魔法指導師 -異世界職業斡旋所-

モモん

第一章 勇者ロンド

第1話 輪舞(ロンド)

「ど、何処だ……ここは……」


 8m四方の銀盤の床に、貝の真珠層を張り付けて描かれた魔法陣の上で、ブレザー姿の学生らしい男の子が立っている。


「ようこそ勇者様。ここはバーランダー王国の首都ランディーにある城でございます。」


 神官のような緑の法衣を着た老人が応えた。


「待てよ……終業のチャイムが鳴って、教室を出たところで急に真っ暗になって……」


 青いチェックのブレザーにグレーのパンツ。

 濃い紺色のリュックを右肩にひっかけた少年は15才の高校1年生、大鳥輪舞(ロンド)だ。


 ロンドは周りを確認した。

 白っぽい石を積み重ねて作られた壁に、太い梁の天井。

 窓がなく、神官服の老人の後ろに階段があるということは、地下室なのだろうか。

 

「ナントカ王国とか言ってたけど、ここは地球?


「地球とは何でございましょう?」


「足元に倒れている人たちは大丈夫なの?」


「大丈夫というか、貴方様をお呼びするためにこの8人は魔力を使い果たしました。もう、魔法師としては使い物にならないでしょう。」


「魔法……もしかして、召喚魔法とかいうヤツ?」


「おお、理解が早くて助かります。」


「口の動きと、聞こえる言葉が違うんだけど、これってどういう事なのかな?」


「古い記録によれば、召喚に応じてくださった方には、言語が自動的に変換される加護が備わると伝わっております。」


「言語変換かよ……言っておくが、俺は召喚なんぞに応じた覚えはない。」


「そこは、偶然選ばれてしまったのだろうがご容赦いただきたい。その代わりに、国をあげて生涯の生活を保証しよう。」


「それって、魔王を倒せとかいうんだろ。イヤだよそんな危ないのは。」


「魔王?何の事だ。」


「だって、召喚術を行うのって、自分たちだけじゃ魔王を倒せないとかいう理由だろ。アニメとかでよく見たぜ。」


「何を言っているのか分からんが……確かに魔物やドラゴンは存在するが、人類の脅威にはなっていない。脅威になっておるのは他国なのじゃよ。」


「他国だと。どういう事だ?」


「この大陸だけでも6つの国がある。少しでも弱みを見せれば、たちどころに侵略されてしまう。」


「戦争か……」


「2年前にも隣のエス国がエヌ国に破れ併合されてしまった。戦に敗れれば、王族は処刑され、国民は奴隷となってしまう。攻め込ませないためには、国の強さを誇示する必要があるのじゃ。」


「……つまり、この国には勇者がいるから、責めてきたら痛い目をみるぞという脅しかよ……」


「そういう事ですな。まあ、詳しい話は後にして、陛下に謁見してもらおうかの。」


 こうしてロンドは国王に謁見し、正式に市民権を得た。

 勿論、勇者としての力を示すために武術の訓練を行い、この国に関する勉強も強いられる。


「よし、剣技の方はこの国で5本の指には入るレベルに到達したようですな。」


「そうだね。パラメータとか見られないのが残念だけど、思いのほか勇者補正みたいなのがついてるみたいだよね。」


「ふふふっ、では約束通り明後日から魔法の指導に入りましょうか。明日は休養日にしますから、ゆっくり休んでください。」


「これで、身体強化とか使えば、国で1番になれるのかな。」


「まあ魔法に適性があるかは分かりませんが、神官長である私が直々に指導するのですから期待してください。」


「神官長って、聖魔法とか治療系専門じゃないんですか?」


「魔法師とは違いますが、まあ一通りの魔法は使えますから大丈夫ですよ。」


「明日が休みなら、冒険者ギルドというところに行ってみたいのですが。」


「冒険者ギルドですか。まあ、休みなんですから好きに過ごせばいいでしょう。」


 そしてロンドは冒険者ギルドに行き、冒険者登録というのを行った。

 そしてその時に、掲示板に張られている案内を見つけた。


 張り紙には次のように書かれていた。


 誰でも一級の魔法使いになれます。

 魔力がなくても大丈夫。

 魔力を授けて一人前の魔法使いになれるまで、専任の”魔法指導師”が指導いたしますす。

 派遣は異世界職業斡旋所が行います。

 費用は金貨50枚で、期間は6カ月。

 お申し込みは冒険者ギルドの受付か、異世界職業斡旋所までお願いします。


 そして、一番下に、”日本円にして約500万円”と日本語で書かれていたのだ。

 

「何で日本語なんだ?」


 日本語で書かれているという事は、日本人をターゲットにしているという事だ。

 日本人なんて、そうそういる訳がない。

 何かの間違いでこの世界に来てしまった日本人がいるという事なのだろうか?


 まあ、500万と言われても高校に入学したばかりのロンドには実感がない。

 だが、金貨50枚というのは、召喚された時に陛下から支度金として下賜された金額ではあった。



 その翌日、ゾルド神官長による魔法の指導が始まった。


「まず、右手の人差し指に意識を集中して、そこに魔力を集めてみてください。」


「待ってください。魔力を集めるのって、どうやるんですか?」


「えっ?生活魔法で使っていますよね。」


「えっと、俺の世界には魔法なんて存在しないんですよ。魔力って言われても何の事か分かりません。」


「まさか……」


「ホントですよ。まったくの初心者だと思ってください。魔力ってモノから教えてください。」


「……こう、人差し指を立てて意識を集中すると、指先が熱くなってきますよね?」


「い、今までそんなのを意識した事ないし、今やっても熱くなんてなりませんよ。」


「……確かに、国民の20%は魔力を持たないのですが、まさか……」


「ま、魔力を持たない人間は、魔法を使えない……のですか?」


「そ、その通りです。」


 その時、ロンドはギルドで見た張り紙を思い出した。


「あの……、魔力のない者に魔力授ける事もできるって、冒険者ギルドの張り紙で見たんですが、どうなんですか?」


「そんなのは聞いた事がありません。」


「昨日、その張り紙を見たんですが、金貨が50枚必要らしいです。」


「金貨50枚!」


「張り紙には、半年間専任の指導者がつくと書いてありました。俺に魔力がないのなら、それを受けたいんですけど……」


「それは、ギルドが関与しているんですか?」


「申し込みをギルドで受け付けるみたいです。」


「それならば詐欺とかの心配はないのでしょうが……」


「それに、俺が元の世界で使っていた文字でも書いてありました。」


「となると、それを書いた人も、元の世界に関係のある人という事ですか……。それだけのお金が絡むと、私には判断できませんので宰相に相談してみましょう。」


 神官長から宰相に相談が行き、宰相の部下が聞き取りを行って交渉が成立したようだ。


「宰相の許可が降りたようです。指導は1週間後に開始されますので、それまでは武術の訓練をしていてください。」


「あっ、それなら実践訓練をしたいので、冒険者ギルドで依頼を受けていいですか?」


「いいでしょう。その代わり単独で行かせる訳にはいきませんので、同行者を選定しておきます。」


 こうして1週間の間、ロンドは兵士2人をパートナーにして冒険者として活動を始めた。

 ちなみに、2人とも冒険者登録をしており、CランクだったためFランクのロンドでもCランクの依頼に参加する事ができ、いきなりオーク討伐を体験する事ができた。

 オークは体高2m、人型の魔物でありイノシシに似た顔つきの魔物だ。


「凄い迫力でしたね。俺、オシッコちびりそうでしたよ。」



【あとがき】

 異世界職業斡旋所の新作です

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