感謝
星屑の鍛冶屋の扉が勢いよく開かれ、軽快な声が店内に響いた。
「メイ、ケント。いるかしら?」
その声を聞いたメイは、目を輝かせてドアに駆け寄る。
「セリーナ!!元気そうで本当によかった……!!」
ドアが開くと同時に、セリーナ・ルミエールが『ルミナス・エッジ』を腰に収めたまま、眩しい笑顔で現れる。
「もちろん元気よ!……って言っても、一回死にかけたんだけどね。」
セリーナが、あっけらかんと笑いながら言う。
「ねえ、セリーナ。それ、全然笑えないから。」
メイが呆れ顔でツッコミを入れると、ケントも肩をすくめて苦笑した。
「でもね、本当に『ルミナス・エッジ』のおかげで私はここにいるの。だから、メイとケントは私の命の恩人! 動けるようになったら、まずはお礼を言いに来なきゃと思って!」
そう言うと、セリーナはいつになく真剣な表情で頭を深々と下げた。
「……ありがとう。」
その言葉は、普段の彼女の明るさとは対照的な静かな響きを持っていた。
店内に、しばしの静寂が流れる。
メイは驚いたように目を瞬かせ、ケントも無言のまま彼女の肩越しにルミナス・エッジを見つめた。
「……セリーナ。」
メイがそっと呟く。
表情は見えないが、肩が微かに震えているように思えた。
しかし、次の瞬間——
「ま、湿っぽいのは性に合わないし! これ返さないとね!」
勢いよく頭を上げたセリーナは、いつもの調子に戻りながら、ルミナス・エッジを抜いて差し出した。
「もともと試しに使わせてもらっただけだし、お借りしていた分、ちゃんとお返しするわ!」
その言葉に、メイとケントは顔を見合わせて、同時に吹き出した。
「セリーナ、それはダメよ。」
メイが優しく首を振る。
「ダメ?」
「ルミナス・エッジは、あなたの命を守った剣なの。だったら、これからもあなたが使うべきでしょう?」
「……え?」
セリーナは驚いたようにケントとメイを交互に見つめる。
「メイの言う通りだ。」
ケントが腕を組みながら続ける。
「ルミナス・エッジはもう君の相棒になったんだ。これからも、君の命を守るために使ってやってくれ。」
「……でも、こんな良い剣をただでもらうなんて、申し訳ないわ。じゃあ、お金を払うわ!」
「今回はいいよ。セリーナが無事で帰ってきたこと、それが何よりのお礼だ。」
ケントが肩をすくめながら言うと、メイも微笑みながら続ける。
「その代わり、これから何か新調するときは絶対に星屑の鍛冶屋を使うのよ?」
「それなら当然よ!」
セリーナは満面の笑みを浮かべ、短剣を大切そうに腰に戻した。
「さて、と。じゃあ行きましょうか!」
「……行く?どこへ?」
ケントが怪訝な顔をすると、セリーナはいたずらっぽく笑った。
「冒険者ギルドよ!ケント、私が依頼に行く前に、『ルミナス・エッジが良かったと感じたら、喉が枯れるほど良かったと叫んでくれ』って言ったでしょ?」
「あー、そんなこと言ってたな。」
「言ってたわね。」
ケントとメイは顔を見合わせて言った。
「だからね、今からこの約束を守りに行くのよ!ケントとメイもその場にいてちょうだい!」
「今から……?いや、宣伝はありがたいが……無理はするなよ?なんたって、病み上がりなんだから。」
ケントが苦笑しながら言うと、セリーナはふふんと胸を張った。
「こんなの無理のうちに入らないわよ。ブラック・タイラントを倒した私にとってはね!」
――アメリカンジョークみたいな言い回しだな。
ケントは心の中でツッコミを入れながら、セリーナの顔を見て微笑んだ。
「じゃあ、行くわよ!メイ、少しの間お店を閉めてちょうだい!」
ケントとメイの腕を掴み、セリーナは意気揚々と星屑の鍛冶屋を飛び出した。
―――――――――――――――――――――――――
店の近くの路地で、一人の男がその様子をじっと見つめていた。
フードを深く被り、その下から冷静な眼差しが覗いている。
「……ちっ。あんな小さな鍛冶屋が、こんなに騒がれるようになるとはね。」
彼の名前はガイル・ロッセン。
グランス鍛冶店の店主であり、マルクスの町で長年にわたり職人としての地位を築いてきた男だ。
鍛冶職人らしいがっしりとした体つきに、短く整えられた黒髪、きれいに手入れされた髭が特徴的な端正な顔立ち。
服装も作業着の上に質の良いエプロンを重ね、職人としての誇りを漂わせている。
「あのケントとかいう男、ただの職人じゃなさそうですね……。」
彼は目を細め、星屑の鍛冶屋の看板を見上げると、そっと唇を噛んだ。
「面白い。少し、本気を出してみましょうか。」
そう呟くと、ガイルは静かに踵を返し、闇に紛れて姿を消した。
――星屑の鍛冶屋の飛躍の裏で、静かに火種が灯され始める。
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