悪役令嬢の私と、幽霊の貴方

第1話 エンカウント

わたくしが真逆、悪役令嬢だったなんて……」


 シルベアは1人、絶望の表情を浮かべた。最近貴族の間でも流行っている、と噂の娯楽小説"聖女アイリスの初恋"を片手に。


 ストーリーは平民の少女がひょんなことから貴族の通う学園に編入し、王子との恋に落ちる──といった王道ものだ。 


 問題はそこではない。その王子の婚約者である貴族階級の令嬢が悪役令嬢として描かれていることである。


 何が問題かというと現在王太子と婚約中の私、シルベアと王太子の恋人(?)であるリリーとの関係にそっくりなのである! 


「何故こんなことに……」


 ボソボソと1人で呟いているとクラスメイト達はひそひそと耳打ちをし始めた。この国で最も身分の高い令嬢として一応聴力の強化魔法で聞いてみるが酷いものだった。


「またやってるぜ、吸血令嬢」


「平民でも見目の良い男を集めて血を吸ってるって噂よ」


「ほんと、あんなのが未来の王妃とかやめてほしいわね」


 こんな私でも時々は目に余るような発言に対して言及するが、涙目で命乞いをされるだけだ。しかし先程の王妃発言は看過できない。


 音を立てて本を閉じ、クラスメイトの顔を見据えた。それだけでぴたりと声が止む。


「慎みなさい。流石に目に余る発言が多すぎる。私を王太子の婚約者から引きずり下ろしたいのなら自分の力でご自由に」


 そう言って本をまた手に取ると、令嬢たちの声が聞こえてくる。


「何よ、あの女……。吸血令嬢のくせに魔力だけはあるからってあの言い方はないでしょう?」


「あんなんだから王太子に愛想尽かされるのよ」


 私だって好きであの王太子と婚約しているわけではない。あの"吸血令嬢"というのも半分噂で半分本当だ。


 この国では約4割の人間は魔法が使える、いわゆる祝福持ちだ。何故なら一般に神の類の祝福がなければ魔法が使えないからだ。ここで例外となる"魔女"がキーになる。


 魔女が他と違うのは祝福を持っていないこと。ではどうやって魔法を使うのか? 答えは簡単。そもそも人ではなく、神の末裔だからだ。


 そのため魔女は数が少なく、時代によっては殺されてきているので他国に逃げ延びた者もいるという。


 そう、そしてヴァンブルク公爵家も魔女の家系の一つ。女神イーコールの末裔。彼の女神は吸血鬼を生み出したともされているので、私が吸血鬼というのも解釈によっては間違いでもない。 


 だからこそ婚約者に選ばれてしまった訳だが。


 あれこれと考えているうちにいつの間にやら夜になっていた。自室で呻いていると、背筋が冷えるような感覚があった。 


「麗しいお嬢さん、そんなに悩んでどうかしたのかい?」


「なるほど、私は貴方なのね」 


 ヴァンブルクの特徴その2。必ず1代に1人、幽霊がつくこと。これが女神のプレゼントかは謎だが、縁ある幽霊が1人つく。


「どう? 俺が来て嬉しいんじゃない? 顔も良いし、明るいし!」


「静かにしてくださる? 今、手続きをするわ」


 幽霊の男はふよふよと部屋中を浮きながらシルベアのことを見つめていた。

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