風邪の特効薬
蒼河颯人
風邪の特効薬〜その1〜
お兄ちゃんが言うには、チキンスープは風邪に良いんだって。これって、凄く分かる気がする。だってこのスープ、たっぷりのお野菜にお肉、ヌードルも入っているから、この一皿だけで栄養満点。あと、炎症を抑える効果があるとも言ってた。さっすがお兄ちゃん! 色々詳しいなぁ。
チキンスープは、私が風邪を引いた時や体調が悪い時、お兄ちゃんが良く作ってくれたの。優しい味でほっこりと身体が温まる、私が大好きなスープの一つ。今、それをお兄ちゃんと一緒に作っているんだ。一緒にお料理だなんて久し振りだから、私ったらテンションがすっかり上がっちゃってるみたい!
私がお鍋の中のオニオン、セロリ、キャロット、ガーリックをそれぞれみじん切りにしたものを、木ベラで炒めていると、平板だけど低い声が聴こえてきた。私より大きな手が、流しに置いてあるボールの中に、タッパーからプラスチック製のフリーザーバッグを幾つか取り出している。あれは冷凍保存していた、お兄ちゃんお手製の、チキンブロスのストックかな。
「ジュリア。野菜の火の通り具合はどうだ?」
「ん〜大分しんなりしてきたと思うんだけど……ねぇ、お兄ちゃん。これ位で良い?」
「上等だ。野菜の切り方にしても、君は筋が良い。次うちに帰ってきた時にはチキンブロスの作り方を教える。そうすれば、全部一人で作れるようになるぞ」
「やった! ありがとう。お兄ちゃん♪」
ふふふ。次帰ってきた時のお楽しみが出来ちゃった。お兄ちゃんに褒めてもらえると、凄く嬉しい。お兄ちゃんは、野菜のみじん切りも手際が良いし、びっくりするほど早いの! うち一応クッキングマシーンも置いてあるんだけど、あんまり使ってなさそうなんだよね。材料の名前を入力してGoボタンを押したら、お料理がすぐに出来ちゃう優れものなんだけど、使うとするなら、余程時間がない時とか、疲れている時位かなぁ。いつもお仕事忙しそうなのに、家では基本全て自炊していると聞いているから、本当に凄い。お鍋の中から立ち昇ってくる湯気の香りが、ガーリックの香ばしい匂いとほどよく混ざりあってきて、私の鼻をくすぐってきた。う〜ん……とっても良い匂い!
「本当は作りたてが良いのだが、今は時短の方が良い。もう解凍出来ているから、そろそろ中に入れるぞ」
「はーい」
このチキンブロスは、鶏ガラをしっかり煮出して作ったものだから、骨から良いおだしが出て、まろやかでとっても美味しいの。ローリエとガーリック、タイムの香りも良い香りで、これで作ったスープは、食欲のない時でもすいすいいけちゃう位! ミネラルが豊富で、たんぱく質を分解したアミノ酸も豊富だから、忙しい時や疲れた時の栄養補給にも向いてるしね。
お兄ちゃんは妹の私がこう言うのもなんだけど、高身長で足は長くてかっこいいし、色白で貴族のような顔立ちで、ルックスも抜群。お料理も得意(本人は全然認めてないけど)。でも、普段ほとんど無表情だし無口タイプ。一体何を考えているのか良く分からないことが多いから、凄く誤解されやすいけど、本当はとっても優しいんだ。たまに笑顔が見られる時もあるけど、ほぼ皆無だから稀少価値が高いのよね。
……と、いけないいけない。私ったら、ついつい横道にそれちゃった。余計なおしゃべりはここまでにするね。
あ! リズム感のある包丁の音が聴こえてきた! お兄ちゃん、私の隣で今パセリを刻んでいるみたい。その方向に視線向けてみると、色白の上腕に、治りかけの傷跡があちこちあるのが見えた。会わない内に、また何か色々あったんだろうな。お兄ちゃん、お仕事に関しては何にも教えてくれないけど、何となく感じるの。きっと、生命に関わる危険なお仕事なんだろなぁって。いつか、教えてもらえる日が来るといいけどな……。
私がそんなことをふと考えていると、お兄ちゃんがお鍋の中にチキンブロスをゆっくりと注ぎ入れ、ローリエの葉を二枚入れているのが見えた。私、ローリエの香り大好き。ローリエを煮出したミルクで作ったカスタード・プディングも、私の大好物の一つなんだ。今回も実は一緒に作ってあるって。わーい! やったぁ! お兄ちゃん大好きー!!
「少し煮込んで沸騰してきたら、火を少し弱めて、エッグヌードルを入れるんだ。前に作って解凍させておいたのがそこに置いてある。分かるな?」
「うん。大丈夫。いつも冷凍室の中にストックしているよね?」
「ああ。すでにカットしているから、そのまま入れていいぞ。ヌードルが柔らかくなったら、先に焼いておいたチキンをこの鍋に戻すんだ」
「はーい。柔らかくてもっちもちして美味しいから、うちのヌードル大好き♡ ねぇ、お兄ちゃん。今度これの作り方も一緒に教えて」
「分かった。また今度な」
先にオリーブオイルで焼き上げ、皿で落ち着かせ、一口大にカットしておいたチキン。それが今、お鍋の中で膨らんだエッグヌードル、野菜達と一緒に、動き回っている。見ていると、とっても楽しい。ヌードルにしっかり火が通ったのを確認した後、お兄ちゃんがソルトとブラックペッパーを振り入れ、小皿二枚にレードルですくった中身を注ぎ入れてくれた。さあ、今回の出来立てのお味はどうかなぁ? 私は小皿に唇をつけて、中身を口に含んでみた。
チキンのお肉と骨由来のエキスに、オニオンと言った野菜のまろやかな甘味とうま味。ちょうど良いお塩味。 芳醇な風味。そこにガーリックが隠し味ながらも良い感じの存在感を醸し出していて、メリハリのついた優しい味わい。それが口の中いっぱいに広がって、私は思わず笑顔になってしまった。
「美味しい! バッチリ! いつもの味に仕上がってる」
「……これなら良いだろう」
お兄ちゃんも、どこか満足気な顔をしていた。
「ジュリア。僕がこれまで作ってきたレシピは、この前全部まとめておいたから、後でデータにして送っておく。味を良く覚えておけよ。全て母さんの味だ」
「うん。分かった。ありがとう。お兄ちゃん」
ここで、私はここで言っておかないといけない気がしたの。今までずっと言いそびれていたこと……。
「でも私にとって、お母さんの味は、お兄ちゃんの味だから」
「……そうか」
いつも無表情だったお兄ちゃんの口元が、ほんの少しだけ弧を描いている。ぱっと見分かりづらいんだけど、これ、照れてる証拠なんだよね。お兄ちゃんったら、可愛い!
(続く)
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