的な感情を向けられることなんてなかったもん。
だからいつも、軽く「ふん」と言うだけで終わってしまう。
俺が思ってるだけなんだろうけど、完全に謎のツンデレキャラだ。
ちょっとこれは、そのうち何とかしないといけないかもしれない。
「ちなみに……」
フローラは何かを言いかけてから、ちらっと俺の方を見る。
そして一瞬だけ何かを考えたあと、マリウスに視線を戻して続きの言葉を紡いだ。
「学校でのお兄様って、どのような感じで過ごされてますか?」
妹よ、どうしてそれを聞く前に兄を一回見たんだ。
そんなことを聞いたからといって、怒るようなことはないから安心しなさい。
まあ確かに、俺は屋敷ではほとんど学校のことを話さないから、聞いていいのか少しためらった気持ちは分からないではないけども。
「学校でのアルガくん……えっと……」
マリウスは頭に手を当てて、学校での俺の様子を思い返しながら話し始める。
「やっぱりアルガくんは優秀だから、授業で先生に当てられた時とかもしっかり正しい答えを言ってて、全然間違えないです。いつも自信満々って感じがします」
「おー、さすがお兄様です」
段々と、生徒と保護者と教師の三者面談でもしている気分になってきたな。
何なんだこれは。
フローラとマリウスが絡むことで、こんな方向に会話がいくとは思わなかった。
「マリウス様以外にも、お兄様のご友人はいらっしゃるんですか?」
「ビアンカとエミーリアとは、話してるところを何回か見た気がします」
「エミーリア……第一王女のエミーリア様ですね?」
「そうです。あ、えっと、一応学校外だからちゃんと様で呼んだ方がいいのかな?」
「気にするな」
マリウスの視線がこちらを向いたので、俺は三者面談に口を挟む。
「エミーリアは、学生である限りそこまで厳格に学校内と学校外を分けるような性格ではない。それにそもそも、ここを学校外とするなら、お前は俺にかなり馴れ馴れしく接していることになるぞ」
「あ、そうだった」
「まあ、学生だなんだと関係なく、世間一般的な“五星”への敬意を俺に対して持ってない奴がこの屋敷には何人かいるがな」
当然のごとく、エルザのことである。
後はラウラも、好戦的な『血薔薇』モードになると“五星”がどうしたってタイプの人間だね。
メディは……うん、あれは例外。
かわいいから許す。
かなり脱線した話を、マリウスは自分で本筋に戻す。
「アルガくんは、放課後はずっと僕の修行に付き合ってくれてるし、休み時間はひとりで難しい顔して何か考えてるか、教室にいないことが多いから、あまり他の人と話してるところは見ないかもしれないです」
ひとりで難しい顔して考えてるのは、当然この先の行動計画についてである。
悪役転生に気づいてから、おおむね計画通りに進んでいる部分もあれば、今回の対抗戦のようにイレギュラーな事態へ発展しているケースもある。
そういうのをひとつひとつ分析しながら、少しずつ行動計画を修正しているのだ。
こういう作業には、アルガというキャラが持つ頭の良さが非常に役に立つ。
大量の原作知識をもとにシミュレーションしてるわけだけど、明らかに思考のまとまりが速く、そして正確だ。
そして教室にいない時は、難しい顔して立てた行動計画を元に何らかの些細な布石を打っている場合が多い。
もちろん、ただ単にトイレに行ってるだけってこともあるけど。
ワイワイ話していた二人だったが、いつの間にかマリウスの魔力が完全に回復している。
マリウスはもちろんそれに気づいているし、フローラも何か察したようで話を終わらせにかかった。
「いろいろ教えてくださってありがとうございます! ぜひまた、ゆっくりお兄様のお話聞かせてください」
「うん。アルガくんの話ならいくらでも話します」
もっとお互いに自分の話をすればいいのに、という言葉を、俺はぐっと飲み込む。
フローラが出て行くと、俺はすっと立ち上がりマリウスに言った。
「続きをやるぞ」
「うん。それにしても、元気で良い妹さんだったね」
「マリウスは確かひとりっ子だな」
「あれ? 言ったことあったっけ? うん、そうだよ」
言ったことはない。
ただ単に、俺が原作知識で知ってるだけだ。
「それにしても、他にもこの屋敷にはいろいろ人がいるんだよね? いつか会ってみたいな」
「そのうちな。それか、俺に勝ったら会わせてやってもいいが」
「ははは。それは随分と時間がかかりそうだね」
そう言って笑いながらも、マリウスの目が一瞬で訓練を行う時の真剣モードになる。
「でも、それくらいの気持ちでやらないとね」
「来い」
そしてまた、もう何度目か分からない二人の魔力のぶつかり合いが、闘技場の空気を揺らすのだった。
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