停留所の男
野林緑里
第1話
周囲を山と田んぼばかりが広がる田舎町にある停留所というものはほとんど利用する客もいない。とくに通勤ラッシュでもないお昼ごろというものはまったく皆無であるゆえにバスが来ることはない。
それなのにその男は停留所にある古びたベンチに大きな荷物を置いて座り込んでいた。
誰もいない。
誰も通らない停留所。
男はいつの間にかやってきて座り続けている。
「こんにちわ」
ずっとうつむき加減で座っているものだから見かねた私は家を出て男に話かけてみた。
「こんにちわ」
すると男はぎこちない笑顔を浮かべながら返事をする。
「朝からずっと座っていただろう? どうしたんだい?」
「ちょっと気持ちの整理がつかなくて」
「気持ちの整理とは?」
「はい」
男は先ほどからずっと抱えたままの袋を見つめながら優しく撫でる。
「先日妻が亡くなりました」
「奥さん?」
「はい。まだ35でした」
「病気でかい?」
「はい。子宮がんでした。見つけたときにはすでに手遅れであっという間に逝ってしまいました」
「そうかい。それでなぜここに座っているんだい?」
「それは」
しばらく黙り込んでいた男は急に立ち上がると私の方を待つすぐに見た。
そして手元にある袋から中身を取り出す。
中身は木箱だった。
男は私に木箱を差し出した。
「開けていいのかい?」
男が頷く。
木箱を受け取った私は恐る恐る木箱の蓋をあける。
するとそこには白い骨壺が収められてきた。
「開けてください」
私はためらいながらその骨壺をあける。
それを観た瞬間、私の目から涙が溢れて出てきたのだ。
あふれる涙が止まらず、うっかり木箱を落としそうになってしまうも必死につかんだ。
「すみませんでした!」
すると男が頭をさげる。
私は男を見た。
「幸せにすると言いながらあなたの大切な娘さんを死なせてしまいました」
私は首を横に振る。
「そんなことないさ。娘はきっと幸せだったはずだ。ありがとう。娘を連れてきてくれて」
私は娘の遺骨の入った骨壺を抱きしめた。
停留所の男 野林緑里 @gswolf0718
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