7 本当の化け物

 荷物もアイテムボックスにしまったし、本格的にこれからについて考えないといけないな……。


 一応パーティ機能ってのも解放された訳だが、確認したところどうやら他の人とパーティを組むと能力が上がると言うものらしい。

 だから今は意味が無い。俺以外に誰もいないからな。


「はぁ……やっぱり、魔物と戦うしかないのか」


 別の階層へと移動するための階段はここから物凄く遠い。

 出来る限り避けて行ったとしても、どこかしらで絶対に戦わないといけなくなるだろう。


 かと言ってこのまま何もしないんじゃそれこそ終わりだ。


「……そうか。そうだな。やるしかないんだ」


 覚悟を決めろ俺。

 ここで惨めに終わるなんて、そんなの絶対に認められないだろ。


 せっかく希望が見えてきたんだ。

 こんなところで終わってたまるかってんだ……!


「よし、そうと決まればやってやろうじゃねえか……! 俺は絶対に生きて脱出してみせるからな……!!」


 俺自身に言い聞かせるようにそう叫び、再び通路へと入る。

 そして、少しずつ奥の方へと進み始めた。


 状況的には最初と何も変わらないように思えるが、さっきまでと違うのは暗視と探知、そしてマップの存在だろう。

 これがあるだけで生存率は段違いのはずだ。


 出来れば魔物の位置がわかる索敵スキルも欲しいが……まあそれは贅沢ってものだろう。

 ないものねだりをしても仕方がないし、今ある物でやりくりするしかないな。


 ……それから少し経った頃だろうか。

 ついに恐れていた事が起こってしまった。


「ああくそっ、やっぱこうなったか……!」


 よりにもよって、階段に行くためには絶対に通らないといけない道の途中に、一体の魔物が立っているのだ。


 こうなると本当に不味い。

 ここを通らないとそもそも階段へは行けないんだからな。 

 迂回する訳にもいかないし、倒すか一旦別の場所へ誘導する必要が出てくる。


 ただ、その誘導の途中で他の魔物と出会わない保証も無いし、場合によっては状況が悪化する可能性もあった。

 せめて索敵スキルがあれば誘導出来たのだろうが、無いものは無い。


「はぁ……。やるしかない……か」


 こうなった以上、残された手は一つ。

 ……戦って、勝利する。

 それしかない。


 であれば、先手必しょ……おぉッ!?


「のわあぁぁぁっ!?」


 魔物に向かって駆けだそうとした瞬間、俺の体は前方へと勢いよく吹き飛んでしまった。

 そして地面をゴロゴロと転がる。


「あぁ、くそっ! 痛……た、くない……?」


 思い切り地面に叩きつけられたはずなのに、どういう訳か痛みは無かった。


 何だ? 一体、何が起こってる……?


「キシュァァァ……!」


「ッ!?」


 不味い、ちょうど魔物の目の前に転がり込んでしまったらしい……!

 けど避けるにも今からじゃもう間に合わな……


「……い?」


 死を覚悟した俺は、気付けば魔物から距離を取るように後方へと下がっていた。

 いやおかしい。あまりにもおかしい。


 俺にこんな動きは出来ない。

 スキルも無ければ力も無いんだ。

 こんな高ランクの冒険者みたいな動きなんて出来るはずが……いや、待て。


「もしかして、レベル……か?」


 そう、レベルだ。

 俺はブラッドシーカーを倒したことでレベルが上がっていた。

 そしてもしレベルが上がることで身体能力が向上するのだとしたら……この妙な状況も、一応は辻褄が合う。


「キシュゥゥッ!!」


「ッ!?」


 駄目だ、考えるのは後にしろ!

 今はコイツを何とかしないと不味い!


「シャァァッ!!」


「くっ……あっぶねぇ……!」


 魔物は両手に持った巨大な剣を勢いよく振り下ろしてきた。 

 それをギリギリのところで回避し、同時に奴のステータスを表示する。


 ◇――――――――――――――◇


  個体名:ブラッドウォリアーの成体

  レベル:390

  所持スキル:上級剣術

  状態:良好


 ◇――――――――――――――◇


 持っている武器からして何となくそんな気はしたが、どうやらコイツはブラッドウォリアーと言う魔物らしい。

 所持スキルも上級剣術だし、まさに名前通りの剣術に長けた戦士って所だな。


「さて、どうしたもんか……」

 

 正直、勝ち筋が見えない。

 あのブラッドシーカーよりもレベルが高く、それでいて状態も良好ときた。

 いくら俺の身体能力が上がっているとは言え、まともに打ち合って勝てる相手じゃ無いのは確実だろう。

 

 ……と、早くも勝利を絶望視していたその時だった。


「ッ!!」


「な、何だ……?」


 突然ブラッドウォリアーは俺に背を向け、向こう側へと歩き始めてしまった。

 その歩みはとても慎重で、まるで何かを警戒しているかのようだ。


「一体何が……ん? あれ、杖か……?」


 ブラッドウォリアーに隠れてよく見えないが、どうやら向こう側には魔物がいるらしい。

 杖らしきものが辛うじて見える。


 ……杖?

 それじゃ向こうにいるの、ブラッドウィザードって奴なんじゃないか……!?


 確かこのダンジョンに出現する魔物の中にはそんな名前のもいたはずだ。

 ウィザードって付くくらいだし、杖を持ってるとなればソイツで間違いは無いだろう。


 にしても不味いぞ……魔法攻撃までされたんじゃ流石に分が悪すぎる……!


「……キシュァァァ!!」


「ッ!!」


 しばらくの膠着状態の後、ブラッドウォリアーが動く。

 しかしその攻撃先は俺では無く、ブラッドウィザードの方だった。


「フレイム……ランス……」


 すると、今度は掠れた声が聞こえてくる。

 恐らくはブラッドウィザードの声だろう。


 そしてその瞬間、巨大な炎の槍がブラッドウォリアーの方へと放たれた。


 ……いや、何なんだよあの魔法は。

 人間が使う魔法とは、桁が違い過ぎるぞ……!


 あんなの食らったらひとたまりも無い。

 一瞬で黒焦げになるのが見え見えだ。


 ……だが、ヤバいのはブラッドウィザードだけでは無かった。 


「シュアァァッ!!」


「おいおい、嘘だろ……?」


 ブラッドウォリアーは放たれた魔法を剣で斬り裂き、霧散させてしまった。

 あの規模の魔法を、剣だけで無力化してしまったのだ。


 文字通り、化け物だ。

 正真正銘の化け物と化け物が今、俺の目の前にいるのだった。

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