12話 進化に合わせた連携で

 ランタンの光が揺れる中で目を覚ます。部屋の端は薄暗くて、今が昼か夜かの判断はできない。


 支度を整えて、シルク用の氷のベルを改めて作る。つま先で軽く地面を叩き周りを見ると、すでにシルクとリルが近寄ってきていて、進化を今か今かと待っている様子だ。

 そわそわとしている2匹に「進化先は決まった?」と問いかけると、2匹共コクリこくりと何度も頷く。それぞれの進化先を聞いていくと、どちらも職業に絡んだ進化先を選ぶらしい。


 ラップクロークとダンシングソード、ゲームの情報があってもわからなかった魔物。メニューから2匹の候補を、えいやと選択すると――


 ――2匹が光球になって、輝くままに新たに形作られていく。


 背景は武骨な石壁でも、幻想的な光景に言葉を失う。ゆっくりと光が薄くなっていき、気付けば新たな姿のシルクとリルがいた。図鑑で種族の詳細を確認する。


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名前:シルク

種族:ラップクローク

レベル:11 / 30

職業:楽師

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 シルクはラップクローク。

 ラップクロークが発する叩くような音は、衝撃を生んで物が壊される。浮き上がったシルエットが幽霊と酷似しているため、心霊現象と認識されている魔物。


 シルクが進化した時に楽器をイメージしたのか、襟紐の先にはカスタネットとハンドベルが付いている。おそらく、他にもハンドクラップのような音も出せるのだろう。デザインは変わらず釣鐘型に、メインカラーの暗褐色、紐や裏地は薄紅色だ。



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名前:リル

種族:ダンシングソード

レベル:10 / 10

職業:舞踏家

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 リルはダンシングソード。

 刃が綺麗に波打つフランベルジュのようになっている。反射する光の白と、飛び散る血の赤が踊っているようにも見える剣。手に取ると離すことができなくなって、体が勝手に動いて周囲を切り裂き踊り狂うそう。


 デザインは波打つ刃に、羽が彫り込まれた鍔。柄頭に球が付いている。鞘には特別な意匠は無く、金属製の佩きやすいもの。


 しかし説明が不穏すぎる。「大丈夫なの?」と聞くと、問題ないというようにフリフリとしている。恐々とリルを手に持ってみると、足が勝手にステップを踏む!


 思わず驚きに手を離すと、すんなりと手放せる。もう一度リルを握ると今度はステップを踏まない。「どういうこと?」と聞くとまたステップを踏む。

 リルがコントロールしているようだけど、徐々に私自身が動かしているような感覚もしてくる。それが非常に怖く感じ「ゆっくり慣れさせてほしい」と伝えると、コクリと頷き同意を得られた。



 一部、頬が引きつるような事もあったけど、進化も無事に行えたため今後の戦い方を考える。集団での大コウモリ戦、閉所での大ミミズ戦を経験したから。

 物語から外れて別の職業を得られた事で、警戒心が薄くなっていた。むしろ勇者ではなくなって弱くなっているのだと気を引き締める。


 数が多い敵を想定して離れて戦っていたけど、いっそのこと皆で纏まってはどうかと提案する。斜めに傾き疑問を表す2匹に、シルクを羽織って、リルを手に持って戦うのだと説明する。

 私がリルを装備して戦って、シルクの放つ衝撃で援護をしてもらう形。ダンスや歌は追々になるが、戦いの中でできるように練習していきたい、と。


 自由に動けなくなるから反対されるかなと思ったが、むしろ歓迎らしくハイテンションに飛び回る2匹。もしかすると誰かに憑く方が本質なのかもしれない。

 思ったよりもあっさりと提案が通ってしまったために、すぐに終わった会議を締めて、宣言通りシルクを羽織りリルを佩く。


 改めて洞窟の攻略に戻る。この洞窟は元々トンネルのため一本道だ。例外は横道に作られた数か所の安全地帯。次はそこを目指して進んでいく。


 ゆっくり警戒して歩いていると、地面から大ミミズが顔を出してうねっている。こちらに気付いていないため、そっと近寄り切り払うと一撃で真っ二つになった。あまりの手応えの無さに戸惑うが、前回は木刀だったうえに、進化でリルの切れ味が鋭くなったからと思いなおす。


 洞窟の中を警戒しながら黙々と進んでいくが、全員で一塊になるスタイルになってからはかなり楽になった。

 大コウモリが飛んできた際にはシルクが、たんっ、ぱんっ、りーんと衝撃を放って、地面に落としてトドメを刺す。下から大モグラが飛び出してきても、リルがステップを踏んで避ける。作戦の変更がかなり効いている。

 しかもリルのステップで、私自身の足捌きが良くなっている。さらに体が軽くなるといった自己強化まである。


 体感がわからなくなってきているが、おそらく半日ほど歩いたところで次の分かれ道が見えた。警戒しながら横道に入って、安全地帯に辿り着く。



 1つ目の安全地帯とほぼ同じ構造のそこには、結構な量の物資が放置されたままだ。ほぼ真ん中の場所にあるため、持ち込まれていた量も多いのだろう。

 そんな安全地帯に腰を下ろしそれぞれ休息をとる。一息ついたら湯を沸かし、汗を拭い、シルクの洗濯に、リルの手入れ。

 その後は「今日は上手くいったね」「このサポートが良かった」「次はどうしてほしい?」と今日の結果を、次に繋げるために話をする。


 最後に放置された物資を見て回り保存食や装備を探す。ここでは移動速度が早くなる靴、ウイングブーツを見つけた。この長い洞窟を移動していた管理者が使っていたもののはずだ。これで旅もかなり楽になるはず。


 いつの間にか空中を飛び回り、ヒュンヒュンすいすいと今日の戦闘ごっこをしている2匹に声をかけて「もう休もう」と提案する。



 コツを掴んだのか私の入った寝袋に、スルリするりと入って来る2匹を抱きしめて、今日はもうお休みなさい。




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