第10話 ラーメンが喰いたい
「だが、最近になって、最初にホムンクルスが作られた世界で、5体のホムンクルスが密かに使用されていると情報が入ってきた。」
「えっ?」
「国王が主人となっている。」
「そんな身勝手な事が……」
「消滅させるのは簡単なんだが、何とか救い出してやれないものかと思ってな。」
「でも、そのためには初期化してもらわないといけない……」
「それ以外の方法で出来ないか試しているんだがな。」
「頑張ってください!」
「明日、3度目の報告会が終わったら、お前もレイと二人で研究を始めてみろ。」
「えっ?」
「肉体的苦痛を与えられ続けて、何か感情的に変化が起きていないかどうかを含めて、お前なりに出来ることを試してみろ。」
「レイさんと……」
「もし、使用者を書き替える事ができたら、そのままレイを連れて行っていいぞ。」
「えっ、本当ですか!」
「ああ。私は最初の地の5体を自分のモノにする予定だからな。そこまで多くの面倒はみれない。」
思わぬ提案にロンドは喜んだ。
翌日の報告会でも、4属性魔法を問題なく披露し、参加していた上級貴族たちを驚かせた。
なにしろ全ての魔法を無詠唱で瞬時に発動する。
そのすべてが強力無比で、中でも5mもの高さで幅50mの城壁を作って見せた時には大歓声があがる程だった。
そして、報告会から戻ったロンドはレイとの生活を始める。
屋敷の敷地内に離れを建てて、そこで二人だけの生活を始めたのだ。
魔法は無属性魔法の訓練に移っている。
転移魔法に物々交換のバーター。
物を引き寄せるアポートと、物を任意の場所に送るアスポート。
これを使いこなせれば、重い武器を持って歩く必要はなくなる。
必要な時に、必要な武器を引き寄せればいいのだ。
それに、討伐で得た素材なども持ち歩く必要がない。
その都度、倉庫などに送ってしまえばいいのだ。
自分で動くようになった時は、冷蔵機能のついた倉庫を作ればいいだろう。
更に、物理・魔法の障壁や、空中浮遊。
荷重魔法と精神系魔法や光系も無属性魔法だった。
それらの魔法を、自分で優先順位をつけて習得していく。
ロンドは最初に、集めてあった銀を使って『合金配合辞典』という書籍をバーターで入手した。
そこでステンレスやモリブデン鋼の武器や防具を作って武器屋に売り込んでみた。
「錆びづらい剣と言われても、俄かには信じがたいのじゃが。」
「いいですよ。1本はサンプルとして置いていきますので、少し使って様子を見てください。」
「無料でくれてやってもいいんじゃな?」
「はい。お任せします。」
武器を売るよりも、直接飛行魔法で山に出かけ、鉱石や金属を回収した方がバーターの素材として効果的だった。
とは言っても、チタンでも1kg数百円で、むしろニッケルやコバルトの方が遥かに高額となる。
そして、そんなモノよりも、金・銀の方が遥かにお金になり、それで取り替えた龍が内部に掘られた人造水晶球等が高額で売れた。
数千円で交換できる人工ダイヤのアクセサリーも、金貨数枚になる。
これは、石の値段というよりも、加工技術に対する評価だ。
と言っても、現地のお金が必要なのは家を借りたりするためのお金で、それ以外の生活必需品はバーターで入手出来てしまう。
肉や野菜も同じなのだ。
「だいたい、母屋と同じくらいの物は揃ったと思うけど、他に欲しいものはない?」
「太陽光のパネルもつきましたし、IHと照明もありますし、エアコンもトイレもつきましたから、十分だと思います。」
こうした鉱石の採取は、ロンドの召喚された世界に移動して行う。
物品の売買も同じだ。
アリシアの世界を荒らす訳にはいかない。
そして、現時点で世界観の座標は、アリシアのいる世界と、ロンドが召喚された世界のものしか明かされていない。
ロンドは、この魔法指導にかかった金貨50枚は自分で支払うつもりだ。
召喚されたバーランダー王国に留まるつもりはない。
指導が終われば、自立するつもりなのだ。
国の意向など関係ない。
勝手に召喚したのはバーランダー王国側なのだ。
ロンドの知ったことではない。
もし、周辺国から侵略を受けて、助けが必要なら手を貸しても良いが、その時は対価を請求するつもりでいるのだ。
そして、その計画を実行するには、レイの助けはどうしても必要だった。
高校に入ったばかりのロンドに、生活能力はない。
学校の成績はそこそこだったが、家の手伝いなどしたことがないのだ。
まあ、風呂掃除や食器洗い程度はやらされていたが、料理はもちろん洗濯などしたこともない。
全ての食事を、外食で済ませるという選択肢もあるが、高校生のロンドにはハードルが高い。
だが、ふとロンドは気付いてしまった。
バーターを使えば、ピザや牛丼。ソバ・ラーメンだって、取り寄せ放題ではないのか。
「じゃあやってみる。某有名店の豚骨ラーメン、チャーシュートッピングで2人分。」
これまでの実績から、元の世界の銀相場が1グラム150円程度なのは分かっていた。
そのため、銀20グラムあれば足りるだろうと想定していた。
結果としては、ドンブリ2杯のラーメンが現れ、銀が消えている。
「そうか、ドンブリの価値も考えなくっちゃいけないのか……」
「でも、成功ですよ。次回は、ドンブリを用意しておいて、中身だけを希望したらどうでしょう。」
「うん。じゃ、食べよう。伸びちゃうから。」
「はい!」
二人は豚骨ラーメンを美味しそうに食べた。
「ああ、今度レンゲも用意しておこう。」
「レンゲとは何でしょう?」
「陶器でできた、大きめのスプーン……かな。」
「スプーンならありましたのに。」
「普通のスプーンとは違って、スープを飲みやすくする形状になっているんだ。」
レイにはスープスプーンしか思い浮かばなかった。
レイには魔力の回復能力がないため、毎日魔力を補充してやる必要があった。
その作業も、毎日寝る前の日課となった。
魔力の補充ができれば、探知などで魔力を空にして意識を失うし、足りなくても全魔力を注入して倒れる。
意識を失ったロンドをベッドに寝かせ、布団をかけるのはレイの役目だ。
日中にロンドが魔力切れになりそうな時は、アリシアに魔力を補充してもらうのだが、その頻度も日ごとに少なくなっていく。
4回目のお披露目では、飛行魔法と物品引き寄せを披露した。
土魔法で試作した様々な武器を家から取り寄せる。
ステンレス製のロングソードに、モリブデン鋼のナイフ。
ジュラルミンの大楯等を披露して、最後にチタン製のレイピアを引き寄せる。
「表面の青は、ラピスラズリによる塗装です。チタンという軽い金属で作りましたので、陛下に贈呈したいと存じます。」
「おお、わしにくれるのか……うん、信じられないほど軽いし、使いやすいぞ。」
「武器屋に見積もらせたところ、柄に嵌め込んだピンクダイヤだけで金貨30枚。縁取りに使ったピンクゴールドも考えると、金貨100枚で買い取りたいと言ってました。」
「た、確かに見事な造形だし、青と淡いピンクが実に優雅な雰囲気を出しておる。」
ロンドにしてみれば、これで支度金として受け取った金貨50枚はチャラだというつもりであった。
「あと2カ月だな。よもやここまでの効果があるとは思わなかったぞ。」
「そうですね。ロンドの資質によるものが大きいですが、一般の者であってもこの半分程度までは伸びると思います。」
アリシアはそう言ってバーランダー王国を後にした。
【あとがき】
あと2カ月。
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