第2話 魔法指導師アリシア・孔雀院

「トコウニ・・・さん?」


「はい、実際はトゥコゥニーですが、中々正確に発音頂けないものですから省略してございます。」


「トウコニー……さん。」


「トゥコゥニーですよ。ですからトコウニで結構です。」


「それで?」


「私ども異世界職業安定所では人材派遣を生業としておりまして、今回のように特殊な能力をお持ちの方に、ご活躍できるお仕事の場所を提供させていただいております。」


 宰相と向かい合ってソファーに座った紺のスーツ姿の男はそう告げた。


「逆に申し上げれば、こういう能力を持つ人を捜しているとお申し付け頂ければ、全世界から捜してまいりますよ。はい。」


「全世界……」


「はい。例えば今回召喚された勇者様の元の世界とかですね。」


「何だと!では、最強の勇者をと望めば、トコウニさんが捜してきてくれた……と。」


「最強のと言われると、比較対象や相性があって難しいのですが、例えば具体的に”〇〇魔王を倒せる者”とご指示いただければ、それに見合った能力の方を捜してまいりますよ。」


「で、では、周辺国から攻められた時に、防衛できる勇者という条件ならどうかね。」


「首都ランディーを防衛できる者でしたら、この都市全体に障壁を張って防御できる者をご紹介いたします。」


「ならば、隣国を占領可能な者というのはどうだね?」


「申し訳ございませんが、戦争や犯罪に加担するような人材はご紹介出来かねます。」


「なるほどな。それで、今回お連れ頂いた魔法指導師というのはそちらの女性かね?」


「魔法指導師のアリシアさんでございます。」


 紹介にあわせて女性が軽く会釈をする。

 セミロングの赤い髪をポニーテールにまとめた背の高い女性で、黒いノースリーブシャツには漢字で色即是空と白色の文字が書かれている。

 下は7分丈のデニムパンツを履き、足元は黒いローヒールのナースサンダルを履いていた。

 右足小指の爪だけが赤く塗られている。


「何と言うか……魔法師には見えない服装だね。」


「魔力効果を最大限にあげる組み合わせなんで、ご容赦ください。」


 アリシアと紹介された女性が初めて声を出した。

 

「そ、そうなのか……」


「それで、半月毎に成果を見せに戻ればいいんですね。」


「ああ、それで構わぬがどれくらいのレベルを見込んでいるのだね。」


 アリシアはトコウニも顔を窺ったうえで応えた。


「そうですね。個人の資質にもよりますが、彼ならば全ての上級魔法とエリアヒール程度は習得できるでしょう。」


「全ての上級魔法だと?」


「火・水・風・土の4属性全てですよ。」


「なにい!そんな事が可能なのかね!魔法は自分の持つ属性しか……いや、2属性使う者も稀に存在するが……」


「金貨50枚頂くのですから、それに見合った成果は出しますよ。」



 こうしてロンドは魔法指導師アリシアの家へと、瞬間移動で連れて来られた。


「こ、ここはいったい……それに、今どうやって来たんですか?」


「ここが私の拠点だよ。まあ、江の島程度の島だが、オール電化だし生活に不便はないはずだ。」


 そこは30畳くらいあるリビングのような部屋で、床から天井付近までの大きな窓からは海が見える。

 いわゆるオーシャンビューという景色だ。


「突っ込みどころがいっぱいあるんですが、彼女たちは?」


「ホムンクルスのメイドだよ。聞いたことくらいあるだろ。」


「魔法で作り出した人造人間ってやつですか?」


「まあ、そんなところだ。生活の面倒は彼女たちがやってくれるから、お前は修行に専念すればいい。水色の髪がレイで、オレンジの髪がアスカ、紫の子がミサトだ。」


「エヴァですか!」


「覚えやすくていいだろ。一応髪型や体形も原作に近いイメージにしてある。本人たちが応じれば、エッチな事も可能だぞ。」


「ホントですか!」


「15才じゃ、好奇心と妄想が服を着ているようなもんだろ。言っておくが私は男でも女でも行けるぞ。」


「流石に師匠にそんな気は起きませんよ……」


「半年後にどうなっているか楽しみだな。さて、時間が惜しいから早速授業だ。」


「お願いします!」


「まず、魔力についてだ。地球人に魔力は存在しない。」


「ガーン!やっぱり、そうなんですね。」


「自分で効果音をつけるな。というか、元々人類に魔力は無かったのだが、どうやって魔力を手に入れたと思う?」


「えっ……、やっぱり、魔力を含んだ野菜とか魔物を喰ったんじゃないですか?」


「アニメとかでありそうな展開だな。」


「だったら、濃い魔力を発する洞窟とかに住んでた。」


「違うな。」


「……誰かにもらった。」


「そうだ。」


「えっ、マジ!」


「世界が分岐を始めた初期の頃、……というか、多分初めて分岐した世界でそれが起きたんだと思うが、正解は分からん。」


「待って!分岐ってなに?」


「多重世界……パラレルワールドってヤツだな。私も斡旋所の存在する世界しか行ったことがないのだが、これまでに行った世界には魔法のある世界とない世界が半々で存在している。」


「い、異世界って、ここだけじゃないんだ。」


「分岐という概念は斡旋所のトコウニから聞いた。」


「あっ、さっき会ったスーツのオジさん。」


「続けるぞ。最初に魔力を授かったのは約12500年前。死にそうだった5才の少女を一匹の龍が救った。そして一緒に暮らすうちに少しづつ魔力が与えられていった。」


「龍の……魔力なんだ。」


「そうだ。龍に魔力の提供ができるなら、私にも出来るんじゃないか……そう考えたのがこの仕事を始めようと思ったきっかけだ。」


「で、できるようになったの?」


「30年近くかかってしまったが、成功した。」


「待って!30年って、アリシアさんは幾つなんですか!」


「女性に年齢を聞くとはいい度胸だな。教えてやろう、私は永遠の23歳だ。」


「30年の努力は何処行ったの!」


「ふっ、量子力学の世界では、時間など概念でしかない。」


「……まあ、23才に見えない事もないですからいいですよ。」


「おっと、また脱線してしまったな。ほら両手を出せ。」


「こう、ですか?」


「ふむ、手のひらを上に向けて、指を広げているのはオープンで自信家なんだそうだ。まあいい。」


 そういってアリシアはそこに自分の手を重ねた。


「……ほら、これが魔力だ。分かるか?」


「何だか、暖かいピンク色の感じのものが入ってきます……」


「ほう、色を感じた奴は初めてだな。お前も意識して、これを全身に行き渡らせるんだ。」


「ど、どうやって……」


「血管に乗せて流れていくイメージだ。」


「血管?」


「両手の静脈に魔力を乗せて流す。両手から右心室に入った魔力は、送り出されて肺で酸素を補給して左心室に入り、そこで勢いよく送り出される。」


「あっ……」


「その先で分岐があるが、まずは身体全体を巡る下側だ。下に行って次の分岐は内臓側だ。消化管を通って肝臓、そして右心室に戻ってくる。」


「……はい。」


「もう一度肺を通って酸素を補給し、左心室から分岐を下へ下へと辿って次は腎臓だ。左右の腎臓を経由して静脈で右心室に戻る。」


 こうやってロンドは、アリシアから送られてきた魔力を、血流に乗せて全身を巡らせる事を教えられた。


「何だか、全身が暖かくなって……身体が新しく生まれ変わった感じです。」


「人間の魔力というのは、血液と一緒になって全身を流れているんじゃないかと私は考えている。」


「そう言われると納得できます。」


「これを何度も繰り返して、意識しなくても魔力が循環できるようにする。そして、魔力の量を少しづつ増やしていく。まずはここからだな。」



【あとがき】

 魔法使いへの第一歩が始まりました。

 12500年前ですから、地球では氷期が終わり、日本では縄文時代……定住生活が始まっています。

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