第14話 エスコートサービスの女
ヴィルことエアハルトと護衛のギルは、賭けに勝ったチップを換金すると、先に賭博場を出て行った。
ロッテは、黒服の男に『チップを貸してくれ』と言い
「先ほどは、連れが失礼いたしましたわ」
ロッテがにっこりと微笑んで話しかけると、白い仮面の貴族が振り向いた。
「き、君はさっきの男の連れか……ん? あの男はどこへ行ったんだ?」
「あの方は、先に帰られましたわ、なんでも急用とかで。私は雇われのエスコートサービスですの。送ってもいただけなくて困りましたわ」
「そうなのかい、それじゃあ僕が送ってあげようか?」
意外と簡単に話に乗ってきた。
「まあ。嬉しい! お優しいんですのね」
ロッテは護衛のマティアスに目配せすると、兄と一緒に地上へと登る。
入り口のセキュリティを通って外に出た。
「君はどこの店の
「その先ですの……少し歩きますわ」
人でごった返した劇場を後に、少し進むとギルの姿があった。後ろから、マティアスもピタリと追いている。
「こちらですわ」
辻を曲がると、ノイエンドルフ家の黒い馬車が待っていた。
あっという間にギルとマティアスに挟まれて馬車に押し込まれる。
「ウワァァァッ!」
兄が叫び声を上げる。
中にはエアハルトが一人で待っていた。
リーゼロッテは仮面をはずすと、兄に言った。
「お静かになさいませ、お兄様!」
「ふぇっ、リ、リーゼロッテ?」
やっと気づいたようだ……世話が焼ける兄だ。
「お兄様、今日は一体どうしたんですの?」
「おまえこそ、一体どうしてこんな真似を!」
「まあ、待て。二人とも」
仮面をはずしたエアハルトが二人を制した。
「ノイエンドルフ殿……」
「今日、我々は招待客でね。兄君はリーゼロッテが芝居の脚本を書いていることはご存知であろう。招待客として顔を出したら、あちらに案内されたというわけだ」
「ああ、ああそうか……リーゼロッテはまだ芝居を書いていたのか」
「そう簡単に辞められるわけないでしょう。契約があるのよ」
「まあ、リーゼロッテ、そこはいいから。問題は婚約したばかりの君があの場で何をしていたか、ということなんだが」
エアハルトはズバリと核心を突いた。
「え、っとその……だ、男爵とは、友人で……それで誘われて……」
「男爵とは?」
「エ、エッカルト・ランゲンバッハ男爵……劇場主の……」
「どんな知り合いだ?」
「え……と、その……」
「貴族令嬢でも誘惑してこいと言われたのか?」
「えっ?」
「エクスラー侯爵に言われたのか?」
「エ、エクスラー様……って。なんでそれを知ってるんです?」
「君は侯爵家の令嬢と婚約したばかりだろう? 普通、婚約者をあんな怪しいところへ行かせる筈ないだろう」
「ははは……そうですねえ……」
「君は知っているのか? 君たちの婚約式の帰り、リーゼロッテの乗った馬車が襲われたことを?」
「そ、そうなのか? リーゼロッテ!」
二人のやりとりを黙って見ていたリーゼロッテだったが、明らかに兄は何か隠している。それは自分の意思でなく、やらされている感じではないだろうか?
「お兄様、知らなかったんですの?」
「知らなかった……それで、大丈夫なのか? リーゼロッテ」
「今はもう、大丈夫ですわ」
心配そうに
そんな様子を見ても、知らされずにいろいろやらされているのではないか、と
「聞くが、エクスラー侯爵家とはどうやって縁を結んだのかな?」
「それは……ランゲンバッハ男爵の紹介で……」
「君はランゲンバッハ男爵に、何か弱みを握られているのか?」
「う……」
「まさか、お兄様。ランゲンバッハ男爵にお金を借りているんですの?」
「いや、借りていると言っても、大した額じゃないよ……」
「!……借りているんですのね……」
「そ、それは結婚すれば返せるし、侯爵様は領地の港の建設にも手を貸してくださるって言っているんだ」
エアハルトとリーゼロッテはお互いの顔を見合わせた。
やはり、侯爵家の狙いはそこだ。
「お兄様、よく聞いてください。このままではエクスラー侯爵家に乗っ取られますわよ」
「そ、そ、そんな!」
「そうだ。俺ならそうする。婚姻を結ばせ、身内になったと思わせて適当に遊ばせて骨抜きにする。その間に領主である父君を『金を出す』と丸め込んで、どんどんいいように口を出す。港が出来上がったら、父君は隠居させて家督を譲らせ、君を操るだろう」
兄の顔が次第に青ざめていく。
「港から他国への輸出や輸入で莫大な利益が上がる。港に投資した金なんて、すぐに回収できるさ」
「そんな、今まで僕がその金を
「そうだな、妹を売ってまでして金策したのにな」
「そうだ、僕は……」
兄は頭を抱えてガックリとうな
「君は婚約者が気に入っているのか?」
「え?」
急にエアハルトが的外れな質問をしたので、兄も
「いや、別に……あんな派手好きで、金遣いの荒い女は僕の趣味じゃないが……」
「まだ、手はつけてないんだろう?」
「ええっ? 手はって……当たり前じゃないか!」
「旦那様、何を思いついたんですの?」
「目には目を……ってね。今度、君の婚約者がどこかへ外出する予定ができたら、教えてくれないか?」
エアハルトの顔に冷たい笑いが浮かんだ。それと対照的に兄の顔は青ざめた。
「ま、まさかっ! 乱暴したりしないだろうな?」
「乱暴はしないさ。そんなことをしたら商品価値が下がるだろう?」
「…………何をする気だ?」
「君はエクスラー侯爵家令嬢と結婚して、家を乗っ取られたいか?」
「……ほかに方法があるのか?」
「まあね……」
夫の目が怖い……
「他に方法があるのなら……教えてくれ」
「それは、おいおい相談しよう。とりあえず、婚約者の予定がわかったら教えてくれ。うちの門番にメモを渡すだけでいい。護衛が何人つくかわかればなおいい。約束しよう、君の婚約者を傷つけないと」
「わかった、連絡する」
「今日のことを怪しまれたら、エスコートサービスの女とよろしくやってたと言え」
「ああ、そうする」
そう言うと、兄は馬車から降ろされた。
兄が降りると、馬車は走り始めた。
「何をしようとしているのかしら、旦那様?」
そう問いかけるリーゼロッテに、エアハルトは頬を
「お前は知らない方がいい。それより、時間ができたな。帰ってゆっくりできるな……」
エアハルトの目がリーゼロッテを射すくめる。
心臓がトクリとはねた。
(今夜も寝かせてもらえないのかしら……)
嬉しいような嬉しくないような、複雑な気持ちだ。
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