第2話 白骨死体は誰だろう

***



「ちょっと、これって警察に連絡する事件じゃん?」


 骨だけとはいえ死体だ。俺は気持ち悪くて後ろに引いた。だけど森田君は白骨死体の傍らにしゃがみ込んだ。



「まあ、そうなんだろうけど。ちょっと待ってくれ」

「まさかの殺人事件!?」

「事故の可能性だってあるんじゃないかな?」

「まあ、その可能性はあるよね」

 


 山の事故は多い。遭難者だけでも全国で毎年2700人以上はいる。死者行方不明者は300人以上いる、それが現実だ。


 俺はだんだん冷静になってきた。

 

 白骨化する時間というのは腐肉食動物による死体の損壊や環境にも影響すると聞いたことがある。夏と冬で異なるし、地上に放置された場合は乾いた土に埋められるよりもはるかに早いという。この山にはイノシシくらいしかいない。ちなみにイノシシは雑食だけど人間の肉なんて食べない。

――うじか。



「この人、ちゃんと登山用のトレッキングブーツ履いているし 俺達と同じように山の知識がある人かもしれない」

「俺もそう思う」


 森田君は大きく頷く。


「着ている服がボロボロに破れているし色が黒いのも完全に汚れだろうね。元の色は明るいブラウンだったのかもしれない」

 

 そう言いながら森田君はレインウエアのすそを軍手をはめた手でめくる。俺達は山に入る時は基本軍手をはめている。

 彼はそう言いながら白骨死体の衣類をチェックをし始めたのだ。


「――えっ! そんな馬鹿な!?」


 森田君は突如こちらがが驚くような声を上げた。そして嘘だろ、と小声で何度も呟いた。首を大きく振り、ため息をつく。

 

――どうしたんだろう?

 

森田君は白骨死体の横に腰を落としたまま、しばらく放心状態だった。



「おい、大丈夫か? 何か気になることでもあったのか?」

「えっ!」


どうやら俺の声で我に返ったらしい。いったいどうしたんだろう。


「えっ、あぁ? ほら見て」


 森田君は頭蓋骨の一部が割れている部分を指さした。落ちた時に頭をぶつけたのだろうか。

 

「殴られたのか、滑落した時に頭をかばわなかったのかな。まあ落ちるときは一瞬だしね」

「致命傷かな?」

「……それはわからない、でも案外軽傷かもしれない」

「この人はソロ登山の人かな? 他にメンバーはいなかったのかな?」



「登山」とは1人で行うこともあるが、チームで行動することが多いスポーツでもある。



「とにかく警察だね」

「……悪い、ちょっと警察に連絡するのは待ってくれないか?」



そう言った俺に森田君はなにやら複雑そうな表情を浮かべた。


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