3 リスポーン
【固有スキル≪プレイヤー≫の発動条件を達成しました】
【個体名ノアのプレイヤー機能が一部アンロックされます】
……何だ、今の声?
固有スキルが……何だって?
【解放:ステータス表示】
【解放:リスポーン】
【次の解放に必要なレベル:「1」】
な、なんなんだ一体……!
いきなりそんなことを言われても……
「……って俺、生きてる……のか!?」
おかしい、だって俺はアイツに……オークに手足を食いちぎられて死んだはずだ……!
あんな状態で生きてるはずが無……い?
「……あれ? 手も、足も、ある……?」
飛び起きた俺の目にまず入って来たのは、俺自身の手足だった。
それも傷一つ無い万全な状態だ。
となるとあれは夢……?
いや、そんなはずは無い。
あの恐怖は、あの痛みは、確実に現実のものだった。
しかしそうなると、食いちぎられた四肢が元に戻ったと言うことになる。
そんなことが本当に可能なのだろうか?
希少とされている中級回復魔法スキルでさえ、失った手足は再生させられないと言うのに。
……まあでも、助かったことに変わりは無いんだ。
今は一旦、状況の把握を優先するとしよう。
辺りを見回した感じ、さっきまでいた通路とは全く別の場所のようだからな。
「さて……と」
石で出来た台座から降りる。
どうやら俺はこの祭壇のような場所に寝かされていたらしい。
周りには文字も掘られているが、全く見覚えが無いものだった。
多分、古代文明とか言うやつなのだろう。
俺も詳しくは知らないが、ギルドで話している人がいた気がする。
まあそれはこの際どうだって良い。
重要なのは、俺はどういう訳か全く別の場所へと転移してしまった……と言う点だろう。
もしここがダンジョンの深い所であるなら、その時点でほぼ詰みが確定してしまう。
悲しい話だが、俺の力じゃダンジョンの奥から一人で脱出なんてまず無理だからな……。
かと言って、ずっとここにいれば良いかと言われるとそれも駄目だ。
アドルフに持たされていた水と食料があるものの、決して無限じゃない。
このままここに居た所で待っているのは餓死だろう。
もしかしたら他のパーティが助けに来てくれるかもしれないが、それもいつになるのかも分からない。
何よりアドルフたちが救援を呼ぶとも思えなかった。
つまり、俺には進む道しか残されていないってことだ……。
「はぁ、行くしかない……か。よし、覚悟を決めろ、俺……!」
気合を入れ直し、祭壇から続く通路へと入る。
幸いにも生物の気配は無い。
だが壁にかけられた松明の届かない部分が真っ暗な闇となり、何とも言えない恐ろしさを感じさせた。
「何も、いない……よな?」
恐怖に耐えつつ、少しずつ、慎重に奥へと進む。
……もし魔物に見つかれば一巻の終わりだ。
あれだけ大それた祭壇があるのだから、きっとここはダンジョン中でも相当な深さの場所なのだろう。
となれば出てくる魔物も相当に強力なはずだし、俺なんかじゃ絶対に勝てる訳が無い。
遭遇しない内に、さっさと次の階層へ移動する。
それしか俺が生き延びる術は無かった。
しかし、現実はそう上手くはいかないもので――
「ッ!?」
一本道の通路を、魔物が塞いでいるのだった。
「そんな……ここまで、なのか……?」
ここの通路はそんなに広くは無い。
先へと進む場合、どう足掻いてもアイツに発見されてしまうだろう。
そうなれば逃げるか倒すしかない訳だが……後者は絶対に無理だ。
では逃げるのはどうか。
……正直、それも難しいと言う他無い。
そもそもアイツの横を通って向こうに進むこと自体が難しいし、逃げながら別の階層への階段を探すこと自体が俺の走力ではほぼ不可能だ。
「は、ははっ……詰み、だな……」
完全なる詰み。
もはやどう足掻いても、俺に希望なんてものは無い。
俺はこのまま、ここで餓死するしかないのだ。
――と、その時だった。
◇――――――――――――――◇
個体名:ブラッドシーカーの成体
レベル:320
所持スキル:暗視、探知
状態:瀕死
◇――――――――――――――◇
「うわっ、なっ……なんだこれ!?」
突如、視界に謎の文字列が出てきたことに驚いた俺は叫んでしまった。
「キケッ!?」
「ッ!!」
不味い、今の叫び声のせいで気付かれたか……!?
いや待て……アイツ、全身傷だらけだ。
体中から血を噴き出しているし、今にも倒れそうな程にふらふら歩いている。
恐らくは瀕死……ん、瀕死?
「これ、もしかしてあの魔物のこと……なのか?」
もう一度謎の文字列へと目を移す。
そこに書かれている「状態」と言う項目……そこには瀕死と書かれていた。
生憎ブラッドシーカーなんていう魔物は聞いたことが無いから確証は持てないが、状況からしてこの文字列はあの魔物についての情報であると見て良いだろう。
つまり俺は今、鑑定スキルのような事をしていると言う訳である。
けれど――
「は、ははっ……そいつは嬉しいな……だけど、今じゃ無いだろ……!」
残念ながら、それが出来たところで今の俺のピンチがどうにかなる訳じゃない。
今の俺に必要なのは戦う力なのだ。
目の前にいる魔物をどうにかして倒せなければ、俺はあの長い爪で八つ裂きにされて終わりなのである。
「クソッ! せっかく有用なスキルを手に入れたってのに、ここで終わるのか!? それもあんな瀕死の奴に……! いや、待て……そうか、瀕死か……!」
確かに俺は低級の魔物すら倒せない。
それは紛れも無い事実だ。
けど、あの状態ならどうだ?
今にも倒れそうな程にフラフラになっている魔物なら、今の俺でもどうにか出来るんじゃないのか!?
幸運にも荷物の中にはアドルフに持たされた控えの武器がいくつかある。
これを使ってどうにか一発攻撃を当てられれば、俺でもアイツを倒せるかもしれない……!
「やってみる価値はある……いや、やらなきゃ駄目だ!」
震える足に力を入れ、魔物へと向かって走り出す。
そして手にした斧を振り下ろ――
「キケケッ!!」
「ぁ……?」
その瞬間、俺の視界は四つに分かれた。
いや、違う……俺自身が、四つに引き裂かれ……て……
【リスポーンが発動しました】
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