1.始まりと終わりの音

第1話

薄暗い部屋の中。

その部屋にはエアコンがついており、5歳ほどの数名の男女が疲れたように雑魚寝をし、ふすまからほんの少し漏れる光の先には数人の大人がコソコソと話し合っていた。



「…どうするんだ」


「しかし……、だぞ」


「だが長くは待てない」



1人の少女はふと目覚めたかと思うと、ふすまの明かりに吸い寄せられるかのように歩いていき、聞こえてきた大人たちの会話に静かに耳を傾ける。



「早くどちらかに決めるべきだとは思わないか」


「そうだ。ただでさえ双子だ。引き伸ばしても後悔するだけだ」


「しかし、あの子達の将来はまだ長いんだ。早々に決めるのはあの子達の将来の選択をなくしてしまうことにつながらないか」



他の子よりも聡い少女はこの話が自分のことであることにすぐに気が付いた。



「だがなぁ……。今決めるとしたらやはり妹のほうか……」


「確か…IQは測定不能なんだろう?」


「しかし人望で言えば姉のほうだろうな。あの子は人を引きつける」


「しかし、大変だな」


少し大柄な男性が少し禿げかかった頭を掻きながら言う。



「何が」


「双子はどちらかが上に立てばもう片方は比較されてしまうんだからな」


「それもそうか……」


「双子でなければよかったのにな」


大柄な男性のその何気ない一言は、少女の心に重くのしかかり、少女は隣で幸せそうに寝ている自身の片割れをみて悟る。




私は、この人を不幸な目には合わせない。と。




そして少女のこの瞬間の、そして今後の決断が、今後の少女とその周囲の運命を大きく揺るがすことになるとは、このときは誰も思っていなかった。

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