第38話 カンニング
ヴァルエ王立魔法学校の入学式から一週間が経過した。
マリウスの魔力増強計画は順調に進み、これなら問題なく対抗戦に間に合いそうかなというところだ。
そして今日は、結成したコンビを申告する締切日であり、対抗戦の内容が発表される日でもある。
帰りのホームルームで教室に入ってきたエレオノーレは、例によって踏み台に立つと、教室を一周見回してから話し始めた。
「あー、お前ら。とりあえず全員が二人組を作れたようで大変結構。手続きの都合上、これ以降の変更は認めねえから、せいぜい今回組んだ相手と仲良く頑張ってくれ」
やはり目立つのは、俺とマリウス、そしてエミーリアとビアンカのコンビ。
他にもいくつか、実力が高いコンビはあるが、どれも原作外のイレギュラーな二人組ではないため、特に大きな問題にはならなそうだ。
「対抗戦の内容だが……複雑なもんで、口で説明するだけでは漏れが出るだろうということで紙を配る」
エレオノーレの前の教卓には、A4サイズの紙の束が置かれている。
彼女がそこに軽く魔力を込めると、紙たちは一枚一枚、ふわふわと各生徒の机へと飛んでいった。
前の生徒から順にプリントを回して、一番後ろの生徒が「先生、一枚余りました」みたいなの、この世界の学校だとあるあるにならないんだよね。
――対抗戦の内容も、本編からは何ら変化なし、と。
紙に記されていた対抗戦の内容に、予想外の目新しいものは何一つとしてない。
原作知識が十二分に活かせる対抗戦になりそうだ。
対抗戦は大きく二つのステージに分けられる。
まず一つ目のステージは、魔法で的を射抜く精度や速度を競ったり、魔法に関するペーパーテストを解いたりと、言ってみれば自分との戦い。
他のコンビと直接的に交戦することはない。
そして第一ステージで獲得したポイントが予め定められた基準点を超えたコンビが、第二ステージに進むことができる。
第二ステージは、超絶シンプルなバトルロワイヤル。
設定されたフィールドに散らばって戦い、最後まで立っていたコンビが優勝という形式だ。
第一ステージが行われるのは、予定通り一週間後。
それを教員側で即日採点、集計し、翌日には第二ステージが行われる。
対抗戦は二日間あるってことだね。
ちらりとエミーリアの方を見てみれば、彼女は真剣な表情で配られた紙に目を通した後、軽く何度か頷いた。
あくまでも想定の範囲内、しっかりやれば第二ステージまで確実に進めるという感じの顔だ。
まあエミーリアとビアンカのコンビなら、順当に上がってくるだろうね。
二人が組むことでどんな相乗効果が生まれるのかは、俺の原作知識データベースにはないことだから、警戒を怠ってはいけないところだ。
「分からないことがあれば、適当なタイミングで聞きに来い。もちろん、ペーパーテストの内容を教えろとか言われても答えらんねえけどな」
エレオノーレは生徒たちを見て、とりあえず今すぐに質問は出てこなさそうだと判断すると、踏み台を降りる。
そして帰りのホームルームが終わると、マリウスが俺の席へと近づいてきた。
俺たちが学内で会話する場面も増えてきたため、周りからの物珍しそうな視線は若干和らいだ気がする。
「まさか対抗戦に、ペーパーテストが入ってるなんて思わなかったよ……」
そう言うマリウスの顔はちょっと不安そうだ。
魔法の技術や基礎的な理論には通じているマリウスだけど、古の魔法の成り立ちなんかを含めた歴史には多少疎いところがある。
それを本人も自覚しているから、学力を試されるとなると自信なさげになってしまうのも無理はない。
決して地頭が悪いというわけではないから、一週間しっかり教科書を読ませればある程度は覚えるだろうけど、そんなことをするよりも深淵魔法の訓練に時間を使いたいところだね。
原作でも、マリウスの知識不足を補うためにエミーリアが時間を使ったことで、深淵魔法の修行が遅れた部分はあるし。
ましてや今回は、原作通りに完璧に物事が進んでいるわけではないのだ。
マリウスが対抗戦の最中に覚醒し深淵魔法を扱えるようになるという、THE ご都合主義展開が起こる保証など、どこにもない。
不確定要素が多すぎる。
だから対抗戦前に深淵魔法を使えるようにしておくことはマスト。
そうなれば……
「ペーパーテストに関しては、すでに対策を行っている」
「え? 本当に?」
短時間で効率よくペーパーテストの点数を上げる方法。
そりゃやっぱ、カンニングだよね。
※ ※ ※ ※
「えーっとアルガくん、これは?」
放課後。
例によって俺の屋敷の闘技場に来たマリウスに、俺は数枚の紙を手渡した。
そこには全部で五十題のテスト問題が、答えも合わせて記されている。
「ペーパーテストの予想問題ってこと? この辺を勉強しておけば、点数が取れると……」
「いや、予想も何もそれがそのまま出る。だからお前は、問題と答えを暗記すればいい」
『無限の運命』って、元の世界であまりにも人気コンテンツになったゆえに、いろんな形でイベントが行われたりグッズ展開されたりしたんだよね。
中には公式主催の【『無限の運命』知識王】なるイベントもあって、そこで対抗戦で実際に出題された問題が出たことがある。
その問題を解きまくっていたせいで、俺は大方の問題内容と解答を覚えてしまったのだ。
今マリウスに渡したQ&Aは、多少の表現のズレはあるにしても、対抗戦で出題される問題に間違いない。
ただそんな俺の原作知識事情を知らないマリウスは、慌てふためいた。
「こ、これって、対抗戦で出される問題を盗んできたってこと……!? だ、だめだよ。確かに対抗戦で良い成績は残したいけど、だからといって泥棒は良くないことだよ……」
泥棒は良くないこと、か。
どっかのエルザとかいう人に聞かせてやりたいセリフだな。
「盗んだわけではない。不正にあたるような行為はしていないから、安心して受け取れ」
「そ、そうなんだ……。うん、アルガくんがそう言うなら信じるよ」
「ただ、百点満点を取る必要はないからな」
「え? そうなの?」
エミーリアの指導を受けた原作のマリウスは、対抗戦本番で平均点をわずかに上回る八十点を取った。
そしてエミーリアが百点を取ったため、二人の点数を合わせて合格点を難なくクリアしたというわけである。
入学試験の成績を考えても、いきなりこのテストでマリウスが百点を取るのは違和感がある。
それこそ、不正を疑われて余計な目立ち方をしては面倒だ。
俺が百点を取るのは問題なさそうだから、原作通りマリウスには八十点を取ってもらい、二人合わせて合格点をゲットするプランが良さそうだね。
「星印がついている問題があるはずだ。そこは確実に正解しろ。そしてそれ以外の問題は、わざと間違えろ」
「分かった。頑張って覚えるよ」
俺の指示にあっさり同意したマリウスを見ながら、俺はふと思う。
今はまだ、物語の導入部分ということもあって、マリウスは俺にすんなり従ってくれている。
でもこの先、主人公マリウスが今よりも強くなり、そしてより自分の意思で動くようになった時、俺はあらゆるものを自分の計画通りにコントロールすることができるだろうか。
――そのために俺は、“神”を超えなくちゃいけない。
もっともっと強くならなければ。
まあ、その前にまずは目の前のマリウスを強くすることからだ。
その上で、彼を上回る存在であり続けなくちゃいけない。
「ペーパーテスト対策は、魔力を回復させている間に並行してやる。まずはいつも通り、魔力を増加させる訓練からだ」
「うん。最近、強くなってきた実感があるんだ。今日も限界までやるよ」
そう言いながら、マリウスは瞬間魔力増強ポーションを受け取って飲み干す。
そして今日もまた、俺とマリウスは闘技場で戦い始めるのだった。
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