流れ星に願いを込めて

翌朝、星屑の鍛冶屋は静寂の中で新しい一日を迎えていた。外では小鳥が囀り、町全体がゆっくりと目を覚ましている。


「ふぁ~……おはよう。」


眠そうな顔でメイが挨拶すると、ケントは手を止めて振り向いた。


「ああ、おはよう。なんだか眠そうだな。」


「うん、昨日話した流れ星のマークについて考えすぎちゃって……なかなか眠れなかったの。」


――結構遅くまで話していたのに、あのあとも考えていたのか。すごいやる気だ。


「そうか。まあ、根を詰めすぎると体がもたないぞ。俺も前いた場所で無茶をしていたときがあったけど、体を壊したら本末転倒だ。体が一番の資本だからな。」


「気をつけるわ。でもね!いいデザインが思い浮かんだの!それこそ流れ星みたいにアイデアが降ってきたの!」


「流れ星みたいにって……うまいこと言ったのか?」


ケントは首をかしげる。


「もう!そこは素直に褒めなさいよ!」


「ごめんごめん。でも本当に気になるな。どんなデザインなんだ?」


「ふふふ……ではお披露目です!じゃーん!」


メイは自信満々で、スケッチが描かれた紙を広げた。そこには星の尾を引くようなデザインが描かれていた。それは、シンプルながらも星の輝きと動きを一瞬で感じさせるデザインだった。


「おお……これは……。」


ケントはスケッチに見入って言葉を失った。メイが不安げに顔を覗き込む。


「あれ……やっぱり微妙だった?」


「いや、ごめん。見惚れていたんだよ。俺にはこういうセンスがないからさ。でもこれは本当に素晴らしいと思う。」


ケントは素直に思ったことを言った。


「本当?実は見せるまでは少し不安だったの……でもよかった!で、これを実際に商品に使うってなると、彫る場所とか考えないとよね。」


――掘る場所か。


ケントはスケッチを見ながら、紙に軽くマークを描き直して言った。


「剣の柄の部分にこのマークを彫るのはどうだ?握るたびに特別感を感じられるし、握っているときは見えなくてなんかおしゃれじゃないか?」


――見えないところをこだわる。これが江戸っ子の粋なところよな。


「せっかくのデザインなのになんで見えなくするのよ!もっと目立つ場所にしましょうよ!」


「そうか……?じゃあ、刃の根元はどうだ?光が反射して輝く効果を狙えるだろ。冒険者たちが自慢するポイントになるかもしれない。」


「確かに!光が反射しやすい鉱石を少しまぶせば反射を強くすることもできそう!でも……私にできるかな。結構な技術が必要よ、これ。」


「大丈夫さ。メイには確かな技術がある。それに、必要だったら実際に掘る前に俺が練習台になってやるよ。」


「うん?練習台?」


「そうそう。俺の腕にタトゥーみたいに彫ってみるんだよ。」


「ちょっと!冗談でも怖いこと言わないでよ!」


メイは青ざめた顔でケントを睨んだが、すぐに吹き出して笑った。


「まあ、冗談はさておき、本当に手伝いが必要ならできることは俺もサポートする安心しろ。あとはこのマークをちゃんと価値あるものにしていかないとな。」


「昨日も言ってたわね。でも……そんなことできるのかな?」


「もちろんさ。大事なのは流れ星のマークを単なる飾りにしないことがだよ。このマークが付いている商品を持つことが、冒険者たちの間で『ステータス』になるように仕掛けるんだ。」


「ステータス……。でも、それってどうやったら実現できるの?」


「簡単ではないよ。例えば有名な冒険者が使ってくれれば、それだけで他の冒険者たちも欲しがるようになるだろう?これがいわゆる『ブランディング』だ。」


「ブランディング……また聞いたことがない言葉だわ……。」


「ブランディングってのはな、星屑の鍛冶屋の商品が特別だって思わせることさ。質の高さを土台に、このマークを使って君の店の価値を高めるんだ。つまり、お客さんに『この商品を持ってる自分ってかっこいい』と思わせることだよ。」


「なるほど……!それがステータスにつながるのね。なんだか面白そう!」


――ブランディングの目的は顧客のプレファレンス、つまり好意度を高めるためで……という小難しい話しはいまはしないほうがいいな。


ケントは前の世界でこの話をしたときに部下の頭から煙が出ていたことを思い出していた。


「よし!デザインはなんとか形になりそうだ。あとはプロモーションの方法だ。ここからは俺の腕の見せどころだな。」


「うふふ、期待しているわね。」


メイは目を輝かせながらいたずらっぽく笑った。


その笑顔を見ながら、ふと、ケントは思いにふけった。


――そういえば、こんなに新しいことに挑戦するのって、一体いつぶりだろう。


――部長として働いていた頃は確かに大変だったけど、長年の経験が土台になっていた分、ゼロから何かを作り上げることはほとんどなかった。すべてが初めての連続だなんて、本当に久しぶりだ。


昨日まで感じていた不安はどこかへ消え去り、今は胸の内にやる気が満ち溢れているのを感じる。

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