第10話

うさぎはモヤモヤしたまま家に帰りついた。普段では考えられないほどの苛立ちが胸の奥で燻っている。


(クソっ! なんなんだ!! なんでこんなにイライラする…!)


ドアを乱暴に閉め、乱れた呼吸を整える間もなく、ソファでくつろいでいた黒猫が顔を上げた。うさぎの普段と違う様子に驚いたものの、面倒くさそうに体を起こし、バスタオルを投げつける。


「シャワー浴びてこい。その間に飯の支度しとくから」


どうせ「必要ない」と言われるだろうと思いながらも、黒猫は聞かないふりをしてキッチンへ向かう。


「……頼む」


「?!」


(今、頼むって言ったか? アイツが?)


驚いた黒猫が慌ててキッチンから顔を出すと、うさぎはすでにタオルを持ち、無言のままバスルームへと消えていった。


「何があったんだ…?」


普段はサプリメントで済ませ、まともに食事をとらないうさぎが、自ら「食事を頼む」と言ったのだ。黒猫が無理やり食べさせることはあっても、こんなことは初めてだった。


(よほどのことがあったんだな…)


そう思いながら、栄養バランスを考えた食事を二人分、しっかりと作りテーブルに並べる。


***


うさぎはイライラしながらも、タヌキの言葉を思い出し、食事を黒猫に頼んだ。そしてそのままバスルームへ向かい、着ていた服を脱ぎ捨てると、無造作にシャワーを浴びる。


「……なんで、こんなにイライラするんだ! クソっ! なんなんだよ……」


理由の分からない苛立ちを払拭しようと、熱い湯を頭から浴びたが、気持ちは一向に落ち着かない。


(クソ……深呼吸しろ、落ち着け)


そう自分に言い聞かせながら、ゆっくりと呼吸を整え、全身をしっかりと洗い流す。タオルで水気を拭い、ドライヤーで毛並みを整えると、清潔な服に着替え、食事の用意がされたキッチンへと向かった。


ふわりと鼻を擽る香ばしい匂いに、うさぎは目を細める。そして——


「……」


ぐぅ、と、珍しく腹の虫が鳴いた。


「……っ!」


思わず黒猫が吹き出し、くすりと笑う。


「飯、しっかり食えよ」


その反応に、うさぎは少しだけ苛立ちつつも、何も言わず所定の席についた。


「何があったか知らねぇけど、しばらくはゆっくりしろよ」


黒猫はあえて余計なことは聞かず、黙々と食事を進める。


「……ああ」


ため息交じりに短く返し、うさぎも目の前の食事へと集中した。


***


食事を済ませ、報告書を書き終えると、窓の外はすっかり夜に染まっていた。


(……なんで、あの子のことが気になるんだ)


PCで仕上げた報告書を本部に送信し、ふと月明かりに照らされた窓の外を見つめる。昼間見たヒグマとタヌキの姿が、何度も頭に浮かんでは消え、またため息をついた。


「……何がなんだか分からないな」


胸の奥に生まれた、この正体の分からない感情。


考えても答えが出るはずもなく、うさぎは半ば諦めたようにベッドに潜り込み、静かに瞼を閉じた——。

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