Money Level Up 〜富のマスター〜
ソコニ
第1話 「生存の術」
「期限は明日までだ。2,000万、用意できるよな?」
着信を切った山田裕也の手が震えている。携帯の画面には不在着信が32件。すべて見知らぬ番号からだ。
カーテンを閉め切った6畳のワンルーム。床には取り立ての手紙が散乱している。裕也は壁に背を預け、床に崩れ落ちた。
「なんで...こんなことに...」
3ヶ月前、投資セミナーで出会った男。「確実に儲かる」という言葉に魅せられ、学生時代からの貯金500万円を投資。さらに消費者金融から1,500万円を借り入れた。
「これで人生が変わる」
そう信じていた。でも待っていたのは、どん底への転落だった。
男は忽然と姿を消し、投資した金は跡形もなく消えた。残されたのは、借金と取り立ての恐怖だけ。
「このままじゃ...」
裕也は立ち上がり、ベランダに向かった。12階からの夜景が、暗い深淵のように広がっている。
「ここから飛べば...」
その時、ポケットの中で携帯が震えた。また取り立てか。画面を見ると、見知らぬアプリが起動している。
青白い光を放つ画面に、文字が浮かび上がる。
```
[運命の分岐点]
あなたには才能がある。
今、全てを終わらせますか?
それとも、這い上がりますか?
選択せよ—
```
「what...」
指が画面に触れた瞬間、部屋が青白い光に包まれた。そこに、一人の老人の姿が浮かび上がる。
「私は柳生昌明。時の賢者と呼ばれる者だ」
老人は静かに、しかし威厳のある声で続けた。
「君には選択肢がある。死を選ぶか、それとも—富の道を極めるか」
「富の...道?」
「そう」老人は冷たい笑みを浮かべた。「ただし、それは生易しい道ではない。借金も、騙されたことも、全て君の糧となる。闇の深さを知った者だけが、真の富を掴めるのだから」
風が吹き、老人の姿が少しずつ霞んでいく。
「決断は君次第だ。明日、東京駅の地下道で待っている。這い上がる覚悟があるのなら、来るがいい」
老人の姿が消えた後も、アプリの青白い光だけが、闇を照らし続けていた。
翌朝、東京駅地下道。
「坊や、約束の時間じゃないか」
背後から低い声。振り返ると、三人の男が立っていた。スーツ姿だが、ただ者ではない雰囲気を漂わせている。
「君のお金を預かったアイツの関係者にも、借金があってね」
中央の男が一歩前に出た。傷跡の残る顎を撫でながら、不敵な笑みを浮かべる。
「命がいいと思うなら、今すぐ携帯を出して、親や友人に連絡しな」
裕也の脇を冷たい汗が伝う。逃げ出そうとした瞬間—
「その若者は、私の客だ」
凛とした声が響いた。通路の向こうに、昨夜の老人・柳生が立っている。
「どいていただこうか」
その一言で、三人の男たちの表情が変わった。
「ま、まさか...柳生様...」
彼らは深々と頭を下げ、足早に立ち去っていく。
「あの男たちも、かつては大金を失った投資家だった」柳生は静かに言った。「今は借金取りとなり、自分たちを破滅させた闇に、自ら飲み込まれている」
裕也は柳生の横顔を見つめた。老人は続ける。
「投資の世界は、弱肉強食。騙すか、騙されるか。でも—」
彼は裕也に歩み寄り、古びた紙幣を一枚差し出した。
「これが最初の投資資金だ。1万円。これを1億にできるか。それが、お前への試練となる」
「1万円を...1億に?」
「無理だと思うか?」柳生は冷笑を浮かべた。「詐欺師に騙された金額が2,000万。その10倍近い金を稼ぎ出す。それこそが、真の投資家への第一歩だ」
裕也の携帯が震える。画面には見慣れぬ数値が浮かび上がっていた。
```
[投資家への目覚め]
初期資金:10,000円
目標金額:100,000,000円
残り返済期限:89日
今ここで、全てが始まる—
```
東京駅の地下道から歩くこと10分。裕也は柳生に導かれるまま、日本橋の古いビルの前に立っていた。
「ここが、私たちの"取引所"だ」
エレベーターのない5階建て。階段を上がると、最上階に一つだけ部屋がある。
扉を開けた瞬間、裕也は息を呑んだ。
壁一面に貼られた新聞の切り抜き。株価チャート。そして、「富の七賢者」と書かれた巨大な組織図。その中心には「統合の賢者」の文字。
「坊や、よく来たね」
振り返ると、そこには一人の女性が座っていた。50代前半、知的な雰囲気を漂わせている。
「私が知恵の賢者、森川智子」
彼女は裕也を品定めするように見つめた。
「柳生から聞いたわ。2,000万の借金。89日の期限」彼女は冷たく笑う。「普通なら、自己破産を勧めるところね」
「でも—」
背後から声が響く。振り返ると、30代前半の男性が立っていた。
「君には"才能"がある。株を見る目が」
「株神、速水竜一だ」柳生が紹介する。
部屋の奥から、さらに三人の人影が現れる。リスクの賢者・御堂凛子。機会の賢者・星野未来。戦略の賢者・久我戦子。
「私たちは、表の金融界から追放された者たち」森川が静かに語る。「詐欺、インサイダー、マネーロンダリング...様々な"罪"を背負っている」
「でも」速水が続ける。「だからこそ、金の本質を知っている」
柳生が最後に告げる。
「お前の選択は?表の世界で犠牲になるか。それとも、私たちと共に、闇の富を極めるか」
裕也の携帯が再び光を放つ。
```
[最終選択]
富の七賢者の弟子となり
闇の投資術を学ぶか
1: 受諾(89日間の死闘の始まり)
2: 拒否(全ての終わり)
選択まで残り:30秒
```
窓の外では、東京の夜景が暗い闇となって広がっていた。
第1章「生存の術」
午前4時。東京の街がまだ闇に包まれる中、裕也は歯を食いしばっていた。
「まだ足りない」
柳生の声が、暗闇に響く。
「株価の動きは、寄付き前の空気で読む。プロの投資家は、この時間に既に動いている」
路上に散らばった新聞。証券会社の前に貼られた株価ボード。メモを取る手が凍えている。師との修行が始まって3日目。たった1万円の資金を増やすため、裕也は街を這いずり回っていた。
「人の気配だ」
柳生が身を隠せと合図を送る。暗がりから現れたのは、スーツ姿の男たち。
「なるほど...」
裕也は息を殺して観察した。彼らは証券会社の前で、小声で何かを話している。
「あの男たち、システム開発の新興企業の幹部だ」柳生が囁く。「普通の投資家は、四季報やニュースだけを見る。でも、本当の情報は、こうして生の場面で掴むんだ」
男たちの会話が耳に入ってくる。
「システムの納入、予定より2ヶ月早まりそうだ」
「業績予想、上方修正は間違いないな」
裕也の心臓が高鳴った。これは—。
携帯が青く光る。
```
[初めての気付き]
「生情報収集Lv.1」を獲得
街角の会話から、市場の動きを
読み取れるようになってきた
```
午前8時。取引開始まであと30分。
「1万円。これが今の君の全てだ」柳生はパソコンの前で告げる。「さあ、賭けるんだ。生き残るか、死ぬか」
寄付き直前の取引所。裕也の指が震える。
「システム開発のベンチャー...業績上方修正の可能性...」
今の1万円が、全ての元手。株価は一株1,000円。ちょうど10株分。これを失えば、即座に終わる。
「迷いは死を招く」
柳生の声が厳しく響く。
「早朝の幹部たちの会話。焦る様子。これは—」
裕也の手が動いた。全額投資。購入ボタンを押し込む。
「ほう」柳生が微かに笑む。「株を買うとき、迷いのない男は初めてだ」
午前9時。取引開始。
株価が跳ね上がる。1,000円から、1,100円、1,200円。
「これは...!」
ざわめきが取引所を駆け抜ける。業績予想の上方修正が正式発表された。株価は瞬く間に1,500円まで上昇。
裕也の1万円が、1万5千円になった。
「なかなかやるじゃないか」
背後から声が聞こえた。振り返ると、紺のスーツに身を包んだ男が立っている。鋭い眼光を持つ30代後半といったところか。
「黒崎...」柳生が警戒するように呟く。
「久しぶりだな、柳生。相変わらず、子供を拾ってきたのか」
黒崎と名乗る男は、裕也を値踏みするように見つめた。
「面白い。あの幹部たちの会話を聞いていたのは、君か」
裕也の背筋が凍る。
「ご存知か?あの会社の株、私が8割握っている。上方修正も、私の手のひらの上でのことだ」
黒崎は不敵な笑みを浮かべる。
「さあ、利確するなら今のうちだ。このまま株価は...どうなると思う?」
その時、裕也の携帯が光った。
```
[危険察知]
「市場の闇Lv.1」を獲得
相場を操る者の存在を
感じ取れるようになった
```
「売るか、持つか。さあ、決めるんだ」
黒崎の声が、耳元で囁くように響く。
株価は1,500円。50%の利益。だが—。
「私の持ち株を放出すれば、株価は暴落する。1,000円どころか、800円、600円まで...」
裕也の画面には、利確ボタンが点滅している。1万5千円。これを逃せば、全てを失うかもしれない。
その時、朝方の光景が脳裏に浮かぶ。
幹部たちの会話。「システムの納入、予定より2ヶ月早まる」
それは演技だったのか?それとも—。
「ふん」
黒崎が携帯を取り出した。
「売り注文、出していい」
「待て」
裕也の声が、取引所に響く。
「この株を売るなら、なぜ幹部を演技させる必要がある?なぜ上方修正を発表させる?それは—」
柳生の目が光った。
「株を集めるため。機関投資家の大量売りに備えて、個人投資家から株を集める。そして—」
裕也が叫ぶ。
「TOBの準備だ!」
黒崎の表情が凍る。
「どこかの大手が、この会社を買収する。だから業績を良く見せて、株価を上げておく。黒崎さんの8割の株式も、高値で売り抜けるために—」
```
[真実の洞察]
「相場読解Lv.1」を獲得
市場の裏に潜む本質を
見抜けるようになった
```
黒崎は沈黙の後、ゆっくりと拍手を始めた。
「面白い。柳生、こいつは使える」
「黒崎、まさか」
「ああ、このまま潰すには惜しい才能だ。私の下で働かないか?」
裕也の1万円は、その後2万円に膨れ上がった。TOBの情報が流れ、株価は2,000円まで上昇したのだ。
しかし、それは新たな戦いの始まりに過ぎなかった。
(第1章・完)
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