第17話 アルガvsアルバン②
俺の圧倒的な魔力量に怯んだアルバンだったが、彼にもやはり“五星”としてのプライドがある。
降伏することも、ましてや逃げ出すこともなく、畳みかけるように攻撃を撃ってきた。
「【火炎連星】」
あらゆる角度から無数に襲い掛かってくる炎の球。
しかし、俺は動じない。
「【壊牢】」
合わせて二十はあったアルバンの攻撃を、ひとつずつ、残すことなく【天地壊滅】の魔力で包み込む。
そして俺が軽く拳を握ると、それらは全て空中で爆散した。
「アルバン、お前もとっくに気が付いているはずだ。すでにお前の息子と協力相手は敗戦している」
俺の言葉に、アルバンは忌々し気に顔をしかめた。
一定レベルの魔力探知を行える者なら、すでに俺たち以外の二カードで決着がついていることに気が付いているはずだ。
魔力にはそれぞれ微妙に異なる個性、言ってみれば指紋みたいなものがある。
エルザとビアンカの魔力は十二分に保たれているのに対し、クルトとナディアの魔力はほぼ消えかかっていた。
アルバンもそれに気が付いているはずだが、だからといって戦意を失うようなことはないみたいだ。
「三つの戦いのうち二つ取れば勝ち? そんなルールはないだろう。最後に立っていた奴が勝者だ」
「ふん。口だけは一丁前だな」
――これ、最初にアルバンが言ってたセリフを言い返してみたんだけど……うーん、気付いてないか。
どうやらアルバンには単純な煽りと受け取られたらしく、怒って額に青筋を浮かべている。
自分の言葉には責任を持ってほしいもんだよ、全く。
そんなことを考えながら、俺は一歩アルバンの方へと踏み出す。
どんな態度を取ろうと明らかに劣勢のアルバンは、思わず後ろへと後ずさりした。
「【憤激炎刃】」
アルバンが放ったのは、激しく燃える炎の斬撃の連打。
俺はそれを確実に防御魔法で防ぎながら、一歩一歩と足を進めていく。
「あり得ん……! この私の攻撃が、お前のような小僧に全く通らないだと……!」
「シンプルな話だと思うがな。魔力量の差だ」
「尻の青いガキが……! 生きた年数にどれほどの差があると思っている……!」
「生きた年数が長ければ長いほど、魔力が増えていくのか? そんな話は聞いたことがない」
俺は一度言葉を切って、きわめて残酷な事実を傲慢にアルバンに突きつける。
「器が違う」
もちろん、戦況を分けた要素は様々だ。
“五星”の座に就いて長年が立っていたアルバンの慢心と、悪役転生に気づいて以来の俺の努力。
俺たちの出現を想定しておらずろくに戦いの用意をしていなかったアルバンの準備不足と、長い時間をかけて進めてきた俺の計画。
物事には様々な面、要因がある。
ただ一番大きな勝負の分かれ目は、このアルガ・キルシュライトという存在が持つ莫大な才能だった。
それを俺が引き出すことさえできれば、例えはるかに年上の最高位貴族だろうと圧倒できる。
「殺してやる……!」
怒りが頂点に達したアルバンは、残っていた燃えるような魔力を余すことなく解放する。
もはや魔力切れのことなど頭にない。
全てを込めた渾身の一撃で、俺を葬り去ろうという考えだ。
「終わりだ……!」
「終わりだ」
奇しくも俺とアルバンのセリフが重なった。
次の瞬間、アルバンは己の魔力を全て結集して最高火力の攻撃を放つ。
「【大憤怒の炎竜】!」
俺を焼き尽くそうと襲い掛かるのは、大きく口を開けた真っ赤な炎の竜。
空気を焦がし、周りの草木を焼き尽くしながらこちらに迫ってくる。
――美しいな。
原作でも派手さという面ではかなり上位に来ていた魔法、【大憤怒の炎竜】。
実際にこの目で、正面から拝むことができたのは貴重な経験だ。
しかし、その美しさに免じて焼かれてやるなんてことは当然ながらしない。
「【壊滅黒星】!」
撃ち出した高密度の【天地壊滅】の魔力が、炎竜の頭部を直撃する。
大きく開けた口に、漆黒の塊ががっちりとハマって、竜の勢いが止まった。
「あああああ!!!!!」
アルバンは低く太い声を上げながら、時間と共に回復する残りかすのような魔力を【大憤怒の炎竜】に込める。
俺たち二人の魔力のぶつかり合いが、空気を激しく震わせ、焼かれずに残った木々たちはざわざわと葉っぱを揺らした。
魔力がぶつかる中心部からは、ビリビリと黒い稲妻のような形になってエネルギーが放出される。
時間にしてみれば、十秒ほどの熾烈な競り合い。
そして、決着がつく。
「クソガキがあああああ……!」
魔力量で勝った【天地壊滅】の魔力によって、炎竜は頭部を貫かれ激しい音と共に爆発し壊滅する。
アルバンの魔力全てを込めた攻撃を撃ち消してもなお、余力を残した【壊滅黒星】は、そのまま彼の方へと突き進んだ。
もはやアルバンに、防御する術は残されていない。
「ぐあああああ!!!!!」
必死に身をよじったものの、完全には避けきれず、アルバンの右腕が吹き飛んでなくなる。
そのまま、彼は苦し気に地面に倒れ込んだ。
――うーん、ちょっとやりすぎちゃったか。
メディのポーションが残っているから、四肢の欠損くらいなら治るはずだ。
そもそもアルバンに勝つ必要はあったけど、死なれたら死なれたで後々の手続きがめんどくさいんだよね。
俺だって別に、殺す必要のない命までは奪いたくないし。
「終わったみたいだね」
森の奥から、ナディアを拘束したエルザがやってくる。
クルトを取り抑えたビアンカも一緒だ。
「ち、父上……!?」
「まさかアルバンが負けるだなんて……」
クルトとナディアが驚きの声を漏らすなか、俺たち三人は顔を合わせて満足げに頷く。
俺もエルザもビアンカも、大きなダメージは残っていない。
完全勝利だ。
――ここから先は、武力じゃなくて頭脳の見せ所だな。
アルバン、クルトと魔国ブフードの繋がりを証明して、ダイスラー家がキルシュライト家に二度と手出しできないよう弱体化させる。
それが終わって初めて、俺が一年前に立てたキルシュライト家を偉大にするという目標は達成されるのだ。
「クリストフたちも、そろそろ盗賊団を制圧している頃だろう。こいつらを連れて戻るぞ」
エルザとビアンカにそう告げた瞬間、俺の背筋をぞくりと嫌な感覚が駆け抜けた。
それは言ってみれば、第六感に近いもの。
そして一瞬のうちに、どこからともなく、月明かりを浴びて赤黒く光り輝く槍が現われる。
その切っ先は、まっすぐにビアンカの頭を狙っていた。
「ビアンカ!」
俺は慌ててビアンカに飛びつき、槍の弾道から彼女の身体を遠ざける。
代わりに槍は俺の肩をかすめ、わずかに血がにじんだ。
「な、何が起きたの……?」
奥の木に突き刺さって止まった槍を見て、ビアンカがかすれた声を漏らす。
もし一歩でも反応が遅れていたら、彼女の頭部は貫かれ即死だったはずだ。
「ど、どうしてここに……」
闇の向こうから姿を現した人影、槍の持ち主を見て、ナディアが震える声で言う。
「ゲルト様……」
――やっぱり……来てしまったか……!
不気味な紋様の赤い仮面を被った男を、ビアンカの身体を庇ったまま俺は睨みつける。
ゲルト。
魔国ブフードの国王、つまり闇の組織の最高権力者。
『無限の運命』の物語におけるラスボスだ。
「気付いて仲間を庇いましたか。やはり見事な才能ですね」
仮面の奥から、ボイスチェンジャーでも使っているかのような奇妙な声で、そして丁寧な口調でゲルトは言う。
「威嚇はしましたが、戦うつもりはありません。アルガ・キルシュライト、少し話をしましょう」
――アルガvsアルバン、勝者アルガ。
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