無礼麺? 葉亜麺流?

なんだか雑貨店ざっかやの前の通りがさわがしい。


シエリアが見に行くとバイオリンの青年が主婦達から袋叩ふくろだたきにされていた。


しばらくして満足していったのか、女性と子どもたちは散っていった。


流石さすがどくで、少女はけ寄って手当てあてをした。


「いつつ……ありがとう。優しいおじょうさん。僕はマルネルっていいます」


とんがり帽子にローブを着ていていかにも旅芸人たびげいにんといった感じだ。


事情を聞くと状況は深刻だった。


「ローン30年で買ったストラディバリウスのヴァイオリンを弾くようになってからというもの、なぜだか子どもたちが集まってきてしまって。しょっちゅう誘拐犯ゆうかいはんと間違われてしまって。かずかずだけに毎度まいどさわぎになってしまうんです」


シエリアにはすぐにそれがのろいのアイテムであることがわかった。


おまけにマルネルには悪いが、ストラディバリウスも偽物である。


下手に触れるのは危険だと判断して、雑貨屋少女ざっかやしょうじょはビジネスパートナーの解呪屋かいじゅやさんを呼んだ。


すると黒いローブで顔を隠した少女がやってきた。


「あ〜、ほお〜、ふむふむ……」


すぐに彼女はのろい特定とくていした。


「これは″ともだち100人出来るかな?″ののろいですね。子供を強烈にきつけるというものなのですが、名前の通り100人の子供をくっつけるとのろいが解けます。人数さえ集めれば解呪かいじゅはそう難しくありません」


マルネルは泣きそうだ。


「ヴァイオリンが弾けなかったら商売上がったりだよ!! 僕は楽器をけて、ささやかな収入さえあればそれで満足なんだ!! 誰かなんとかしてくれないか!!」


困った謙虚けんきょな青年を放っておけない。


シエリアは指名しめいされたわけでは無いが、なんとかしてくれと言われたらなんとかするのがナンデモである。


マルネルの話からするにヴァイオリンをきながら街中を歩けば100人くらいは軽く集まるらしい。


しかし、その方法では誘拐犯ゆうかいはんひとさらいと勘違かんちがいされてしまう。


だから彼はさっきボコボコになぐられていたのである。


悪用あくようしたら手が付けられないほど恐ろしいのろいだ。


なんとか警戒心けいかいしんきつつ子供を集めねばならない。


シエリアとマルネル、解呪屋かいじゅやさんは頭をひねった。


青年はすぐアイディアを出した。


「コンサート……とかどうですか? いや、それだとお子さんは少ないですね……」


黒いローブの少女がそれを聞いてひらめいた。


「うたのおねえさんショーとかいいのでは?」


そしてシエリアも追加で案を出した。


「着ぐるみも居たらいいんじゃないかな?」


作戦がまとまるとシエリアはパラパラとカタログをめくりだした。


開催かいさいホールの手配、うたのおねえさんへの出演依頼しゅつえんいらい、きぐるみのレンタルなどをアッという間に終わらせた。


こういうところ″は″すごく頼りになるとマルネルも解呪屋かいじゅやさんもただただ、感心するばかりだった。


一週間もしないうちにセポール音楽ホールでの「みんなのおうたのかい」が開催かいさいされた。


会場費や出演者のギャラなどかなり高額になったが、シエリアの商才しょうさいでなんとか乗り切った。


チケットもさばけて、これでプラマイ0といったところだ。


こうしてライブは始まった。


「は〜い!! 良い子のみんな〜!! サシャおねえさんだよ〜〜〜!! 今日はみんなでたのしく歌っておどろうね〜〜!!」


さすがにプロである。


マルネルも演奏自体えんそうじたいはかなり上手く、優雅ゆうがゆみさばきで周りをうっとりさせた。


きぐるみの中のシエリアも解呪屋かいじゅやさんも汗だくになりながら盛り上げた。


そしてその場はピークに達しつつあった。


「今です!! 行進開始!!」


のろいのスペシャリストが指示を出すとおねえさんが定位置ていいちから動き始めた。


「は〜い!! 会場のみんな〜〜!! おうたのマーチやるからね〜〜!! おねえさんについて、歩いてみよう!! さぁ、いっちに、いっに!!」


すると子どもたちが次々と列を作り始めた。


マルネルはすかさずその先頭にすべり込んだ。


これなら大勢おおぜいの子供が集まっても親御おやごさんに不信感ふしんかんを与えることがない。


うたのおねえさんショーはこの上ないシチュエーションだったのだ。


「いっちに!! いっちに!! さあ、楽器のおにいさんのあとにつづいて〜〜!!」


青年がホールをくるくると回って行進すると子どもたちに円形の列が出来ていた。


まさに今がチャンスだった。


そして解呪屋かいじゅやさんが大きく声を上げた。


「マルネルさん、うたのおねえさん、いきますよ!! せーのッ!!」


一息置いて、会場が一つになった。


「「「と〜もだ〜ち100人、で〜きるかな〜!?」」」


すると今まで会場を包んでいた異様いような盛り上がりがパタリとおさまった。


なんとなく、くさりのようなものがち切られたようである。


あれだけ行進に熱心だった子どもたちも泣きながら母親を探し始めた。


こういう時でもマルネルがヴァイオリンを弾くと子供が集まってくるのだが、今は効果がない。


おそらく解呪かいじゅに成功したのだろう。


着ぐるみを着た女子2人は様子を確認しようと上半身を脱いだ。


同時に青年の腕の楽器が吹っ飛んだ。


それはそのままシエリアの腕に潜り込んでくる。


弾くとまずいことになるとわかりつつもシエリアの指はすでのろわれていた。


心無しか声が聞こえるような気もする。


(グゲグゲッ!! コイツの店、人だらけにして押しつぶしてやるけんね!!)


雑貨屋少女ざっかやしょうじょ抵抗ていこうしたがゆみは振り下ろされた。


「ギギギ……ギリギリ……ギギギ……」


まるでチョークて黒板をひっかいたような音がした。


会場の観衆かんしゅうは皆、耳をふさいだ。


(ぎいやあああ!! やめろ!! やめろこのクソ音痴おんち!!)


「ギリギリギリ……キーキー……ボスンッ!!」


ヴァイオリンはシエリアの腕から飛び出して、宙で爆散ばくさんしてしまった。


こうしてライブは大成功だいせいこうに終わりマルネルののろいのヴァイオリンも解決した。


30年ローンで買った楽器がのろい偽物にせものだったというのは気の毒でしかないが。


それでも、通りで生き生きと楽しそうにライブする彼を見ると依頼は成功だったなと思えた。


問題だったのはシエリアの店の方だ。


あのライブ以来、ネズミ一匹、店に来ないのである。


それどころか、通りに出ていくと人がけるのだ。


アフターケアしてくれるはずの解呪屋かいじゅやさんまで姿を現さない。


のろいのヴァイオリンをぶっ壊したのだ。きっと人を寄せ付けるのとは逆ののろいなのだろう。


「くすん……」


彼女がなみだぐみ始めた時、謎のマーチが聞こえた。


「は〜い!! みんな〜!! おうたの時間だよ〜!!」


「たったら、たったら♪ ひとりじゃ〜♪」


「らったらららら♪ かなしいもんなぁ〜♪」


マルネルはヴァイオリンを、解呪屋かいじゅやさんはドラムを叩きながらやってきた。


うたのおねえさんまでいる。


後ろには老若男女ろうにゃくなんにょが死ぬほど大勢、集まっていた。


シエリアを1人にしたくはないと、わざわざのろのアイテムを身につけて、はげましにやってきてくれたのだ。


これがきっかけで、一年に一回、裏路地ろじうらに集まっておどるという奇祭きさいが生まれたのだった。



終わりよければすべて良し。今回の依頼はスッキリと解決したと思います。


でもこういう話、どっかで聞いたことあります。


無礼麺ブレイメン? 葉亜麺流ハアメル? どっちだっけ……。


いずれにせよラーメン屋さんのお話だった気がするなぁ……というお話でした。

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