4 初めてのレベルアップ

「うあ゛あ゛っぁ゛ぁ゛っ!? ……ぁ?」


 目を開けると、俺は再びあの祭壇にいた。


「あれ……俺、確かにアイツに殺され……んぶっ……ぐぶぁっ」


 あの瞬間の事を思い出した俺は吐き出してしまう。


 あの時、確かに俺は切り裂かれたんだ。

 痛みが、恐怖が、生々しいものとなって思い起こされる。


 ……あぁ、駄目だ。

 考えるとまた吐いてしまいそうになる。

 とにかく、今は落ち着こう。


「すぅ……はぁ……」


 深呼吸をして精神を落ち着かせる。

 そのおかげか吐き気は収まった。


「ふぅ……これでよし。次は……情報の整理か」


 色々と起こり過ぎて頭がこんがらがりそうだからな。

 一つずつ解決していこう。


 まず一つ目……は、あの魔物についてだな。

 今の俺では瀕死状態ですら勝てないと言うことが分かった。

 まあ、それが分かったところで何も進展はしない訳だけども。


 次はあの鑑定スキルもどき。

 突然使えるようになったあれは恐らく俺の固有スキルだどうたらってのと関係しているんだろう。

 確か、ステータス表示……とか言ってたっけ。


 ううむ、便利ではあるが今の俺に使い道は無さそうだ。

 相手の情報が分かった所で俺には戦う手段が無い。

 悔しいが、宝の持ち腐れってことになる。


「……あっ、待てよ?」


 もしこれが鑑定スキルに近しいものだとするなら、もしかしたら魔物以外にも使えるんじゃないのか?

 例えばそう……とか。


 と、そう考えた瞬間――


 ◇――――――――――――――◇


  グリーンローズの祭壇

  適性レベル:400

  出現魔物:ブラッドシーカー、ブラッドウォーリアー、ブラッドウィザード


 ◇――――――――――――――◇


 再び、俺の視界に文字列が出現したのだった。


「ははっ、やってみるもんだな」


 どうやらこの能力は場所にも使えるらしい。

 これは鑑定スキルにも無い能力だ。

 この力、思ったよりとんでもない代物なのかもしれないな。


 まあそれは良いとして……だ。


「やっぱりここは祭壇だった訳か……」


 グリーンローズの祭壇。それがこのダンジョンの名前なのだろう。

 出現魔物にいるブラッドシーカーと言うのもさっきの奴と一致するし、確定とみて良さそうだ。


 ただ、そうなると一つの疑問が浮かび上がって来る。

 と言うのも、グリーンローズと言うのはおとぎ話に出てくるハイエルフの一族の名なのである。


 なんでも彼らは遠い昔、物凄い魔法技術で世界を救ったのだと言う。

 しかしそれがあまりにも常識外れな偉業だったせいで、多くの人々はその実在を信じてはいない。

 ただの作り話……そう考えるのが自然だった。


 そしてそれは俺も例外では無く、今の今までその実在を信じたことは無かった。

 だから今こうしてグリーンローズの祭壇なる場所にいることも中々に信じ難いのだが……


「……信じるしか無いよな。この状況じゃ」


 今日だけで何度も妙なことが起こりまくっているんだ。

 おとぎ話に出てくる存在が本当に存在していても、信じるしか無かった。

 ……信じざるを、得なかった。


「はぁ……とんでもない所に転移しちまったんだな、俺……」


 確かに祭壇の様子から普通じゃない何かは感じていたけどさ。

 まさか、おとぎ話に出てくるような代物だとは思わないじゃないか。

 挙句魔物は強いし、外に出られる気もしない。


 ははっ、やっぱりここで終わりなんだ俺の人生は。

 せっかく希望が見えたってのに、また絶望に突き落とされるんだ。


 ……まあでも、それは慣れてるか。

 形は違えど、これでやっとあの絶望に満ちた生活からおさらば出来るのは事実だし。

 ちょっと夢が見られただけ、儲けものなのかもしれない。


「……なんて、受け入れられるかよ」


 ああ、そうだ。

 俺はまだ報われてない。

 何一つ、成せていないんだ。


 あんなクソッたれな毎日を生きてきたのに、このままここで終わりだって?

 認められるかよそんなの……!


 まだ何も報われていないのに、諦められる訳が無えだろ……!


「ふぅ……」


 覚悟は決めた。

 俺はもう一度、奴と戦う。


 二度経験して分かったが、恐らく今の俺は何度死んでもここに戻される状態になっている。

 多分リスポーンってのが関係しているんだろう。

 であれば、俺がやるべきことは一つだ。


 ……勝てるまで挑み続ければ良い。

 

 何度死んでもここに戻されるのなら、その度に挑んでやるさ。

 どれだけ苦痛だろうが、どれだけ怖かろうが、今までの絶望の日々に比べれば幾分かマシだ。


 生憎と、耐えることには慣れているんだよ……俺は。


 ◆◆◆


「はっ……!? くそっ、また死んだのか……!」


 もう何度死んだだろう。

 3桁になった辺りから数えるのをやめてしまったから分からない。

 けど、それだけ死んだからか俺にはある変化が起こっていた。


「は、ははっ……だんだんようになってきたぞ……!」


 回数を重ねるごとに、奴の攻撃が少しずつ見えるようになってきたのだ。

 恐らくはこれも、プレイヤーと言うスキルの何らかが関係しているのだとは思う。

 この分なら、そろそろ一撃だけなら入れられる……はずだ。

 

「よし、もう一度……!」


 祭壇を降り、通路へ向かう。

 そして奴の元へと走った。

 今すぐにでもアイツをぶち殺してやりたいと、そう思いながら。


「いたな……今度こそ、今度こそは倒してやる」


「キッ、キケ……!?」


 何度殺してもやってくるからか、奴は俺を見るたびに驚いたような声を上げるようになっていた。


 確かに考えてみれば怖いよな。

 何度も何度も殺してるのに、その度に同じ奴がやってくるなんて。

 

 でも、それも今回で終わらせてやる……!


「キキッ……!!」


「ッ!!」


 見えた……!

 やはり、今の俺は奴の攻撃を目で追える……!


「くっ……」


 とは言え、俺の身体能力では攻撃が見えた所で完璧には避けられない。

 このままでは奴の攻撃によって左半身が使い物にならなくなってしまうだろう。


 ……だが、俺の勝利条件は生き残ることじゃない。

 お前を殺すことだ……!!


「うおおォォッ!! これで、終わりだァァァッ!!」


「キッ!? ギグェッ……」


 全力で斧を振り下ろし、奴の頭にぶつけた。


 勿論その威力は大したものじゃない。

 俺の力とスキルでは低級の魔物すら殺せないのだから。

 

 けど、瀕死状態となれば話は違う。

 奴は今にも死にそうな程の瀕死状態だ。

 故に今の一撃は、奴にとっては決して無視できない一撃となったのだった。


「やった……のか……? う゛ぐっ……あ゛ぁ゛っ……!!」


 勝利を確信した瞬間、左半身に信じられないくらいの激痛が走った。

 奴を倒したことで気が抜けてしまったんだろう。

 爪によって切り裂かれた左半身が有り得ないくらいの痛みを生み出し始めている。


 ……だが、どういう訳かすぐにその痛みは治まった。

 同時に、あの無機質な声が脳内に響く。


【レベルが上昇しました】


 どうやら俺は、レベルとやらが上がったらしい。

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