第3話 3年前の完全犯罪
***
「3年前に山岳部の顧問の
3年前とは俺達が高校に入学する1年前の事だ。
噂でしか聞いたことはないが、相手によって態度を使い分けるという癖のある教師だと聞いている。
保護者や他の教師の前では真面目で熱心な教師を演じていたようだが、実際は平気で生徒に体罰を加える趣味があったらしいと。
暴力行為を受けた先輩たちは、自分はストレスの吐け口にされただけだ、と恨み言をいう。
そして最も多く体罰が行われるのは山行合宿中であったと。
山の中には電気も通じてないし防犯カメラもなく、場所によれば半日は外部と連絡が取れない時もある。
実際、生徒側からの告発で
そしてその後は暴力行為はエスカレートしたらしい。
あと、結婚していたらしいけど奥さんにDVを行い離婚訴訟中だとも聞いた。
「まあ色々、聞いてるけど?」
「それが氷山先生だ。行方不明になったのは8月の夏山の合宿が終わった後だ。S**高校の部室まで部員達と戻り、解散した後に行方不明になったと聞いている。だから行方不明事件は部活とは関係ないとずっと俺は思っていたんだけど」
森田君は続ける
「――俺はこの白骨死体が氷山先生だと思っているんだ」
*
「佐々木? 今さらだけど――」
「なんだ?」
森田君は一度黙り込み、そして再び口を開いた。
「なあ、山って怖くないか? 絶対に落ちたら助からないって場所あるだろ?」
「まあ、確かにそういう場所あるよな。山岳警備隊でも救助が難しい場所いっぱいあるもの」
俺達は山岳保険に加入している。実際ヘリコプターで救助してもらった先輩もいる。
しかし、ヘリコプターが入れない場所も多い。その場合は救助が来るまで待機だ。 きちんと指導されているから必要以上に怖がることはない。
チームで行動するから必ず救助は来る。
「俺たちみたいな装備した人間でも滑落した時に怪我したら相当まずいじゃん」
「だからチームで行動するんだろ? 命綱だって使うことも多いし」
森田君は急に声を落とした。
「もしも、絶対に這い上がれない場所で誰かがメンバーの1人を突き落す。そして残りのメンバーが全員で口裏合わせたら? どうなると思う?」
「それは……完全犯罪だな」
山の空気がねっとりと湿気を帯びてきたような気がした。頭上で、深い緑がざわめき出した。
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