13話 洞窟での出会いと外へ
洞窟で2度目の目覚め。ここは2か所目の安全地帯。
ここから先に進めば出口付近に大部屋と、安全地帯があるはずだ。
まだ慣れない洞窟での食事、そして準備を整える。「さぁ今日も行くよ」と声をかけてシルクを羽織って、リルを佩くいつものスタイル。リルを鞘から抜き放ち、安全地帯の扉を抜けて通路に出る。
昨日と違って心配なのは、安全地帯で休んだために、挟み撃ちが発生すること。入口から一本道を進んできた時とは違って、うろついている魔物が前後に移動しているはず。
少しだけその対策をする。横道で吟遊詩人の特技【敵寄せ】を使えば、一本道で魔物を倒しておける。そうしておけば、いきなり囲まれることも減るはずだ。
そう思って声に魔力を乗せるけど、思ったよりも敵が来ない。ぽつりぽつりと寄って来るものの、さくりさくりと切り倒していくと、来るまでの間が空いていく。「おかしいな」と呟くと、同意するようにシルクとリルも頷いている。
もう来なくなったしいいだろうと、横道を出て左右の道を見回すと、どちらにも魔物が全然いなかった。土の中にいるかもしれないから、警戒して進むけれども出会わない。
しばらく歩くと少し地面に揺れを感じ、次第に進む足も速くなる。そして予想よりも早く大部屋に辿り着くと。
――ドォンッ!と鎧の男が飛ばされていた。
大部屋では、こちら側を向いている3人の騎士らしき重装備の男と、その2倍ほどある背丈のエリマキトカゲの戦闘が行われていた。反対側の通路には、しゃがんだ人の頭がいくらか見える。
がに股の二足歩行で走り回るエリマキトカゲは、そのコミカルな動きとは対照的に強烈な頭突きを仕掛けている。「あぁ、こいつがいたから魔物が少なかったのか」と頭に浮かぶが、次いで頭突きを盾で受け、ゴォンという音と共に飛ばされる2人目の男を見てはっとする。
リルを構えてさっとエリマキトカゲの後ろから近づくと、屈みながら頭突きを防御している3人目の男が、盾の端から顔を見せて頷く。
それを見て、ふぅと一息、飛びかかり――――思いっ切り、リルを突き出す!
エリマキトカゲの腰の深くまで、バックアタックが上手く刺さる。本来なら流れ出る血は、波打つ刃の途中でリルに吸い取られている。
刺さった刃が抜けないために、大きく暴れ出したエリマキトカゲに振り回される。このままでは弾き飛ばされると、刃の向きに合わせて思い切り引き裂けば――美しい血の華が咲いた。
体の半分をパックリと開かれて、エリマキトカゲは倒れ込む。この大きさでありながらも魔物ではないようで、死体が残って霧散していない。
そこに疲れた表情をしながら重装備の男達が歩み寄り、完全に倒せているか確認をしている。そしてこちらを向いて、少し警戒した様子で話しかけてくる。
「――助かったよ。我々はここの調査に来ていてな。……少し、話を聞かせてくれないか」
「いいですよ。こちらも反対側の話を聞かせてもらえると助かります」
「それでいい。情報交換といこう」
「あとはこのトカゲ、どうします?」
「私達は討伐の証拠があればいい。残りは協力したから分割でいいと思うが、希望はあるか?」
「荷物になるので私には必要無いですね。食用に肉くらいでしょうか」
「承知した。捌いている間に話そう」
重装備の男性達は3人ともフルプレートアーマーに青いサーコートを着ていて、さらにヘルムまで被っていて見分けがつかない。
最後まで防御していた重装備の男性と話すことになったので、残りの2人はエリマキトカゲを捌いている。通路にいた男達は部屋の中を見て回っている。彼らも青いフード付きローブを着ていて見分けがつきにくい。
ここで話すと魔物に襲われる可能性があるが、この怪しい集団に囲まれて狭い安全地帯に向かう方が危険だ。魔物が襲ってきてもこの人数なら戦えるし、不義理なことをされたら全力で逃げよう。
「まずは質問をさせてもらいたい。我々が入ってきた方の情報が欲しいということだが、君はどこから入り込んだのかね?」
「文字通り反対側ですね。街道の中継地近くにこの洞窟の入口があって、そこからです」
「そうか。ここの奥は行き止まりのはずなんだが、開いていたのか。ちなみにどこに繋がっていたか教えてくれ」
「アインとストフの村の間にある中継地ですね。そこから少し、山に向かって歩いたところでした」
「開通の予定地ということか。しかし掘り切ったという話は無かったが……」
そう言い男性は唸る。持っている情報と違うため悩んでいるのだろう。
「……では奥がどうなっていたのかを、聞かせてくれ」
「ずっと真っ直ぐの洞窟で、横道に2か所、安全地帯がありました。そこで休んでここまで来たって感じですね。最初は魔物もいましたが、大分少なかったで、もしかするとあのトカゲにやられたのかと」
「なるほど。出口が開いている以外は、こちらの持っている地図通りの構造なのだな」
情報の擦り合わせのための質問のようだ。向こうの聞きたいことが終わったようで、今度は私から質問をする。
「入口から南に抜けてきているはずなので、首都に向かっていると思うのですが合ってますか?」
「あぁ、そこからなのか。ここを出て道なりに進めば首都に着く。だが村を一つ挟んでいるな」
「そこも道なりに行けば、迷わず着きますか?」
「大丈夫だ。問題ない」
「その村で何か気を付けることはありますか。宿が無いとかがあれば教えてください」
「宿は無いが寝る場所はあったし、不便はしないだろう。ただ変わったところではある。動物や魔物を飼っている家が多くてな。調教師の職業を持った住人が多く、労働力にしているらしい」
「魔物がいても、いきなり攻撃しないようにってことですか」
「そういうことだ。実際、道端を歩いていた」
いい情報を聞かせてもらった。魔物と共存する者がいことは知っていたが、そこまで自由にしている場所があるとは知らなかった。ぜひ立ち寄らせてもらおう。
「ありがとうございます。こっちの知りたいことは全部です」
「こちらもだ。どうやら解体が終わったようだが――荷物が多いな」
「そのようですね。どうします?」
「話してくる。少し待っていてくれ」
そう言い少し離れた場所で輪になり話している。その間にゲームのことを思い出してみると、巨大エリマキトカゲがいなかったことに気付く。もしかすると、彼らがここで倒した後だったのかもしれないと予想しながら、話が終わるのを待つ。
「またせたな」
「どうなりましたか」
「解体はしたがあのデカブツだ。このまま骨などを持って帰って、ここは危険だと報告する。だが開通の確認にもう一度、来ることになるかもしれんな」
「なんかすみません」
「君がいたからわかったのだ。気にするな」
とりあえず謝ったが、私が反対側を開けました、と正直には言い難い。
「では皆さんも、首都の方向に行くんですね」
「そうなるな。良ければ村まで送ろうと思うがどうだ」
「初めての道ですし助かります。洞窟はどのくらいで抜けられますか?」
「かなり近いぞ。30分もかからんな」
そう話した後、全員の準備が終わると首都の方向に歩き始める。最前列に今まで話していた男性と私、真ん中が解体済みのエリマキトカゲを持ったローブの男達、最後尾が重装備の男2人だ。警戒しているため誰も話さないまましばらく歩くと、土壁の枠に囲まれた光が見える。その白を潜ると、眩しさに思わず目を瞑ってしまう。
ゆっくり目を見開くと、そこは背が低い草の絨毯と、真ん中に土の一本線が描かれた、久しぶりの外だった――――。
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