エクゾスケルトン~外側の骸骨~【中編】

 死霊術師ネクロマンサーカチャトーリ・ディオグランデオスコーリタの、昼は長い。


 たとえ、未明まで死霊術ネクロマンシーを駆使し、疲れ切っており、一刻も早くベッドに潜り込み寝て、回復するのが本来為すべき仕事だとしても、客人の居るところでは眠る訳にも行かない。


 この問題は、この件が解決して、カチャトーリがゆっくり眠れるようになるまで、延々と続く。


 得意の短時間の深い瞑想ラピッド・メディテーションにより、体力HP気力MPは何とか回復していたが、ただ立っているだけ、歩いているだけでも、睡眠不足でゆらゆらと妖しく揺れている。


 城内の一室が臨時の教室となり、死霊術師ネクロマンサーカチャトーリを講師とする講義が始まろうとしていた。


「改めて挨拶しよう。死霊術師ネクロマンサーカチャトーリ・ディオグランデオスコーリタだ。

 まず言っておくが、私の死霊術ネクロマンシーの知識の中には『外側の骸骨エクゾスケルトン』という概念も分類も無い。

 まず、君達の持っている『外側の骸骨エクゾスケルトン』のイメージ・概念が、どんなものなのか、或いは、どんなものだと思われるのか、その情報から開示したまえ。

 そうすれば、私の死霊術師ネクロマンサー魔導師ウィザード魔道士マジック・ユーザー、一人の人間ヒューマンとして、あらゆる知識と経験から、推論も助言も可能だ。

 スケルトンの専門家プロフェッショナルである死霊術師ネクロマンサーとして最大限の協力を約束しよう」


 言葉を切って反応を待つが、勇者候補生アプレンティス達の反応は薄い。

 仕方がないと、カチャトーリは少々やり方を変えることにした。


「では、言い方を変えよう。

 魔術や魔法の分野で、『外側の骸骨エクゾスケルトン』に近い呼ばれ方をする仕掛け『外骨格』の多くは、基本的には、甲殻類や虫をモデルにした魔法駆動のことだ。

 魔法駆動の筋肉と骨の関係が、人間をはじめとする動物のように、骨が内側で周囲の筋肉がそれを軸として動かすのを『内骨格 』と言い、『外骨格』は、外側の甲殻からが骨の役割をして、内側の関節部分の筋肉がそれらの甲殻を軸として動かすこと、甲殻の内側に何かが入っているように振る舞うモノのことだ。

 骸骨スケルトンに、取りついた死霊や魔力が入り込み、筋肉も無いのに、筋肉があるかのように動く骸骨が出来上がるのと同じようなものだ。

 それが我々の言う、所謂スケルトンであり、甲冑アーマーに死んだ主の霊等が取りつき、中身の無い甲冑だけが彷徨うのが、動く甲冑リビング・アーマーだ。

 諸君の言う『外側の骸骨エクゾスケルトン』とは、道具として使える動く甲冑リビング・アーマーの類いだな?

 意思の無い、都合よく使える動く甲冑リビング・アーマー

 魔導師ウィザード魔法使いマジック・ユーザーは、甲冑を着られない/装備制限される場合も多いが、動く甲冑リビング・アーマーにとりつかれるだけなら、装備の制限にも引っ掛からないからな」


 ここまでは既に見透かされているぞ、と教えて勇者候補生アプレンティス達の反応を見る。


 自分たちのことを話さなければ、この世界リューセッツラントの人間には推察さえされないと彼らに思わせておいて、油断させるのも手ではあるが、そこまで見くびられるのは、カチャトーリのプライドが許さない。


 異世界の技術には、魔法ではないモノに準拠した、様々な 駆動システムがあるらしい。

 だが、魔法でないモノに出来ることは、魔法でならより容易くたやすく、模倣・再現は可能だ。


 パチパチとまばらな拍手が起きる。

 カズキとヤスユキが、やっとレベルの低い現地人が正解に辿り着いたのを、上から目線で称賛しているらしい。

 ナオとサワコは、二人とカチャトーリ両方に冷たい目を向けている。


「それで、は作れるのか?」

 もはや、言葉遣いには敬意の欠片も無い。


「作れるとも、高位の錬金術師ハイ・アルケミストか、高位の死霊術師ハイ・ネクロマンサーなら、な」


 先達への敬意を払わない相手には、同様にカチャトーリにも敬意の欠片さえ湧いては来ない。

 ただ、今の段階では、カチャトーリも約束通り、誠実かつ丁寧に応えるだけだ。


 勇者候補生アプレンティス達本人はもちろんのこと、王立魔導師団ロイヤル・ウィザーズも、今回の件に限り、全くあてにはならない。


 現在、カチャトーリが追い込まれている苦境を、この事態に至って予測できておらず、対策も立てていなかったのなら、想像力が足りなさ過ぎるし、そもそも、こんな危険な状況は作るべきでは無い。


 対策を立てていたなら、なぜ事態はその対策を潜り抜けて、こうなってしまっているのか、半日は責任者を糾弾したい。


 その時まで、カチャトーリが生きていればだが……。


 敵側に、この事態を察知する知恵と能力があれば、いつ伯爵領が強襲され、勇者候補生アプレンティス達はもちろん、事態を把握する上層部~つまり伯爵自身や死霊術師~は、殲滅皆殺しの対象となってもおかしくはない。


 要は、味方の不始末より、敵の不注意が上回っているお陰で、辛うじて首の皮一枚繋がっている状態だ。


 サワコが錬金術で独創的なアイテムを編み出し、ヤスユキがを解析、ナオの魔力の支援を受けたヤスユキは易々とそれらを量産し、カズキがその特殊なアイテムを使いこなせる技術スキル訓練トレーニングを兵士達に授ける。


 彼らが生きてチームを組んでいる間、新型魔道具マジックアイテムは増え続け、それを扱える特殊部隊チームも増え続ける。


 味方には夢のようなパーティーだが、敵には悪夢以外の何者でもない。


 その体制の秘密が敵に発覚すれば、その総力を振り絞って、攻撃して来るだろう。

 カズキ達は、命を狙われ続けることになる。

 亡国の悪夢を回避するためなら、敵もきっと必死になるだろう。


 彼らを、彼らだけを、一介の死霊術師に会わせるためだけに、伯爵の下に派遣したのが王立魔導師団の判断なら、本部上層部の正気を疑う。


 運良く、途上で襲われて彼らが全滅したなら、そこまでの話だが、彼らが敵国に拐われ、敵国のために働かされたら、自国の滅亡に手を貸したのと同じことだ。


 本来なら、囮の陽動部隊を含めた複数の部隊を動かし、本気の護衛部隊を編成して、彼らを守らねばならない。



 だが、現時点では、ろくな護衛も付けず、本人達に説明もせず、彼らは地方領主伯爵の城館に、ただの客人として居る。


 つまり、地方領主に仕える一介の死霊術師ネクロマンサーにさえ想像できた事態を、王立魔導師団ロイヤル・ウィザーズの誰も想像しなかったと言うことか、同様に想像し忠言した魔導師は、上層部に無視されたと言うことだ。


 いつから、王国最高の知性を集めたはずの王立魔導師団ロイヤル・ウィザーズは、阿呆どもの集団に成り下がった?!


「もう一度尋ねる、に作れるのか?」


 嗚呼、そうだった。今は王立魔導師団ロイヤル・ウィザーズの阿呆どものことより、勇者候補生ここの阿呆どもの問題が先だ。


 何も言わず、教室を包む結界を強化し、隠蔽している魔力を半分解放する。


 四人の中で一番魔力量の多いナオが、やはり一番に感知し、圧力に耐えるように机に突っ伏す。残る三人は、死霊術師ネクロマンサーからの魔圧に押され、椅子から仰け反るように転げ落ちる。


「今の発言は、聞こえなかったことにしてやろう」

 愛想笑いを浮かべながら、カチャトーリは続ける。

「カズキ、立て」


 結界内は、死霊術師ネクロマンサーから噴出する魔力の圧が、逃げ場も無く、荒れ狂っている。


「立てる訳無いだろ!」

「今の発言も、聞こえなかったことにしてやる。

 カズキ、立て!」


「カズキ! 今はカチャトーリ師に従って!!」


 サワコが泣きそうな声で叫ぶ。


 カズキとヤスユキが体制を立て直し、四つん這いから立ち上がろうとするが、そこまでだった。


「カ、カチャトーリ師、立てません」

「『カチャトーリ師、立てません。お赦しください』だ」


 カズキが悔しそうに顔を歪める。


「カチャトーリ師、立てません。お赦しください」


 カチャトーリは、魔力の解放を二割弱にまで抑える。


「座れ。そして、大人しく私の話を聴き、指示に従え」


 三人は、何とか椅子や机にすがるように立って、席に戻る。やっと、四人とも顔を上げて話ができるようになった。


「カズキ、質問は何だった?」


 改めて、本題に戻る。


「あ、『外側の骸骨エクゾスケルトン』を、カチャトーリ師は、お造りになれるのか、と伺いました」


 とりあえず、質問は及第点だ。無駄な時間が、かかった。


「過去、その手のスケルトンを造ったことはないが、恐らく造れるだろう。では、実験を開始する」

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