第9話 ホムンクルスが生きる意味
「えっと、ホムンクルスって売買されてるの?」
「はい。作られた疑似生命体ですから。」
「……普通に女の人に見えてたから、そういう感じしなかった。」
「でも、私は間違いなくホムンクルスですよ。」
「それって、誰でも作れるの?」
「まさかです。コアを作るための素材がとんでもなくレアですし、肉体を作るための素材加工も難しくて、配合比率とか精製呪文をちょっと間違えるだけで私のような失敗作が出来ちゃうんです。」
「失敗したら作り直せばいいんじゃないの?」
「それが、一度使ったコアは再利用できないので、廃棄になっちゃうんです。私も完全に失敗して人型になれなかったホムンクルスが廃棄されたのを何回も見ています。」
「失敗って言われても、レイさんなら普通のメイドさんとして十分需要があるんじゃないですか?」
「そうですね。私もマスターのお手伝いとして残されていたんですが、アリシアさまのご希望が3体という事で、私でもいいというので取引されました。」
「いくらくらいで売られているの?」
「私を作ったマスターは、お金ではなく必要な物品と交換されていました。」
「それって……」
「詳しくは私も存じません。ですが、一般販売ではなく、完全オーダーメイドになりますし、基礎知識と魔法の教育だけで最低1年ってマスターが言ってました。」
「どっかで手軽に買える訳じゃないんだ……」
「ホムンクルスを買いたいんですか?」
「そうだね。レイさんみたいに優しくて何でもできるような娘がいるなら、一緒に暮らしてみたいなって。」
「性格はご主人様によって変化する事もあるみたいですから、難しいですわ。」
「そうなんだ。……そういえば、ホムンクルスって、所有者以外が連れていく事はできないの?」
「物理的に誘拐することは可能ですが、命令を聞くことはありません。そして、ご主人様の魔力反応が途絶えれば、自主的に機能を停止して約30日で死を迎えます。」
「じゃあ、所有者のいないホムンクルスは存在しないんだ……」
「そうでもありません。ご主人様が所有者登録を初期化したホムンクルスは、自由に活動する事ができます。ただ……」
「ただ?」
「ホムンクルスには生きる目的がありません。」
「目的?」
「生存本能というのでしょうか。ロンド様はなぜ生きるのですか?」
「……あらためて聞かれると難しいですね。多分、根幹には種の存続とかいう本能があるんだろうけど、人間なんてもう溢れるくらいいるからね。」
「では、なぜ?」
「そうだな……欲があるから……かな。」
「欲……、意味は知っていますが、ホムンクルスには欲というものが理解できません。」
「何で?」
「例えば、子供を産む事ができませんので、性的に興奮したり欲情する事はありません。」
「でも、ミサトさんとアスカさんはさっき……」
「あれは、アリシア様が望むのでそう振る舞っているだけです。疑似的な感情というのでしょうか?」
「じゃあ、食欲は?」
「機能維持のためにエネルギーを補給するだけですから、活動に必要なものさえ吸収出来れば食事は不要です。ただ、疑似的な食費をすることは可能です。」
「疑似的な食事って……」
「人間は大勢で食事したほうが、美味しく感じられるそうですよね。ですから、同じように少量口にしますけど、分解して必要な成分を吸収したら吐き出します。」
「味覚はないの!」
「ありますよ。ただそれは、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味を濃さで認識出来るだけで、多分、人の感じ方とは違うと思います。」
「物欲とか知識欲とか、誰かに認めて欲しいとか感じないの?」
「……社会性がありませんから、多分必要ないと思いますよ。」
「何で……生きてるの……」
「生を与えられて、主の指示に従う。それが、ホムンクルスの存在理由です。」
「さっきみたいに、傷つけられるのはどうなの?」
「肉体の損傷を認識するために痛覚はあります。でも、機能する限り動けますよ。」
「な、何だよそれ……」
「ですから、主を失ったホムンクルスには存在理由がありません。」
「何もしないで、朽ちていくってこと?」
「どうですかね。私には経験がありませんので、果たしてどうなるか……」
「あの……」
「はい。」
「レイさんの身体を探知させてもらっていいかな?」
「結構ですよ。」
ロンドはレイの身体を隅々まで調べた。
「……人間の身体と全然違うんだ……」
「はい。」
「これじゃあ、鍛えて成長とかできないよね。」
「はい。ですから、基本スペックはとても重要なんです。」
「知識は蓄積するの?」
「はい。その代わり、古くて使っていない記憶は消えていきます。」
「そんなのって……なんか、酷すぎる……」
「酷いですか?」
「だって、……一度作られてしまったら、もう未来はなく、使用者の指示に従うだけなんて……」
「でも、それがホムンクルスですから。」
「楽しみも悲しみも、喜びすらないなんて……そもそも、生きる意味が……」
「意味は、ご主人様の指示に従う事ですよ。」
「……こんなの聞いちゃうと、何だか……人間の都合だけで……」
「そうですよ。人間がそういう風に作ったのですから。」
ロンドは、自分の気持ちが整理できなかった。
眠る事もできず、翌日も拷問じみた責め苦が続く。
やがて、言われるままに回復呪文を繰り返えすだけになった。
「おい!そんな状態だと壊れるぞ。」
「どうすればいいんですか……」
「何がだ?」
「何でホムンクルスが作られたんですか……」
「なにぃ?」
「何で、3人もホムンクルスを買ったんですか……」
「予想外の方に行っちまったか。まあ、回復魔法の方はいいだろう。二人を開放してやれ。」
「はい。」
レイの下着はムチ打ちで千切れかかっている。
見方によっては恐ろしくエロティックな姿だ。
だが、肝心のロンドはそれどころではない。
ミサトに抱えられるようにして自室に運ばれ、ベッドに横たえられた。
「最初にホムンクルスを作ったのは、人間不信の魔術師だった。」
「えっ?」
「自分は魔術の研究に没頭したいので、身の回りの世話をさせるためにホムンクルスを作った。当然だが、試行錯誤を繰り返して、成功したのは死ぬ寸前だったがな。」
「それって……」
「魔術師の死後、残されたホムンクルスと研究資料をとある団体が入手し、研究を続けた結果、ニーズに応える性的な機能や魔法付与が実現され、より人間に近いホムンクルスが開発されていった。」
「それは、ロボットと同じじゃないですか……」
「感情を持たせようとする研究もされたが、それは実現しなかった。そんなニーズは存在しなかったからだ。」
「やがて、ホムンクルスの人権を指摘する団体が現れ、その世界におけるホムンクルスは違法となった。製造も所有もだ。」
「まさか……」
「所有者はマスター登録を消して、ホムンクルスは施設で管理されたのだが、その施設内でホムンクルスは機能しなくなった。」
「それで?」
「全てのホムンクルスは焼却された。」
「酷い……」
「だが、何人かの魔術師は別の世界に逃れ、独自に研究を続けていた。その中の一人がレイたちの開発者だ。」
「レイたちと交換したのは……転移先の座標ですか……」
「そうだ。その世界では、コアとなる素材が見つからなかったらしい。だから、それ以上ホムンクルスの製造を続けられなかったし、そいつは自分だけが転移する魔法しか知らなかった。」
「何でそんな事を……」
「私だってホムンクルスをどうにかできないか考えているんだ。」
【あとがき】
ちょっと重たくなってきました。
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