異能学園の生徒達が異世界転移しましたが、どうやら彼等は女神の加護のチートスキルに興味が無いようです
透瞳佑月
第1話
「仮想現実における二年B組とF組の総力戦結果」
「来年の新入生の能力一覧、及び異常人格保有者のリスト(8月1日時点)」
「突如半壊した校舎についての反省文」
僕は生徒会室でいつもと変わらない退屈な仕事をこなしていた。
「会長!なんか反省文作成がこっちに回ってきてるんですけど?!『突如校舎が半壊』てこれあんただろ!」
「決めつけはよくないなあ御伽(オトギ)っち。校舎を半壊させられる生徒なんて履いて捨てても売るほどいるじゃないか」
「だれがオトギっちだ。いいから自分で書け」
生徒会長の椅子の上で遊んでいる果無否引(ハテナシヒビキ)先輩。腰まで伸びた夜より黒い髪と、冷たい印象を与えるほど美しい顔立ちは、子供っぽい表情と仕草のギャップで彼女に微笑みかけられた男はたいていの頼み事なら聞いてしまうだろう魅力を持っていた。僕——現白御伽(うつしろおとぎ)を入学早々生徒会役員なんて面倒な役目を押し付けた張本人だ。と、いうより先輩以外の生徒会役員が全員一年生なのは、絶対ヒビキ先輩に友達がいないからだと確信している。
「じゃあミシキかライカに見てきてもらいましょう。一発だ」
「犯人は会長。ちなみに情報は閲覧してない」
「犯人は会長。ちなみに過去は見てないけどねー」
同じく生徒会役員の未識彼方(ミシキカナタ)と飛嶋来歌(トビシマライカ)がそう答える。
縁なしの眼鏡にたれ目がち、ウルフカットは彼女の文学少女然とした綺麗な顔のいいアクセントになっている。そんな未識彼方は机に肘をついて指をながめる癖がある。
飛嶋来歌は俺の幼馴染だ。無造作な黒いボブカットは彼女の整った容姿に親しみやすさを与えている。男子とも気兼ねなく話せるが、実はコイツのことが好きな男子が結構いることをぼくは知っている。
「会長への信頼なんて欠片もないね」
「あんたが校舎くらい平気で壊すアホって信頼ならある」
「尊敬もないや」
「あの……犯人は会長、です。『ついでだから新築ピカピカに建て直しちゃってよ』とのことでしたので……普通にチクりました」
小さい声で決定的な証言をしたのは神崎祈(カンザキイノリ)。未識の親友だ。色素の薄い茶髪と色白な肌、カラメル色の大きな瞳。神様は気まぐれにお人形を創りたくなったのではないか、と思うほど現実味のない、それこそドールのような美しさの持ち主だが、気弱で臆病な子犬のようだ。男子から絶大な支持を集めて、集めすぎて不可侵条約が結ばれているほどだ。
「よくやったぞ神崎」
「ちぇー分かった分かりましたよー」
そう言って観念した会長が僕の書類の山から反省文を抜き出そうとした瞬間——
光に部屋がつつまれ、視界がホワイトアウトする。
気が付くとそこはヨーロッパの城の中のような場所だった。他にも生徒が50人ほどいる。俺含め生徒会役員の皆以外は別の制服だ。他校の集団が三~五人×10グループほどといったところだろうか。
「
僕の頭に膨大な情報が流れ込んでくる。未識彼方が異能を使ったのだろう。そして僕たちは状況をこの場の誰よりも正確に理解した。
恐らく――目の前にいる騎士を従え、煌びやかなドレスで身を包んだ偉そうな美女と同じくらいには。
「ようこそおいでくださいました。勇者の皆様」
そうらきた。僕たちは会長に目配せをする。果無否引は顎をひいて不気味に微笑む。
彼女は女神。この世界は僕たちの世界で言うところの剣と魔法の異世界だ。
「私は女神ヒーラ。この世界はあなたたちの世界で言うところの剣と魔法の異世界です」
僕たちは魔王誕生による世界の危機を救うために勇者として召喚された。
「あなたたちは魔王誕生による世界の危機を救うため、勇者として召喚されました」
あまりにも分かりやすく、高揚する説明にこの後の展開を想像した他校の生徒が色めきだす。
僕たちはこれから女神の加護でユニークスキルを付与され、ステータス上昇速度の飛躍的加速の力を得る。しかし——
「あなた達にはこれから勇者としてこの世界の住人にはとても届かない力を授けます。この城に留まり、世界を救う英雄になっていただけないでしょうか?魔王討伐を成し遂げ、元の世界に帰るまでは最高位の騎士として、何不自由ない生活を保障します」
「あ、あの!」
ライカが口を挟もうとしたところを、会長が口を抑えて叫ぶ。
「この世界の危機だって!それを聞いたら正義感の強いボクはなにもせずにはいられないぜ。さあみんなに力を授けてくれ!」
女神は餌にかかった魚を見るような目で、にっこり笑う。
「ほかの方々はどうでしょうか?無論無理にとは言いません。魔王が討伐されるまで元の世界に帰す方法はありませんが、このザナティア王国の市民権『だけ』は差し上げます」
「俺はやるぜ」
そう言って前に出たのは茶髪をセンターパートにし、制服を着崩したガラの悪い他校の生徒だった。
「リョウタくん、素手で魔王殺しちゃうんじゃね」
学ランの集団の、媚びたつまらない冗談に媚び笑いが響く
「元の世界に帰れない以上、他人事じゃない。僕たちも協力すべきだと思うんだけど、みんなはどうかな」
「ユウトくんが言うなら……」
あの制服には見覚えがある。文武両道の超有名名門校ではなかったか。
ふざけている。選択の余地なんてないじゃないか。「魔王と戦うチートスキルを手に入れて、貴族のように豪勢な暮らしをする」か「戦わなくてもいいけど、右も左も分からない世界で生活基盤も与えられず、一庶民として暮らす?」と言っているのだ。
当然誰も拒否はしない。
「女神の加護」が、「思考、行動すべてを把握され、統制される奴隷契約」だと、もし知っていたとしてもだ。
——ここまで読んでいたんだ。
神坂高校。正式名称「国立異常現象操作能力研究所高等部」——通称「異能学園」。
異能力を持つ少年少女が集められた狂った学園の生徒会長、果無否引に視線をやる。彼女はまるでこの状況を楽しむ「ほかの普通の高校生」のように笑っていた。
「皆さんの勇気に感謝を。それでは加護を授けます」
美しい光が女神を輝かせ、長い髪とドレスの裾がふわりと浮かぶ。
「第一階神格女神ヒーラの名のもとに、異邦の者に我が加護を!」
「
会長が長い前髪で表情を隠す。横から覗く彼女の口元は、不敵な笑みで能力名をつぶやいた。
光が膨らみ、僕の「奥底」にまで犯さんとする「何かの力」が入り込みそうになったのを感じ、それは光が僕に当たった瞬間に儚く散った。女神との奴隷契約。そんな結果は「彼女」が拒否する。
光が収まると、女神の表情が一瞬こわばり、こちらに一瞥をくれる。すぐに微笑を浮かべなおす。
「魔法と違い、スキルは意思のみで発動します。どうですか?みなさん」
「うおおおお、リョウタくんすげえ!」
さっきのガラの悪い茶髪の腕は、巨大な竜の形をした炎に覆われていた。
「あら、Sランクスキルの『焔竜の右腕』ですね。とても強力なスキルです」
「おらッ!」
リョウタとかいう少年は手近な壁を殴る。爆音と共に壁に大穴が空き、隣の倉庫らしき部屋も滅茶苦茶になった。
「焔竜の右腕は魔力消費が激しいので気を付けてくださいねー」
女神は気にした風ではなかった。
僕ら5人以外はビームを打ったり念力で周りの物を浮かしたり、不思議な光る生物と会話したり、自分の人生がファンタジーになったことにはしゃぎまくっていた。
どうしても白けちゃうなあ。火を出してビーム打って。
そんなの、「いつもどおり」じゃないか。
女神が目を見開いて駆けだした。その先にはさきほどの名門校のグループでユウトと呼ばれていた少年がいた。彼は華美な装飾をされた美しい銀の刃の剣を眺めている。
「Exランクスキル 英雄王の神剣召喚——ここ500年誰も保有者の現れなかったスキルです……このスキルはレベルを10倍にして、魔力量の許す限りどんな高位魔法でも自在に操れる、600年前あらわれた最悪の魔王、エルドーラを倒した伝説の勇者のスキルです。ああ、なんてこと。もう一度見れるなんて。あなたこそ魔王を討伐し、新たな伝説の勇者となるお方かもしれません」
「さ、さすがユウトくん」
「俺らのリーダーはこうでなくっちゃな!」
「あ、あはは。頑張ります」
ぎこちない微笑で、女神は僕たちの方を見る。
「あなたたちは、どうでしょう」
「できませーん!」
ヒビキ会長が元気よく叫んだ。
あ、これ追放されるやつだ。
「で、でもなんか魔法は使えるんですよ!ほら、『ファイアーボール』」
おもちゃの打ち上げ花火くらいの火球が天井にぶつかって破裂した。
「そ、そうそう。『ウォーターカッター』」
ライカがのった。ぼくら5人は初級魔法を必死に見せつける。
未識彼方の異能「
彼女は視界に映るすべての存在から「情報」を収集、記憶、送信できる。
ミシキは女神から異世界召喚のこの状況と彼女の思惑などの「情報」と共に、魔法に関する知識、技能といった情報をコピーして僕ら4人に送信してくれていた。
だから理論上僕らは女神の使える魔法を全部使えるようになる。今はレベル1だから魔力量が足りなくて初級魔法しか使えないだけだ。
「なんか習わなくても魔法が使えるとかそんなんじゃないですかねあはは」
「——っ、しかしどれ——」
奴隷化されてない、と言いかけたのだろう。
果無否引の異能「
「拒否」の概念を操る因果系能力。彼女は傷つかない。望まない結果を拒否できるのだ。だから常に外傷なし、健康な肉体と精神を保持し、それを害するモノはオートではじく。「傷つかない」のではなく「望まない結果の拒否」なため、任意の対象——つまり僕らを守ることも可能だ。そして「校舎が半壊しない」という結果を拒否して校舎を半壊させたりする。この冗談じみた、ふざけた屁理屈のような能力で彼女は生徒会長になった。
女神は頬を引きつらせながら
「それでは、みなさんスキルを得られたようですので、王宮のお部屋へご案内します」
と奥のドアへと歩き出した。
ぞろぞろとついていく他校の生徒に、奇異の視線で見られながら僕たちも歩きだす。
5人で顔を見合わせて微笑んだ。
なつかしいね。異物に見られるこの視線。
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