設定、小ネタ解説(ネタバレしかない)

○野生児/隔離児


 作中で茉莉がアマラとカマラを思い出すシーンがあります。アマラとカマラは教育系の勉強した人なら、大体教育心理学で「人間は人間の環境内でないと人間として発育しない」という例として登場するのはあるあるだと思います。


 ただ、作中でも触れられている通りアマラとカマラの話に関してはねつ造説が有力視されています。アマラとカマラという少女は実際に存在していましたが、狼に育てられたのではなく何らかの疾患のせいでうまく歩けなかったり喋れなかったところに話を盛られて金儲けに使われた、というのが現在での見解のようです。


 しかし野生児の話がみんな嘘なのかといえばそうでもなく、虐待の末3歳から8歳まで犬小屋で犬に匿われていた少女の例や世話を放棄されて犬や猫と一緒にアパートに閉じ込められていたために言葉を話せなかった少女の例は実際にあったと報じられています。更に動物に育てられたのではなく、虐待により一室に閉じ込められるなど隔絶された環境で成長した子供も野生児と同じような状態になるといいます。


 一歩間違うと壮一も隔絶された環境で育つことになっていたのですが、母親がべったりしていたわけでもなく同年代の友人や職員の人たちとそれなりに交流していたので不適応は起こさなかった、というのがあります。


 描写は特にされていませんが、白水飛鳥は母親にべったりして父親に殴られる隔絶した世界で暮らしていたというところで認知が歪んでいった経緯があります。



○美津香ちゃんと美奈子ちゃん


 毒親ホラーということで後半すっげえ母ちゃんばっかり出てくるのですが、軽い毒親のジャブとして登場するのが美津香ちゃんパパです。この辺は流石に聞いた話の寄せ集めの完全フィクションです。美津香ちゃんは存在しません!


 ただ……美津香ちゃん的な事例はその辺にごろごろあると思ってください。親が子に理想を押しつけて子供が潰れる、というのは個人的に珍しくはないと思います。これは時代性ではなく、子供を一人の人間として見るか自身の延長として見るか、それか所有物だと思っているかの違いです。今で言うペットの扱いならまだいいのですが、ゲームのキャラクターのように思っている親もまあまあいます。


 そして美奈子ちゃんのお母さん。外から見ると美奈子ちゃんのお母さんは茉莉の印象の通り完璧に見えることを目指していてとっつきにくい印象があります。それは美奈子ちゃんも同じで「いかにお母さんの要求に応えるか」というのが彼女の命題であります。そしてお母さんも自身の描いている完璧な「お母さん」に縛られている状況です。そこで「褒める」というのは彼女の中では完璧でない状態をヨシとする究極の妥協でした。そういう親子だったので二人とも白水飛鳥の妄言に引っかかってしまう、というのが彼女たちから見たストーリーです。


 美津香ちゃんパパは完全にフィクションですが、美奈子ちゃんママは個人的な経験を元に作ったキャラクターでもあります。もちろん特定個人の話ではないのですが、どうにも「~ねばならない」が強い人ほどこういう傾向があるなと思う次第です。そういう人はヨシヨシされるとコロっと陰謀論とかに転がりそうだと常々思っています。



○呪術とシキ


 本編をホラー作品として繋ぎ止めている設定。本編では「死器」の漢字をあてましたが、当初は式神の「式」だったり、思い通りに操れる「指揮」だったりしました。そこのミーニングを広げるために敢えてカタカナ表記にしてありました。


 式神の意味を与える予定だったとおり、シキは呪術による操り人形である予定でした。この辺は構想段階での「占いで怪異を倒す」の名残でもあります。当初は「死ににくい」の効果も考えていて、だから完全に滅するには燃やすしかないというエンドに向かっていけると思ったのですが、それだとシキになってしまった茉莉や壮一がかわいそうなのでやめました。結局最終的に死人を生き返らせて能力を付与するだけに落ち着いたのですが、これだけだとなかなか地味ですね。それが本作最大の反省点です。


 この作品の呪術についてはあまり設定がされていないので、新しく設定する余地があります。また最後に壮一が立派な呪術師になるのではという前振りがあるとおり、もし続編を作るなら別のキャラを主人公にしてちょっと大きくなった壮一が佐野ポジションになる、みたいになるかもしれません。続編があれば、ですが……。



○児童センター


 これは『真綿の時間』からあった構想ですが、育児に悩む母親の心の隙間につけ込んで変な宗教勧誘するみたいな話はよくある……というか、自分の体験を元に書いたところはあります。


 自分も子育て支援センターみたいなところで赤ちゃんを遊ばせる、みたいな機会がたくさんありました。そこで亜紀のようなお母さんに何人も会いました。夜泣きや離乳食を食べない話なんか聞くだけで辛くなり、うんうんわかるーって赤ちゃん抱えた人たちがうなずき合う、そんな妙な空間でした。


 それで、そんな弱ったママたちに「何か」を仕掛けてくる人たちってマジでいたなと思います。自分はこんな奴なので最初から声をかけられなかったのですが、噂で「ママ友も出来て健康になるヨガサークル」に通っているという話を聞いたり、読み聞かせボランティアの人の語る思想がどこかとても強い、みたいな経験から「らきらき」は生まれています。そういうわけで、「らきらき」はきっと本当にどこかにあると思います。


 ちなみにずっと『真綿の時間』のみで長編化しようとしていたので、この「らきらき」パートは構想だけとてもしっかりしていました。長編化に至らなかった理由は「どうあがいてもこの状況で壮一を幸せにできる落とし所がわからない」というものでした。『真綿の時間』では一行で終わらせたこの業の深いところをこういう形で書けてよかったです。



○自殺教唆


 どうしても源東市一家殺傷事件や壮一に関することだけになると過去の話になってしまうため、現在起こっているわかりやすい事件としてVtuberによる「自殺教唆配信」というのを設定しました。Vtuberの向こうにいるのは実は……というのもありますし、ネットでの無責任な拡散での空気醸成なんかも怖いと個人的には思います。


 この「一気にネット上での空気が決まる」というのは恐ろしく、感化されやすい人は本当に感化されてしまうのだと思います。亜紀も正木に出会わなかったら、ネットで陰謀論に暴れる人になっていた可能性が高いです。


 そういう世の中であるのを前提に「空気には空気で対抗」をこの作品の落とし所としました。もちろん佐野レベルで苦しんでいる人を助けることはできませんが、流行に釣られてポーズをとるような若者には大変有効な策だとは思います。「祠壊し文学」のときにとある投稿で一気にブームの熱が冷めるような、そういうものを目指しました。いやあ、ネットって本当に怖いですね。


 また、改めて「島村マナブ」の正体がわかった上で本作を読み返してもらうと別の味わいがあると思います。彼の本心を理解した上であの「島村マナブ」パートを読み返すと、別の意味でつらいですね。



○一家殺傷事件とお焚き上げ


 地味に頑張ったのが「事件概要」です。元からネットで事件録とか読むの好きだったのですが、自分がいざ架空の事件の概要を書こうと思うとなかなか難しいものがありました。叙情的なものを一切排除して淡々と事実だけを書き連ねていくスタイルと登場人物の関係性をどう書くかなどをずっとWikipediaを読みながら考えていました。


 事件に関してはおそらく40分くらいのものだったと推測できます。初手で兄ちゃんを黙らせ、その後数分で父母を殴打。パニくる姉ちゃんを縛り上げて5分くらいあって父母殺害。大体15分くらいで佐野家三人を殺害して姉ちゃんはそこで死を覚悟。佐野の推測通り、何故かまだ帰ってこない末弟のために今際の際まで白水飛鳥を呪い倒し、最終的に絞殺されます。友人の通報から警察がかけつけたのが30分くらい。玄関に血だらけで横たわる中学生を発見して、あとは佐野の話の通りです。


 そして「お焚き上げ」は本作のクライマックスであり、作者が一番やりたかったことです。小さい頃見たドラマか何かでこのシチュエーション通りの「火葬直前の棺桶の中で生き返る」を見てとにかく怖かったのを覚えています。それでこれをやるにはどうすればいいか……を逆算して考えたのが「縛シバ」です。


 ちなみに白水飛鳥は書類の上でも死亡したことになっているので、佐野の中では「六年間放置されてきた遺体を火葬した」という認識です。だから白水飛鳥の例の末路は世間でも佐野の中でも「殺人」として扱われることがありません。佐野が何らかの罪で裁かれるのであれば、葬儀場に不法侵入したのと無免許運転くらいでしょうか。佐野は普通車の免許は持っていないけれども、就労支援の一環でフォークリフトの免許を取らされた、という超地味な裏設定はあります。



 以上で、『縛りシバラレ』の解説を終わります。


 余談になりますが、この作品は製作の経緯で語られたように書きながら考えたところがかなり多いため、作者の手癖みたいなものが非常によく出ています。そこで気がついたら現在連載している『救世主症候群シリーズ』と構成がかなり似ていることに気がつきました。


【第一部・事件編】

https://kakuyomu.jp/works/16817330656813658108

【第二部・全容編】

https://kakuyomu.jp/works/16817330664310915681


 そういうわけで、このストーリーと佐野君と茉莉ちゃんと壮一の三人が気に入ってもらえましたらそちらのほうも読んでいただける嬉しいです。規模も字数も数倍エグいことになっています。


 それではまた他の作品でお会いしましょう!

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