ニューワールド・ファンタズム
ronboruto/乙川せつ
第一章アースリア編
ニューワールド・ファンタズム序章
無限とも思える程果てがない迷宮と、それぞれの文化がある国々。
過去、神々が現れ、目を覚ました迷宮。モンスターが跋扈し、宝があふれる暗闇。
それが、《俺達》が生きる世界の全てだ。
少年が剣を手に、英雄を夢見て走る世界。想いの力が世界そのものを作り変える。
戦う誰もが努力し、剣の腕を上げていく…………。目先の物だけに囚われ、死んでいく者も大勢いたが、現在の世界は平穏だった。
ここは、血濡れた現実。本物の笑顔がある。偽物など何一つ存在しない。
ここは、二つが生きる、幻想世界。
「ふーっ…………」
呼吸を整え、両刃片手剣の剣先を《敵》に向ける。構えた瞬間、刀身を赤い光が覆う。
片手剣単発突進技 《ヴォーパル・ブレイク》。
低く、速く。赤い光を帯びながら走る剣は敵、レベル九十二モンスター《ウルフナイトエース》の肩を鎧ごと抉った。
これが《剣技》。《俺達》に与えられた戦闘スキル。魔法以上の確実性と剣術以上の殺傷力を持つ必殺技。動作があらかじめ決まっているため、使用者が技の動きに逆らわないように加速してやれば更に威力は向上する。
「ぐるうあああっ!」
狼騎士は反撃の為に両手剣を正中線に構え、上段斬りを放ってきた。両手剣単発重突進技、《ライトクラッシュ》。黄色い光を帯びた剣が俺の目の前に現れる。
この技は単純故に威力が高い。上位剣技として申し分ない技だ。それに対して俺は片手剣水平四連撃、《エクシア》を発動する。
「…………………せやっ!」
連撃で一撃を受け止め、押し返す。狼が硬直した瞬間に、俺は蹴りをお見舞いする。
距離が開き、互いに大技の余裕ができる。
「………………」
「ぐぅううう…………」
互いに睨み、気配を読み合う。
俺の片手剣より、狼の両手剣の方が一撃の威力は高い。それに俺は片手剣の防御手段である盾を装備していないため、守りに入るとこっちが不利だ。
「はーっ…………ッ」
同時にスキルを起動し、ライトベールが刀身を覆う。
――――――ダッ。同時に走り出した。
「ぐがああああっ!」
ウルフナイトエースが放ったのは、両手剣三連撃、《グラム・リープ》。
初撃。顔ギリギリに来た刀身の側面に刃を当てる。俺が放ったのは片手単発突進技、《ソニックリード》。上位剣技と中位剣技がぶつかる。すると、狼の両手剣を覆っていた黄色の光が何度か点滅した後、消えた。無論技は終了していない。これは《スキルブレイク》という対人専型種族用の規格外スキルだ。規格外とはそのままの意味で、世界に組み込まれたシステム以外の、効果を持った技という意味。《スキルブレイク》は相手のスキルと自身のスキルを互いの剣の中心で衝突させることで相殺するというもの。
連続技は発動途中にスキルを停止されると硬直時間を課せられるが、単発技はそもそも放ち終わった後のため、硬直の隙をつくらないで済む。
それに、中位剣技は上位剣技と比べて威力が物足りない分、硬直時間も短い。
俺は硬直した狼人間に向けて新たな技を放つ。
「う、おおおおおッ?」
一瞬のタメにより剣速をフルブースト。放つのは片手三連撃、《イーグル・ウィング》。
精密さを求められる上位剣技。初撃は垂直の振り下ろし、二撃目は水平左斬り。そしてラストアタック。三撃目、水平右斬り。
「ぐううがああああ!」
獣の断末魔が尾を引いて響く。
―――これが誰の過去なのか、未来なのか、まだ分からない―――――――――――。
《神生大戦》最終決戦・最高神ゼウス。
「愚かで傲慢な人間よ、貴様等は何故抗う?お前たちがこの地球を穢しているのだぞ」
そんな最高神ゼウスの言葉に
「俺達が生きている。それ以外にあるか?物事を考えて話せ下郎!」
そう叫ぶ《ギルガメッシュ》。そして静かにゼウスは雷撃を放つ。
「消え失せろ《雷光》」
「チッ……〝ソニックアクセル〟!」
《武技》。近接種族が使う戦闘方法。最も効果が出る力の込め方を昇華させたもの。《アクセル》は速度特化。
断界剣【クリムゾン・エア】、始人剣【エクスペリエンス】を握りしめ空にいる最高神に接近する。
「人魔剣、竜技〝竜牙突撃(ドラグストライカー)〟!」
強力な力を持つ神々に対抗する為、あらゆる種族が協力して作り出した
「貴様…!死ね!」
更に大きな雷撃……。しかしギルガメッシュは《クリムゾン・エア》で雷撃をかき消した。
「なっ……」
「知らぬだろう?この剣を。貴様等に抗うために作られた、種族を越えた剣だ!……《百花繚乱》!」
小さい雷撃を高速の剣技で切り伏せる。その時最高神は思い知った。この傲慢な男の力は、全種族の技術全てなのだと。
「……消えろ!」
《雷撃演歌》!
多数の雷撃がギルガメッシュを襲う。
「笑止!〝飛天〟!」
闘気の斬撃が雷撃を叩き斬った。
「終わらせるぞ下郎!民が吉報を待っている!〝竜魂剣装〟!」
現れた闘気の竜が天に掲げた《クリムゾン・エア》に宿り、刀身が黄金に輝く。
『其方を虐げる者がいるのなら、我は祖奴を叩き潰そう……理不尽は俺の剣が叩き切る!』
「これが貴様等神々に送る、俺達の《お返し》だ!」
「ふざけるな!《神滅雷熱殺(ライジングサンライト)》!」
「竜技〝神滅竜断罪(シン・ドラグパニッシャー)〟!」
それから時代は進み……神と生命が共に暮らす時代。
「あ、あ、ああああっ!」
逃げているのは普通の人間【アルタイル・アリエル】。黒髪に青い瞳を持つ少年。
いつも通り山に山菜を取りに来ていた僕の前に現れたのは、ゴブリン。冒険者なら簡単に討伐してしまう下級モンスターだが、僕にそんな力は無い。だから逃げるしかない。走り続けた。そして今は僕以外に誰も住んでいない家に辿り着く。
「なにか、なにか武器は………そうだ」
ある。あるぞ……たった一本の武器が……。
「ごめん、父さん。」
壁にある鍵穴に鍵を刺すと、一本の刀が出てきた。紺色の鞘に入った《封印剣・神威》。昔、父が持って帰ってきたこの刀は抜くことを許されなかった。だけど、今は。
「お願い……力を貸して!」
刀を引き抜き、外に来たゴブリンに相対する。
「キシャシャ!」
「せいっ!」
掛け声と共に振った刀は、ゴブリンを一刀両断した。
「すごい………!」
ガサッ、草むらからもう一つ、影が現れる。それは
「ホブゴブリン?」
ゴブリンの上位種。……勝てるわけない。
「グルアアッ!」
拳を刀身に受ける――。しかし受けきれずに大きく吹き飛ばされた。
「逃げなきゃ……」
『愚か者!』
「えっ?」
その声と共に僕の身体から黄金の炎が溢れ出る。
「なに……これ……?」
(……知らないのに、使い方が分かる。まるで、昔使ったことがあるような感覚――)
「………こうかな」
掲げた刀身に炎が宿る。両手で握り、走り出し、踏み込み、振り下ろす。
「うおおおおお!」
その攻撃はゴブリンの脳天に直撃して、ゴブリンは灰になった。
「倒せた………!」
刀を鞘に戻すと炎は消えた。
「これが……《神威》……」
(これが、戦う感覚……!)
なりたい。そんな気持ちが溢れてきた。冒険者になりたい。
「善は急げだ!」
僕は修行を開始した。神威と炎を扱う練習。刀を振る感覚が馴染んでいく。そして剣術をやってみることにした。父と祖父の技術が書かれた《剣術指南書》を読み込み、実戦していく。剣術で大切なのが《闘気》。自身の生命力や活力を練り、力を生む。その《闘気》を使い剣術は鋭く、速く、重くなる。そして炎に関しては学ぶ方法が無い為、試していくしか方法が無い。炎を神威に集中させ放つ斬撃、《飛剣》と名付けた。振り払うと炎が斬撃の形で飛んでいくためそう付けた。
「よし!」
家にあった灰色のおんぼろコートを着て、最低限の鎧を着ける。荷物を持って、出発だ。
四人で撮った写真に向かって
「行ってきます!」
家から飛び出し、街を目指す。
一日目の夕方、小さな村に辿り着いた。
そこには小さな宿屋があり、そこに泊まる。
「宿泊代は十リルです」
「十か……」
家にあったお金は二十五万。まだ余裕はあるが、これからのことを考えると少し心配だ。早く冒険者になって稼ごう。簡易ベッドにランプ。辺境の安い宿屋なので、それ以上を求めてはいけない。次の日、村の外の森に出る。
「あの子は――」
村の外で歩いている時、怪我をした女の子を見つけた。
「どうしたんだ、君は――」
「たすけて、おにいちゃん!」
泣きながら女の子は話し始めた。母親と散歩に出ていた時、シルバーウルフに遭遇してしまったという。その名の通り銀色の狼、爪と牙は鋭く、素早く、群れで活動するモンスター。
ダンジョンから出たモンスターは各地に広がり、暮らしている。
「―――分かった。……お兄ちゃんに任せとけ」
「おねがい……ままを、たすけて……」
村に戻り女の子を預け、事情を説明する。
ある者は狼を恐れ、ある者は狼の怒りを買ったと騒ぎ、またある者は、武器を取った。
「いいんですか?正面から戦おうなんて……」
村のおじさんが剣を握りながら。
「ここは俺達の村だからな、余所者にだけ任せるわけにはいかんのよ」
その男は昔、冒険者だったが才能のなさを思い知り、村に戻ってきたらしい。
「来たぞ、銀狼だ」
白銀の毛に覆われた獣。それに対し、おじさんは片手剣を手に取った。
「盾は……」
「いらん、反応速度と剣速が鈍る」
「…………行きましょう」
神威を引き抜く。武器を見た狼はこっちに突進を仕掛けてくる。
「先陣は俺が切ろう」
男が剣を斜めに振り下ろすと、狼の首が地面に落ちた。
「すごい……」
「まだ来るぞ」
神威を構えて、皮籠手に峰をあててどっしりと構える。
「〝流水絶閃〟」
狼の爪を受け流し、その力を利用して獣を切り裂く。
「やるな、君」
そう言いながら男は右手の剣に力を込める。
「お、おおおおおおッ!」
三体もの狼を薙ぎ払った。すごい……冒険者は、こんなに強いのか……。
二十体程倒した後、大きな影が現れた。
「でかい……!」
「こいつは……《キングシルバーウルフ》……?」
大きい。全長六Mぐらいあるんじゃないか……?
「俺が引きつける、そのうちに側面から!」
「任せてください!」
「うおらああああッ!」
神威〝鉄鎚〟!
上段からの全体重を乗せた一撃。
「久しぶりだが、やってやるぞ……!」
おじさんは全身から《闘気》を吹き出した。生命力の塊を剣に乗せて放つ。
「〝剛剣〟!」
「僕も……」
片手剣四連撃技、《エクシア》。足を一本吹き飛ばした。
「まだだ……!」
片手直剣刺突剣技、《ブラスト》。胴体に突き刺して、臓器を抉る。
「もう少し……あっ!」
狼の後ろで倒れている女性――あの子の母親か。
片手剣刺突系突進技、《ヴォーパル・ブレイク》。赤いライトベールの残像を残しながら獣を貫き、女性の近くに辿り着く。
「この人は、僕が守る!」
その時、僕の中から闘気が溢れ出た。凄まじい勢いで。
闘気を、剣先に集中――。父さん、使うよ。
〝竜技〟《竜牙突撃(ドラグストライカー)》
父さんの得意とした闘気の剣術。膨大な量の闘気を剣先の一点に集中。今の僕では全ての闘気を込めなければ使用できない。練りあがった闘気の渦。
竜の闘気を身に纏い、そのままキングシルバーウルフの心臓を貫いた。
「君、本当に行くのか?せめて夜が明けてから……」
「いえ、余計に止まれなくなったので、急ぎます」
「そうか、あの子には俺から伝えておこう」
「お願いします」
僕はまた、進みだした。夜の中、暗い暗い、夜の中。
「わぁ……!」
村を出て数日、冒険者の街、《アースリア》へと到着。
「ギルドはっと……」
しばらく歩いていると、そこにあった。
「ここが、ギルド……」
「いらっしゃいませ。本日はどんなご用件でしょうか?」
受付の女性は営業スマイルで問いかけてくる。
「冒険者登録を」
「分かりました。それではこの用紙に記入をお願いします。」
差し出された紙には名前、年齢、主武器、戦闘方法の記入欄があった。アルタイル・アリエル、十四歳、刀、剣術、炎。
「ありがとうございます。この炎というのは?魔法でしょうか?」
「まあ、そんな感じです」
実際のところ僕にも分からない。炎を出す魔剣では無いのに、金の炎を放出する。そもそもこの神威はモンスターを倒すことでその命を吸収し、その強度と切れ味を向上させるという、対モンスター用の魔剣なのだ。
「それではこのカードに闘気、もしくは魔力を通して下さい」
俺は闘気を通す。そしてそのカードに文字が刻まれていく。
「うおっ……」
「登録完了です。あちらの掲示板に依頼が貼ってあります。ダンジョンに潜られる場合はダン
ジョン入口の係員にカードを見せていただければ大丈夫です」
「ありがとうございました!」
僕は早速ダンジョンに入ってみた。
「暗いな……」
「ガウッ!」
現れたのはシルバーウルフ五匹。二十七層のモンスター。
「修行の成果を試してみるか!」
神威は宿に置いてきたので、武器屋で買った黒い
「ふ~っ」
呼吸で落ち着き、足に力を込める。《アクセル》。素早く接近する。そして、
「せあっ!」
片手剣上段斜め斬り、《スラスト》。《剣技》。神が人間全員に与えた力。特定動作のブースト。
「まずは一体、次!」
今度は突進しながらの左薙ぎ。片手剣水平斬り、《リオ・イクス》。一気に三体を吹き飛ばし、
残り一体。この個体は……。
「リーダー個体………」
それは群れの中で一番強い個体。これは……一撃では倒せそうにない。
(それなら)
剣を右後ろに構え、腰を少し低くする。
「ガウッ!ガアアッ!」
「ハアッ!」
向かってくる狼の胸に一撃、一回転し首の後ろに一撃、左側面に一撃、そして最後にジャンプしたウルフの下に入り、掻っ捌く。計四連撃の
「ふぅ……」
パチパチパチ……誰かが手を叩いている。
「誰?」
そこには水色長髪の男?女?が立っていた。
「いやぁ、いいもの見せてもらったよ。新人にも希望はあるもんだなぁ」
「あなたは?」
「俺?俺はアース。《マティリス・クラン》の剣士さ」
「マティリス・クラン……」
この街でも有数の、最高峰クランの一つ。その剣士はこんなことを言い出した。
「俺の弟子にならないか?」
「えっ?」
「君、中々見どころがある。Lv1にしてはなかなかの動きだったよ」
「はあ…………」
「それで、君に損はさせない。俺の《流水剣》を教えよう」
「流水剣?」
「ちょっと打ち込んでみ」
「分かりました。セアッ!」
「よっと」
僕の剣は簡単に受け流された。かなり強めに振ったのに。
「これが流水剣。受け流し、反撃する。カウンターに最も効果を発揮する剣術さ」
(凄い。あんな無防備な状況から剣を抜き、間に合わせた……。それにあの剣筋、ゆっくりだった)
「ご指導、よろしくお願いします!」
「うむ」
それから指導が始まった。流水剣の基本。緩急を付け相手を翻弄させ、神速の斬撃を叩き込む。
流水剣に合う剣技もいくつか教えてもらった。
「この剣を見ておいてくれ」
腰に剣を納めた状態から引き抜き、岩を斬った。――反応できる気がしない。
「今のは?」
「抜刀術。本来は刀でやるものなんだけど」
――――神威でなら――。
「お前はどこのクランに入る予定なんだ?」
「まだ決めてません」
「それならうちの試験を受けてみろ。登録はしといてやる」
「いつですか?」
「明日だ」
俺はマティリス・クランの前に立っていた。
「でか……」
本拠地が大きすぎる。ここの試験を受けるのか。
中に入るとすぐに説明がされた。試験の内容は試験官相手に一本をとれば合格。ルールは決闘方式。いわゆるデュエル。
「あなたは一番最後です」
三十六人の最後。時間がかかるな。と思っていたその矢先。
「始め!」
最初の試験が始まる。受験者は鎧を装備した騎士。そして相手は《閃光》、《アリス・フリューレ》。それは一瞬だった。そのレイピアの先端は、騎士の顔数センチで止まっていた。
「勝負あり!失格!」
騎士はトボトボと去っていく。他には格闘家、魔法使い、戦士、弓使い等々の新人が全員失格となった。そして僕の番。
「お願いします!」
「うん」
「始め!」
さっきまでの人達と同じ様に、その細剣は顔の前に接近する。しかし
「?」
片手剣反撃技、《リバーサル》。爆音と共に剣を弾く。
「防いだ?」
咄嗟の反応で防御が間に合った。そして僕は剣を緩めに下段に構える。女剣士は中段に構える。
「アアッ!」
「セイッ!」
その剣撃はぶつかり、お互いに弾かれる。僕は《エクシア》の構えを取る。そして駆け出す。
空中に飛び上がり、エクシアではなく、上段垂直斬りを発動。《グランツ》。
「……」
バックステップで躱された。
「誰かに似てると思ったらアースの剣筋にそっくり」
「まあ、教えてもらいましたから」
「やっぱり。それなら少し本気でいくよ」
黄金の髪が揺らぎ、青い瞳が一層光を強める。彼女は突進技を放ってきた。そして僕は受け止めきれずに吹っ飛ぶ。何とか剣を地面に突き刺して体制を整える。
「くっ……」
「―――――諦めたら?」
彼女の何気ない一言。僕の中に何かが走る。
僕は昔から冒険者になりたかった。父と祖父の冒険譚の読み聞かせ。
そして俺は……英雄に憧れた。諦めてたまるか。――これは、俺の物語だ。
「う…………おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ?」
身体から闘気が吹き荒れる。〝闘気覚醒〟《生命解放・限界突破》。
「なに……この圧――」
「来い……〝神威〟!」
ソニックブームを起こしながら扉を通り、廊下を通り、それは俺の前に現れた。
「弱者が覚悟を決めたのだ………強者に敗れる筋合いはない…………行くぞ、第二ラウンドだ」
炎を発動した状態で神威を引き抜く。赤炎を纏い、更に闘気を練る。
「――――――――〝飛剣纏い〟」
刀から溢れ出る炎を刃に集め、そのまま剣技を発動。炎の内側で刀身が水色に輝く。
「う、らあッ!」
片手四連撃、《エクシア》。刀の利点は三つ。速さと切れ味、そして《両手剣技と片手剣技の二つを使用可能》。エクシアを弾かれ、一瞬の硬直の後、俺は両手単発切り上げ、《リンクス》を発動。左下から右上に向かって切り上げる。
「セアッ!」
刀の特徴は、その切れ味!
「セアアアアアアッ!」
熱で脆くなった量産品の細剣を叩き切り、首に刃を突き付ける。
「勝負あり!勝者、アルタイル・アリエル!」
「……あれ?」
緊張の糸が切れた俺は、地面に倒れてしまった。
これは……夢?
女性に手を引かれて森を歩く……貴方は――――――――!
「……ここは……」
「目が覚めたか」
「アースさん……」
「立てるか?」
「はい……」
「行くぞ」
「……どこに……?」
「主神のところへ」
部屋に入るとそこには女剣士、審判二人、そして
「来たか。……単刀直入に聞こう。アルタイル・アリエル、君は何者だ」
「質問の意味が分かりません」
「それでは質問を変えよう。君の炎は一体なんだ?」
「それはこの刀の能力ですけど……」
「そうか。それでは結果を発表しよう。不合格だ」
「そうですか」
「失礼しました」
俺はその部屋を出て、本拠地を出る。その後の部屋では。
「アイナ、彼のステータスは見れたか」
「ああ、見えた」
アイナと呼ばれた審判の女性。
「彼のスキルは三つ。《剣技》。《闘気》。……そして、《英雄の炎(リオネルフレイム)》」
「まずは彼の闘気だが、あの威圧感だな」
「うん、気圧されるところだった」
アリスがコクッ、と頷く。
「そしてその総量は想像もつかない。」
「それに彼の炎、あれは武器の能力などではない。確かに刀がトリガーとなっているが発動しているのは彼自身のスキルだ」
「《ユニークスキル》……か」
「それにどっかの誰かさんが教えた剣術」
「うっ……」
(それにあの魂……)
それから数か月が経った。
俺は他のクランの入団試験に何度も挑んでいた。
しかしどれだけ試験で結果を出しても面接で落とされて――。そしてあまりにも落とされ続けたことで〝神々に嫌われた男〟などという不名誉極まりない異名を付けられた。
俺はもうクランに入るのは諦めてソロでダンジョンに潜ることにした。
冒険者は八段階の階級で分けられる。それはレベルと呼ばれ、下から1、2、3、4、5となっている。アリスならLv6。アースさんならLv7。
現在の俺のレベルは一番下のLv1。ダンジョンは全百階層となっており、現在は七十六階層まで解放されている。次の階層に進むためにはそれぞれの階層に一体しかいないボスを倒すことで道が開かれる。
俺は今十六階層に立っている。片手剣水平斬り《エリア》。
対象の間合いに滑り込み一刀で叩き斬る。闘気を纏った剣術。
「それにしても、なんでこんな使いやすい剣が売れ残っていたんだろう……」
そう、俺が使っている
ドシン、ドシン、大きな足音が聞こえる。
「こいつは……《ミノタウロス》…………」
本来、冒険者がパーティーで戦うものだが……。
「グモオオォォォオオオ!」
ソロではそんなこと言ってられない。
「……っ」
左側に剣を構え、左手で剣を触れる。そのまま走り出し、胴体に斬りかかる。
腹に一文字の傷を与える。
「モォオオオオオオオッ!」
しかし牛の動きは止まらない。牛は大剣を振り上げ、俺に向かってくる。
「はっ……せあっ……」
後ろに飛び、大剣を躱す。
「せいっ……」
上段垂直斬り《スラスト》。そして奴の回転斬り。流水剣。剣を受け流し、そして。
「せあっ……」
五連撃剣技、《エリアル》四回の斬撃、そして最後の刺突。そこは奴の急所だった。
灰となった奴は紫の魔石を落とす。それを拾い、袋に入れる。そして剣を振り払い背中の鞘に剣を収める。
「ふぅ」
カサカサ。そう動くのは大きなネズミ。《キングラット》の群れ。
「これはチッとばかしキツそうだな」
そう言って俺はもう一度剣を抜く。
「ああっ、流石に多かったな」
ネズミの群れを切り伏せた俺は冒険者ギルドに戻った。
「お願いします」
魔石をカウンターに出すとお金に換金してくれる。
「はい、三万五千○○リルです。」
「ありがとうございます」
(結構金になったな)
「……家宝の試し斬り?」
掲示板に貼ってあった一枚の依頼。
その詳細は書かれていなかったが妙に気になった俺はその依頼を受けることにした。
その紙を受付に提出。冒険者ギルドを出て、馬を借りて目的地に向かう。目的地の村はここから近くて馬車では一時間ぐらいで着く。その間武器の手入れをしようと剣を抜く。今俺が使っている剣は、思ったよりも上物らしく、アリスさん達最前線組が持っている武器と遜色ないらしい。名前通り夜のような美しく黒い刀身の片手剣。もっとも現在は武器と防具、実力が伴っていないのだが。背中の剣帯に納刀して周囲の景色を見る。もはや見慣れてしまったこの景色。しかしどこか好奇心をそそる。しかし今回の依頼である試し斬り、何かある……。普通冒険者ギルドに来る依頼はモンスター関連や遺跡調査など危険な依頼ばかりだ。なので今回のような依頼は衛兵や便利屋の仕事のはずだ。
(やっぱ、なんかあるよな)
ギルドがこの依頼を認可しているということは、その武器が余程のいわくつきか、余程の業物かだが、そんな物を小さな村が持っているのか?という疑問もあり、
「ま、行けばわかることか」しばらく馬車に揺られ。
「えっと、ここかな」
ドアをノックすると、美しい栗色の髪をした少女が出てきた。
「あ、えっと、冒険者の者です」
ぎこちない挨拶をすると少女が
「依頼を受けて頂いてありがとうございます。さ、家に上がって下さい」
「あ、どうも。お邪魔します」
対面のソファーに座り、少女が話し始める。
「お願いしたい武器がこちらになります」
そして机の上に刀を置く。
「これは?」
「その名を《アメノハバキリ》。我が家に伝わる家宝で、伝承では『その刃は天を切り裂き、全てを切り伏せる』と、言い伝えられています」
「全てを……」
「私の先祖はこの刀を使って、この村を救ったと言われています。しかし今では一族は早死にして、残ったのはわたしだけ。刀の技も学んではいるのですが、実戦経験はなく……お願いできますか?」
少女の問いに
「わかりました。引き受けましょう」
依頼されたからにはちゃんと応える。
その
庭に出て用意された巨大な丸太の前に立ち、刀を抜く。
「……綺麗だな」
正直な感想だ。その刃にある刃紋もそうだが、刀自身に何か吸い込まれそうな魅力がある。この刀がどうして試し斬りなどしなければいけないかもわからないほど、切れ味は刃を見て分かる。だが、依頼は依頼。やるだけだ。刀術の指南書を読ませてもらったが、剣と同じ様に扱ってはいけないと解った。剣は叩き切る。刀は切り裂く。というように、刀はその薄さから力を込める向きを固定しなければならないそうだ。
「行きます」
右斜めからの一太刀。まるでライトベールのように光を連れた刃は丸太は真っ二つにする。
「想像以上だな」
「……」
少女はその結果を見て、嬉しそうな、後悔してるような、心を押し込んでいるような……。
そんな表情をしていた。そしてこうも言う。
「やっぱり、こんな武器を私が持っているだけでいいのかな……」
「えっ」
俺は彼女の顔を見つめる。彼女は申し訳なさそうに刀を見つめている。
「戦いもしない私が持っていても、それこそ宝の持ち腐れです」
「……」
俺は何も言えない、言ってはいけないのだ。俺が口出しすることじゃない……なのに。
「……よかったら、この刀をもらってはくれませんか?」
「……え?」
「私が持てるものではないので」
俺は……
(この子は、俺と同じなんだ。先祖の重圧に潰され、心を押し殺している)
その時ふと刀を見ると、その刀身に光が走る。その光は少女を指す。
「……」
この子の為に、この子の先祖の想いを。
「……貰えません」
「どうして…?」
「きっと貴女の先祖は俺なんかよりも、貴女に持って欲しいと思います。期待じゃなくて、ただ自分の子供に自分の武器を持って欲しいんじゃないかな、生き抜くすべを持ってほしいのは期待じゃなくて、長生きしてほしいから…かな」
その言葉に少女は言葉を詰まらせる。
「…でもっ」
少女が言いかけた時、ゴーン、ゴーン、と鐘の音がする。そして少女がその音の意味を理解した時、顔から血の気が引く。
「……どうした?」
そしてその意味を答える。
「モンスターの襲撃……」
アルタイルは周囲を見渡す。
「抜け穴か!」
抜け穴とは、ダンジョンに空いた穴で、そこからモンスターが出現する。
ダンジョンは半径一○○㎞はある。この村も余裕で範囲内だ。
その時、村の反対側からズパーン!という爆音が聞こえ、俺はそこに向かう。
俊敏度を最大限発動して全力疾走する。そこには巨大な獣武者と四人の冒険者が。
「加勢する!」
俺は剣を抜いて武者の前に入り
「ハアァァァァ!!!」
片手剣水平単発技、《アインル》
一文字の光が残る。
「私たちが引き付ける!その間に攻撃を!」
遠距離単発弓技、《ロンテス》
矢が武者に直撃して武者は弓使いを標的に定める。武者は大剣を肩に乗せるように構える。
大剣単発重突進技、《シントー》
弓使いに急接して来た武者の攻撃をタンクが受け止める、が
「うわああぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁ!!」
タンクはそのまま吹き飛ばされる。
「なっ――」
俺は驚愕した。アリスの上位剣技を受けた時の俺でさえ、あそこまで飛ばなかった。
タンクはそのまま木に直撃して気絶してしまう。
「……っ」
単発上段突進技、《スイード》
背中に直撃するが傷を与えた程。
「連携技行けるか!」
俺の問いに二人の盾持ち剣士がおう、と答える。
片手剣垂直技、《リンター》
両手剣水平技との連携。
二種類の技三撃が直撃して、武者がよろめく。この隙を逃さないように俺はスキルを発動する。
片手単発突進技、《ソニックシュート》。
武者の右横腹を抉る。すると武者が全身に力を込めていた。俺はそれに気付き、防御態勢に入る。一瞬のタメのあと武者はその大剣を全力で突き出してきた。
「……っ!」
片手剣反撃技、《アンタル》
足、腰、肩、腕、剣を連動させ、固定することでその重量を弾く。しかし余りに重く俺の右手が痺れてしまう。
「ぐ……っ」
無理矢理手を握りしめて構える。そして俺は驚愕した。武者の口の中から炎系虫モンスターの《フリント》が這い出てきた。あれは全身から炎を吹き出す害虫。
あの虫が炎を吹き出した先は武者の大剣。剣に炎を纏わせ、片手で構える。それを振り払うと炎という形を持った斬撃が俺たちに押し寄せてくる。俺達は体制を低くして回避するが、俺達の後ろにあった森が燃えてしまう。あの美しい森を傷つけた奴に対する怒りを剣に込めて俺は俊敏度を全開にして接近、すぐさま連撃を叩き込む。
片手剣四連撃技、《エクシア》。
《エクシア》は武者の巨躯にヒットする。そして俺は後ろに回り込み、右膝の裏を斬りつける。俺の想定通り武者は膝を付く。このチャンスは逃さない。
片手剣水平六連撃集中技、《パーティクル・リンク》。
通常の六連撃技の《パーティクル》の派生技。
連撃で一点を攻撃。胴体に隙が生まれる。これが狙いだ。片手剣二連撃技、《スラット・リン
ク》で胴体を掻っ捌く。武者は呻き声一つ上げずに死んだ。そこには炎に侵略された森と、武者の魔石だけが残った。
私、刀の一族の生き残り《シーナ・アインハルト》は森で戦いを見ていた。そして《彼》を見た。黒き剣を振るう黒髪黒目の少年。四つのスキルを発動してとどめを刺した瞬間、彼の軽装備な灰色のコートが黒いロングコートに変化してすぐに戻った。それを表すなら、黒き剣士。
私は事後の報告書の最後に《黒き剣士》の名前を書いた。
《アルタイル・アリエル》。
次の日、ダンジョンから帰った後。
「よっと……」
いつもお世話になっている宿の部屋に戻りベッドに座る。
「修行に行くか」
ダンジョンの後には修行。これが一日のルーティンになっている。
外壁の外で素振り千本。型の調整。
「おい、貴様!」
誰かに声を掛けられる。そいつは白銀の鎧を身に纏った騎士。そして胸には薔薇のエンブレム。
「《ロゼラリア・クラン》の団員が何の用だ」
「我らが主神、ロゼラリア様がお呼びだ。一緒に来てもらおう」
「……ふぅん」
「貴様!何故剣を振り続けている!早く来んか!」
「断る」
「なっ……クソ。どうやら力ずくで連れていくしかないらしいな!」
その男は腰の剣を引き抜く。俺はため息をつきながらナイト・プレートを鞘になおして地面に置いていた量産型の片手剣を手に取り剣を騎士に向ける。
「貴様、その武器はどういうつもりだ!」
「どうもこうも、あんたにあの剣を使うのはもったいなくてな。今はこれしか無いから」
「この……主に会わせる前にその口、切り裂いてやるわ!」
そう言って男は冒険者カードを取り出し、それをタップする。俺のカードは『クラデオルに決闘を申し込まれました。承認しますか?』と空中に映し出した。ため息をつきながら、それのOKボタンをタップ。そして条件は『一撃決着条件』。一つの技で全てを決める。
空中に十秒のカウントダウンが表示される。お互いに剣を構え、集中。
3、2、1、GO!
俺は一瞬早く走り出し、剣技を発動させる。クラデオルは両手剣上位単発重突進技、《ギガゲイン》を発動。互いに間合いに入った瞬間。剣はぶつかる。キィン!とぶつかった二本の剣。そして、クラデオルの剣は二つに折れ、先端は地面に刺さる。
単発突進技――《ソニックスラスト》
俺は剣を鞘に収め、
「あんたの主神に伝えておきな。俺は……〝アンタ等に嫌われている〟ってな」
騎士は膝を付いたまま黙っている。俺はその場を去った。
そしてその決闘を見ていた者がいた。
「アリオス様、彼は一体何ですか?主神の加護もなく、レベルアップすらしていないのにあ
の強さ……」
それに神が答える。
「う~ん……彼は特別なんだ。その特別さに俺達、神も恐れている。それに……彼の魂を気に入っている爺さん婆さんがいるからなあ……」
(けど、ロゼラリアがあの子を求めているということは………彼が……)
「運命ってのは不思議だ……神ですらわからないものが突如現れる」
「ま、見てれば面白いと思うよ」
ダンジョンの中、俺は紫色の液体――回復ポーションを飲み、傷を治す。
「……帰るか」
ポーションを使いながら一対一の戦いを続ける。これがソロで最も効率の良い戦い方だ。
功績、というか実力が認められた俺は最前線の下層に潜ることが許され、今いるのは七十六層。本当の死地といえる。
「きゃあああああ?」
(なんだ?)
声の下に走るとそこには八人ほどのパーティーが。その中にいる女性。その子がスケルトンに襲われていた。
(……っ)
俺は躊躇った。ここで助けてどうなるかを考えてしまった。だけど、俺は何の為に冒険者になった。英雄になる為だ。
「ハァッ!」
スケルトンの頭、胸、股にかけて真っ二つにする。周りにいる他の個体は三十秒程で仕留めた。
「無事か?」
「あ、ありがとうございます!」
「助かった……」
「本当にありがとう」
「君は……」
「俺は、アルタイル・アリエル」
彼らは《クラリン・クラン》の団員らしい。数はこれだけのようでかなり小規模。しかしこの階層に潜ってこられるだけの実力はあるみたいただな。
「アルタイル……どこかで聞いたような……」
ギリギリ記憶の外らしい。
彼らと俺が安堵したその時、真の地獄が襲う。
「ワォォォォォォォ!!」
狼にも似たその声が大きな足跡で近づいてくる。
「……なんだ……あれ……」
ゾクッ、俺達に悪寒が走った。それは、《絶望》だった。
姿は真っ白の巨人。大剣と盾を持った巨人はこっちに向かってくる。
「う、うわあああああ!!」
団員の一人が恐怖で逃げ出した。俺達もそれに続こうとする。しかし、俺達がそっちを向いた
その瞬間。その男の首から上が無かった。
そう、消えていた。俺達がそれに気付いた時、その巨人は死者と俺達の間に立っていた。
「嘘だろ…」
そして四人。一人。死んでいった。
「くっ……」
(やるしかない!)
「ハアアアアアア!」
俺は剣技を無数に繰り出す。
しかしそれは触れる前に叩き落とされ、その斬撃は俺の前に現れた。剣を身体で支え、無理矢理抑える……俺は吹き飛ばされ、壁にぶつかった。
そしてまた一人。
「助けて……お願い……助けて……!たすけ……」
俺がさっき助けた女の子の首は、消え去った。
(……俺の身体、もってくれよ……!)
『これは、俺の未来。俺の時間は全てを置き去る。その時俺は』
詠唱中にも大剣は俺を襲う。それを躱しながら、傷つきながら、詠唱し続ける。
『神に追いつく。人は、それを、黒き者と呼ぶ。俺の時よ、進め。』
「《ブーストアクセル》!」
武技は神の力でスキルに統合された。そしてあらゆるスキルは詠唱を行うことによって最大限の効果を発揮する。
そしてこれが今の奥の手。意識を一千倍に加速させる技。しかし万能ではなく脳にかなりの負担をかける。
「届いてくれ……!」
〝我が血肉を喰らいて走れ、天の欠片〟
「……ッ!」
奴は心象領域とでもいうべきか。禍々しい領域を広げる。そこにたった一粒の雫が落ちる……。
――――ピチョン。
剣圧。剣が押し出す空間そのものを刃に纏い、次元を切り裂く。その刃は――――――――
――――――――――〝飛天〟
「……アア、アアアアアアアッ?」
黒剣と大剣がぶつかった瞬間。なにかが起きた。質量が圧倒的に大きいはずの大剣が、まるで元々無かったかのように、消え去った。
「うおおおお……アアッ!……アアアアアッ?」
そのまま奴の体を切り裂き、上半身を吹き飛ばす。
俺は彼らが残した剣を、槍を、斧を、弓を、杖を全て持ち上げダンジョンから緊急脱出する為
のクリスタルを取り出し、叫ぶ。
「テレポート…冒険者ギルド!」
神々のもたらした道具。使わせてもらうぞ。
「君は……」
「一体その武器はどうしたんだ!」
「あ、ああ、ああああ……!」
一人の神が涙を浮かべながらこっちを向いている。
「それは、うちの子の、僕の、家族の物だ……」
「彼らは、死にました……」
その神は膝を突き、泣き崩れる。
「……何があったか説明してもらえるかな」
そう言ったのはマティリス。
「それは……本当かい……?」
説明した後、ギルドに激震が走る。
「俺のせいです……俺が、助けられなかった……」
「いや、君は戦い抜いた。誇るべきことだ。それに、彼ら勇者の武器をこうして持ち帰って来てくれたじゃないか。」
「ああ、ありがとう……うちの子を、ありがどう……」
「くっ……うあああああああ!!」
その声は街中に響き渡った。後に《神の泣き声》と呼ばれるそれは、この物語の始まりだった。
あの事件の後、俺は《黒き剣士》の異名を与えられた。
これほど俺に似合った名前はないだろう。〝死神〟〝神々に嫌われた男〟に相応しい名だ。
あの巨人の正体はまだ分かっていない。ギルドからコードネーム《ホワイトディザスター》を付けられたその個体。神々の知識にもなかったその巨人は、冒険者の心に闇を落とした。
そしてこの悲劇はまだ、終わらない。
「せあっ……」
四連撃剣技、《エクシア》
技をぶつけたリザードマンを切り裂き、そして次の個体。リザードマンエンペラー。片手長剣にバックラーを持った帝王。
「グルアッ!」
振り下ろされた剣を弾き――。
「……〝リバーサルカウンター〟」
俺のオリジナル技。相手の剣を弾き爆音をぶつける《リバーサル》と空間を切り裂く斬撃〝飛天〟を合わせた技。相手の攻撃の隙。硬直時間を狙って爆音と〝飛天〟をぶつける。
長剣ごと体を吹き飛ばし、竜剣士は灰となる。
「……」
剣を鞘に入れて歩き出す。
道中のモンスターも全て殺し、気が付くとそこは……
「ボスの部屋……」
禍々しい巨大な扉。そこから溢れる黒い気配。
「……」
俺はそこに入った。
ここで死ぬのもアリだと思ったからだ。最後くらい華々しく……一人で散りたい。
「……」
無言で剣を構え、敵を待つ。すると奥からソイツが出てきた。それは二足歩行の豚のようなデカブツ。第七十六階層ボスモンスター《グレフリオ・レッド》
「……」
走り出した俺に反応し、そいつも走り出す。
「ブルルッ!」
片刃の大剣を振り回したそいつに密着し、
「……アアッ!」
片手剣上位技、十連撃。《プロミネンス》
「……吹っ飛びやがれ」
豚は大きく後ろに吹っ飛んだ。そして俺は更なる攻撃を……。
「グガアアアアア!!」
しかし大豚は大剣を高速で振り回し、反撃を始めた。
「……っ」
(速い……)
図体に対して動きが俊敏だ。
「ぐっ……」
捌ききれずに攻撃をもろに受けてしまう。だけど俺は立ち上がる。自分でも何故立てるのか分からない。けれど、俺の魂が生きているのなら。
「う、うおおおお!」
俺の剣は動き続ける。死ぬまで……。
まだだ…まだ、終わってねぇ……!
(動け、動き続けろ!こいつを、殺すまで……!未来に……つなげ―――)
「アルタイル!」
「やめて!」
「やめるんだ!」
誰か……喋っている…?
そんなことはどうでもいい……。剣を握れ。命を込めろ……魂を、燃やせ!
「アアアアアアアアアアッ!」
俺の身体から闘気と炎が溢れ出る。神威は持っていない。英雄になる資格のない俺が持つべき武器ではないから……。なのに。
ガッ……。
俺の動きが止まる。何かに掴まれた――?
「……?」
「何やってんだ師匠……アリス!」
「何って、弟子の馬鹿を止めない師匠が何処にいるんだよ!」
「悲しそうな目、しないで……アナタまで、そうならないで……アナタの目は……輝いていた、あの時のアナタの心は……」
「!」
「二人とも、炎が!」
「へっ、こんなのポーションでどうとでもなる……」
「私達を信じて……!」
「……!」
そうだ……身体はとっくに思い出していたんだ。俺は、英雄に!
「英雄になるんだろ!アルタイル!」
「アル!」
「……ッ!」
俺の中で何かが変わった。
いや、変わったというより、進んだというべきか。俺の闇が晴れて世界がハッキリとする。
「ここは私たちが守る。君たちは体勢を整えてくれ」
「ああ、頼むぜ《団長》!」
長剣と大盾を操る銀髪の人間。マティリス・クラン
「アルテイシア!」
「任せろ!」
『我の声を聞いた炎の精霊よ。ここに力の軌跡を記し給え……』
「《フレイムロード》!」
魔法で放たれた炎の軌跡。
「これを飲め」
師匠が取り出したハイ・ポーションを飲み干し、俺達は剣を握る。
「いくぞ!」
「応ッ!」
「ええ!」
「ハアッ!」
流水剣・第六秘剣〝天叢雲剣〟!
「イヤアアアアア!」
細剣十二連撃技、《コスモ・ストライク》
「せあっ!」
神約八連撃スキル《メテオストライク》
「ハアアアアアアッ!」
片手剣七連撃技。《エクシオン》
「……っ」
まだだ、まだ速く……!
背中にある《アイアンブレード》の持ち手を握り、抜剣。
「グガアアアアアッ!」
「……せあああああっ!」
左の剣で大剣を弾き、連撃を繰り出す。右、左、右、左。
神の加護もない。ただの連撃は流星群のように輝き、加速し続ける。
その時、《アイアンブレード》が吹き飛ばされる。そして俺は………覚悟を決め、名を呼ぶ。
「……神威!」
俺の背中の空間が輝き、それは姿を現す。アイアンブレードの鞘が地面に落ち、入れ替わるように現れた刀を引き抜き、左手に握る。
「せあああああああああッ!―――――――〝飛神〟!」
神威で放つ〝飛天〟時空を切り裂き、その刃で押し出す。世界を斬る技。
今度の連撃は炎、闘気の全てを乗せ、更に詠唱省略の《ブーストアクセル》を発動。
二十連撃を超えるであろうその剣撃の後。《ナイトプレート》と神威を突き刺す。
ディオン、師匠、アリス、《マティリス・クラン》のみんなの声。
「「いけえええ!」」
「アルタイル!」
「アル!」
「……ぁぁあああああああ?」
真相解放。武器の蓄積した思い、経験。性質を解放する。《ナイトプレート》は俺の暗い夜のような想いを。神威は英雄になりたいという俺の願いを。黒い光と黄金の光が螺旋に重なる。――――竜の力!魂を喰らえ、砕け、ブッ壊せ―――――――――――!
「……竜王の術――〝竜牙旋喰(ドラグリープ・イーター)〟!」
螺旋となった竜王の顎はボスの身体を内側から吹き飛ばした。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――get.
後に聞いた話によるとマティリス・クランは元々部屋の前にいたらしい。俺はそれに気付かずに扉を開けたみたいだ。何度呼びかけても反応せず、ボロボロになった俺を見ていられなくなったということだ。
俺は師匠、アリスに滅茶苦茶怒られた。ポーションを飲んだ後正座させられ、大体お前は、とか。無茶して、とか。まあ心配してくれたのだから、むしろ感謝だ。
そして冒険者ギルドに戻った俺達は歓声に包まれた。
活躍した俺達には新たな二つ名を名乗ることが許される。しかし俺が
「俺は今のままでいいです」
と告げたとき。みんなからどよめきが上がった。ホントにそのまま?とか、いいのか?とか色々言われたが、俺はもう少しこの名前を背負ってみることにする。因みにアリスは二つ名を《閃光》から《剣聖》に変更した。
しかし俺達の前にもう一つの絶望。そして希望が現れる。
俺は買った家に帰り、ベッドに飛び込む。
黒き剣士
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