死霊術師の魔工芸品~ネクロマンサーのクラフトワーク~

大黒天半太

エクゾスケルトン~外側の骸骨~【前編】

 死霊術師ネクロマンサーカチャトーリ・ディオグランデオスコーリタの朝は早い。


 たとえ、未明まで死霊術ネクロマンシーを駆使して疲れきっていたとしても、雇い主お偉い方から呼び出されれば、召喚された下級の死霊スピリット骸骨スケルトンと同じく主の下に参上しなければならない。

 まるで、自分死霊術師が、お構い無しに死霊スピリット骸骨スケルトンを呼び出すように。


 短時間の深い瞑想ラピッド・メディテーションにより、体力HP気力MPを無理矢理回復し、ゆらゆらと妖しく揺れながら、何とか登城出勤する。


 もちろん、妖しく揺れているのは、睡眠不足のせいである。


 辿り着いた城門では、相も変わらず若い門衛達は、一人を除いて死霊術師ネクロマンサーの姿を目にするなりビクリと強張り、歳かさの門衛は、まるで日常のように一礼して死霊術師ネクロマンサーを迎える。


 城内を進み、大広間のほぼ中央に片膝をついて、広間に繋がる中央階段の上の伯爵の居室の扉を見上げる。


「さて、今日の用件は何だ?」


 小さく呟く声に、死霊術師ネクロマンサーにしか聞こえない声が答える。


『昨夜お越しのお客様がたが、死霊術師ネクロマンサー殿に御用があるとか』

 城館に居着いている召し使いの幽霊ゴースト達の一人が答える。


 死霊術師ネクロマンサーは、主ではない第三者の用件と聞いて、面倒事の予感がする。

 主が絡めば断りにくい上に、主ほど直接的な要望では無さそうだ。


「困ったものだな」


 少し間を置いて扉は開き、主に続いて、若い執事に案内された見馴れぬ服装の少年二人と少女二人が現れる。


死霊術師ネクロマンサーカチャトーリ・ディオグランデオスコーリタ、参上つかまつりました」


「よく来た、死霊術師ネクロマンサー殿。彼ら、彼女らボーイズ&ガールズは、王立魔導師団ロイヤル・ウィザーズが異世界より召喚した勇者候補生アプレンティス殿達だ。死霊術師ネクロマンサーから学びたいことがあると、彼らから申し出があり、そなたに任せるとの王立魔導師団長殿からのご指名である。謹んでお受けするように」


 異世界からの召喚者、勇者候補生アプレンティス、王立魔導師団長の指名、その上伯爵からも引き受けないと面倒事になるぞとの仄めかしまで入った。


 凶運バッドラック四重奏カルテットだ。


「ご指名とあらば、このカチャトーリ・ディオグランデオスコーリタ、微力を尽くす所存でございます」

 カチャトーリは、うんざりした気持を何とか立て直し、伯爵に向かって厳かに一礼する。


 若い門衛達のように死霊術師ネクロマンサーと言うだけで敬して遠ざけるような様子は無いが、異世界から来たと言うだけあって、何を考えているものか、さっぱり推察できない。


「カズキです」

「ヤスユキです」

「ナオです」

「サワコです。権能プリヴァレッジは『錬金術師アルケミスト』だそうですけど、まだ何も習ってないので、今は何もできません」


 四人目のサワコだけが、自分の権能プリヴァレッジ技能スキルを明かす。


「それ、言わないといけないの?」

 三人目のナオが、きょとんとした顔で訊ねる。


「私達が何者なのかわからないと、死霊術師ネクロマンサーさんも、私達に何を話していいのかわからないんじゃない?」


 サワコの言葉に、ナオはなるほどと言う顔をしているが、ヤスユキは我関せずと涼しい顔で、カズキは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 カズキは、自分達が王国に召喚された勇者候補生アプレンティスだから、その権威を背景に、自分たちの情報は出さずに、死霊術師から情報だけ引き出したかったらしい。


 確かに、自分達の情報だけ相手に先に知られるのはリスクではあるが、それは教えを乞う者の態度ではない。


 何より、召喚されたばかりの勇者候補生アプレンティス力量スキルなどに興味は無いし、下手に知れば余計な面倒事を呼び込むことになるだけだからだ。


 むしろ、知りたくないと、カチャトーリは思う。


「私、ナオの得たスキルは、『魔力供給サプライ』と『魔力遮断インターセプト』です。自分の魔力を相手に渡したり、魔法になる前の魔力を散らしたりできます」


 ナオの能力スキルを聞いて、カチャトーリは自分の記憶を消したくなる。

 どの国の魔法師団でも欲しがる、戦術兵器級の人材だ。


「俺の能力スキルは、『魔道具複写アイテム・コピー』です。生き物以外のアイテムなら写しコピーを作ることができます。材料と相応の魔力は必要ですが」


 ヤスユキの、自分のスキルは大したことはないと言いたげな説明に、カチャトーリの背筋が凍る。

 ナオとヤスユキの組み合わせは、『歩く量産工場ウォーキング・ファクトリー』だ。

 十分な魔力が確保できるなら、時間をかければ、兵士全員が装備する大量の魔法の武器・防具が生産できる。魔法の武器・防具で武装した部隊、軍団を作れるのだ。

 しかも、移動できるのだから、敵は逃げている烏合の衆を追跡しているつもりが、いつの間にか完全武装の集団に待ち伏せされていたと言う事態にもなりかねない。


 こんな手持ちのカード、本来なら周到な計画で囲い込んで、外には情報が一切出ないようにすべきだろう。


 これにサワコの『錬金術』で、オリジナリティの高い(敵に知られていない)強力なアイテムが新たに加われば、魔法軍事的な意味での周辺国とのバランスは、確実に崩壊する。


 最後に、しぶしぶとカズキが口を開く。

「僕の能力スキルは、『騎兵/駆使者トルーパー』だ。どんなアイテム・道具でも使いこなすことができる」

 嫌な予感が四たび、カチャトーリを襲う。

 そこで口を閉じろ。余計な補足や追加は要らない。

 と、念ずるが、間に合わない。


「そして、一定以上の熟練度になったアイテム/魔道具は、その使い方、使用するのに必要な技術や能力スキルを、他者に訓練することができるようになる」


 嗚呼ああ、詠嘆の台詞ってヤツは、本当に口から「ああ」と漏れるからことがあるのだ。


 その声と表情から、視線がカチャトーリに集中する。


 異世界からの勇者候補生アプレンティス達は、それぞれ名乗り終え、型通りの挨拶を交わしただけのつもりのようだ。


 伯爵も気付いておらず、一瞬で気が重くなる。


「この際、私のことは後で解決することとして、先に進めましょう」


 重大事を後回しにするのは、特に自分が関わることを放置するのは本意ではないが、この際、構っていられない。


「それで、私にお尋ねになりたいこととは、何ですか?」


 カズキは、ヤスユキらと顔を見合わせる。お互いに頷き、意を決したように、カズキは話し始める。


スケルトン骸骨のことをお尋ねするなら、何をおいても死霊術師ネクロマンサー

 そして、この国で一番の死霊術師ネクロマンサーは、先代の最高位死霊術師ロード・オブ・ネクロマンサーケーシンス様に師事された貴方、カチャトーリ様と伺いました。

 故にお伺いします。

 エクゾスケルトン外側の骸骨というものについて何かご存知でしょうか?」

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