第2話 事故

 車内はエンジンが潰れてジュウジュウと白い蒸気で蒸し暑かった。

 突然のことだが自分に起きたこの事故に、頭が真っ白になっていた。

 ふと、隣を見ると妹の澪が、前方の席のあまりに凄惨な様子に、驚きを隠せない様子であった。

 俺はとっさに右にいる彼女の背から腕を伸ばして、驚愕に満ちたその目を自分の手で覆い隠した。

 そして妹の身体を横から自分のその腕で、強引に胸に引っ張り込んだ。

「大丈夫だ、大丈夫だ、大…………………………………………………………………」

 それはもう自分が恐怖で狂いそうな心を、ただ落ち着けようとする念仏の様な祈りだった。

 妹を励ますというより妹の澪を抱きしめることで、人肌を感じて生きていることの実感が欲しかったのかもしれない。

 心の中で叫ぶ声はさっきから同じだ。

(嫌だ! これは嘘だ! こんなのは嘘だ。これは何かの間違えだ。間違いなんだ!誰か噓だと言ってくれよ)

 だがもうこらえ切れなっかった。

 もうこんなのは嫌だ!

 怖い。

 泣きながら絶叫した。

 俺の感情の決壊に、妹はビクッと跳ね上がった。


 そしてそこからはしっかり者の妹を取り戻した。

 眼に生気が宿る。

 眼が色めき立つ。

「お兄ちゃん、スマホで救急車呼んで、後警察も! 早く!」

 狼狽えていた俺を叱咤激励する。

 なんだよお前、さっきはあんなに怯えていたじゃないか。

 急にどうしたんだよ。

 そうか、勇者モードに入ったんだな。

「わ、分かった。今、連絡するからちょっと待ってろ」

 妹の澪が、勇者モードに入ったんなら頼もしい。

 よし、俺も。

 澪は続ける。

「それから、生存者、ふたり。車内からの脱出は不可能。ガソリンの引火による爆発の可能性大。至急救出を乞う。可成りや不可也や、て分かった? お兄ちゃん。はい、復唱して。大丈夫よ、ちゃんと助かるから。さあ、元気出して」

 なんだよ、クソ、勇者モード全開じゃねえか。

 さっきまでの態度は別人か何かなのか。

 これじゃあ、俺の兄としての威厳が丸つぶれだよ。

「警察と救急車、ニ十分くらいかかるってよ」

「そう、それじゃあ、仕方がないわね。待ちましょう」

何故かそれから、二人は沈黙した。

車内はまだ蒸気がジュウジュウと噴出していた。



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