クラスカースト最上位のツンデレさんに改造された俺に翌日から青春が始まった!?

嵐山田

第1話 高嶺の花に引っ張られて

「ねぇ、あんた。ちょっと面貸してくんない?」


「へ?」


 その日、俺の人生は大きく変わった。


「あんたさ、背はそこそこあるしスタイルもいい。授業見てると頭もいいし運動もできるっぽいのに、その髪と猫背と暗い雰囲気が全部台無しにしてんのっ!」


 放課後の教室で、一人小説を読んでいた俺に、突然こんなことを言ってきた女がいた。


「……急に何?」


 目の前の矢峰やみねさん。クラスの中心にいる高嶺の花で、俺みたいな陰キャが話しかけられる存在ではない。

 その証左に授業以外で話すのはこれが初めてだ。

 いきなりこんなことを言われたら、頭が追いつかない。


「何って、だから! 面貸せって言ってんの! 耳ついてない?」


 当然耳はある。

 でも理解が追いついてないんだよ。


「面貸すって……どこに連れてくつもりだよ。悪いけど、金なんか持ってないぞ?」


 教室の空気はまだ温かい。窓の外で部活の声が響いている中、俺の心だけが慌ただしくなっていた。


「金? そんな見た目にも金をかけていないようなあんたから、金なんて取んないから!」


 なにおう! 俺の小遣いは全額小説とゲームにつぎ込まれてるだけだ!


「じゃあ、ほんとに一体何で?」


「もう、面倒くさいなぁ! いいから来てっ!」


「お、おい!」


 こうして俺は矢峰さんに腕を引かれるまま、学校から連れ出された。


「まずはここ!」


 そう言って矢峰さんが最初に俺を連れて行ったのは美容室。

 俺が普段いくようなところとは違ってメインストリートに面した一等地に店を構えるいかにもなところだ。


「もう今更何がしたいかは聞かないけど、こういう所って一か月くらい前から予約がいるんじゃないの?」


 ここまで来れば、矢峰さんが何をしたいのかは大体察しが付く。

 きっと俺を改造して遊びたいんだろう。


「当たり前でしょ? だからもう予約済みだから」


 何を当たり前のことを、と言わんばかりの彼女は一切の躊躇いなくその美容室に入っていった。


「あら、円香まどかちゃんいらっしゃい。予約通りね」


 ooh……ほんとに予約済みだったのね。

 

「何してんの? 早く入りなよ。由美さん、お願い」


「あらあら~、円香ちゃん。今日はずいぶん面白いお客さんを連れて来たのね~」


「別にそういうのじゃないですからっ!」


 ……俺を置いて話を進めないで欲しい。

 全然どういうことか分かってないんだけど……。

 

「いいじゃない、ちょっと茶化しただけよ。さ、席に座って。格好よくなりましょうね!」


 とりあえず、促されるままに椅子に座ったが、この全力おしゃれ空間にいる自分自身が、どうにも場違いに感じてしまって仕方がない。


「さてさて、そういえば名前を聞いてなかったわね。あなたは何くん?」


「あ、すみません。荒木あらきこうと言います。今日はほんと、いきなりすみません」


「ふふっ、いい子ね。気にしないで、円香ちゃんのお願いだし、円香ちゃんにはカットモデルとかでお世話になってるから!」


 へぇ、さすがはクラスカースト最上位につける矢峰さんだ。

 カットモデルが具体的にどういう基準で選ばれるのかは知らないけど、まあ外見的要素は間違いなく含まれるだろう。

 

「そうなんですね! えーっとじゃあ、お願いします?」


「任せてね! よ~し、じゃあ始めよっか!」


 今までに座ったどの椅子よりもふかふかなソファに身を包まれながら、鏡に映る自分を見た。

 鏡越しに観葉植物が置かれたカウンターなどが目に入る中、なぜかすごく真剣なまなざしでこちらを見ている矢峰さんが妙に気になった。


 ◇◇


「これでどうかしら? 大分すっきりしたんじゃない?」


「は、はい。すごいですね……。自分でもびっくりするくらい印象が変わりました! ありがとうございます!」


 いや、本当にすごい。

 短く整えられ、前髪が軽く上げられている。これまで鬱陶しいとしか感じなかった髪型がまるで自分を一新してしまったみたいだ。

 自分をイケメンだと勘違いしそう……。

 さすがは一等地に店を構える美容室の美容師さんだ。


「喜んでもらえたようで良かったわ! 円香ちゃんも、これでどうかしら?」


「ま、まあ……想像以上にかっこい――ンンッ! 由美さんの手にかかれば誰だって……」


 矢峰さんが不意に視線を逸らす。

 その仕草にどこか照れが混じっているように感じるのは、俺の気のせいか?


「ふふっ、頑張ってね?」


「もうっ! 違いますからねっ!」


 ?

 まあ、良い経験をさせてもらった。

 これで矢峰さんも満足しただろう。

 さて、本屋にでも寄って帰ろうかな。


 なんて考えていたのもつかの間、支払いを終えた矢峰さんが俺の腕をつかんだ。


「え?」


「さぁ、次行くよ」


「えぇ!?」


 ……どうやら、まだ帰れないみたいだ。

 不安と若干の期待が入り混じる中、普段は歩かない陽の道を俺たちは歩き出した。


 ◇◇◇


 矢峰さんに連れられて次にやって来たのは、これまたおしゃれな雑貨店だった。

 アクセサリーやハンカチ、靴下など小物類がいろいろ揃っている。


「えーっと? ここでは何を?」


「あんたの暗い雰囲気をちょっとでも明るくするのよ! こういう小物で全然変わるんだから!」


 そういうものなのか?

 そう言われて矢峰さんを見てみると、確かに無地だけどレースのついた靴下に派手すぎないネイル? をしている。

 ふむ、確かに気を使ってるのがうかがえるな。


「なるほど、でも俺何もわからないけど?」


 店内を見渡す。

 いくつか目に留まる物もあるが、やっぱりよくわからん。


「そんなこと分かってるわよ! だから選んであげるって言ってんの」


「おお、さすがは矢峰さん。男物も分かるんだ」


 ほんの冗談のつもりで言った言葉だった。

 だが、その言葉で急に矢峰さんの目つきが変わった。


「は? 何その言い方。まるで私が男をとっかえひっかえしてるみたいに言って! そんなんじゃないからっ!」


「いや、そうじゃないって。ただほんとにすごいって思っただけだよ」


 そう言っても、変わらず不機嫌そうにしている矢峰さん。

 なんで急に怒ったんだ?

 

「はい、これとこれ。このくらいは自分で買って」


 そう言って、ワンポイントアクセントの入った黒い靴下と青いビーズがつながったブレスレットを手渡してくる。


「え、お金……」


「さっきの発言、これ買ったらチャラにしてあげる」


 チラッと値札を確認する。

 うん、本屋をあきらめれば買えなくもない。

 まあ俺のものだし、美容院代は普通に払ってもらっちゃったしな。


「分かったよ。……あーそうだ。何か一つくらいならさっきのお礼とお詫びもかねて俺が買うよ」


 普段は絶対に言わないだろうけど、髪を切ったことで自信がついたのか、そんな言葉が思わず口を出た。


「……は? ……はぁ!? あ、荒木ごときが何言ってんの!? ちょっとさっぱりして私の想像通りイケメンが発掘されただけのくせして、そんな風にかっこつけちゃって!」


 また矢峰さんを怒らせてしまったみたいだ。

 でも今回はなんだか少し嬉しそう? にも見える。


「あはは……そうだよな。ごめん、ちょっとイキったわ。じゃあ、これ買ってくるな。選んでくれてありがとう!」


「ま、待ちなさいよ!」


 恥ずかしさを紛らわせようと、レジに向かおうとした俺の服の裾を矢峰さんが掴む。

 その体勢のまま矢峰さんはきょろきょろと辺りを見回した後、小さい髪留めを手に取り、控えめに俺へ渡してきた。

 

「じゃあ、これ……」


「え……」


「なによ! お礼してくれるんでしょ?」

 

 今度も照れが見える表情で言ってくる矢峰さん。

 ……何この子、ちょっとかわいいんですけど!?


「あ、ああ。わかった。これでいいんだな?」


「う、うん。それがいい」


「そうか。わかった。じゃあ、買ってくるから」


 一人でレジに向かいながら、改めて矢峰さんが渡してきた髪留めを見る。


「これ、俺が見てたやつだよな。もしかして……俺って小物を見る目ある!?」


 ◇


「はい、これ矢峰さんの」


 選んでもらった靴下とブレスレット、それに矢峰さんの髪留めを購入した後、店の外に出て別で包装してもらった髪留めを矢峰さんに渡した。


「あ、ありがと」


 大事そうにその髪留めを受け取ると、スクールバッグから小物入れを取り出してそこにしまう。

 

 やけに大切にしてくれるな……そんなに欲しかったのか。

 まあ、喜んでもらえたのならよかった。


 「きょ、今日は悪かったわね! これでいいわ。いい? 明日はちゃんとその髪型にセットしてくるのよ? 靴下とブレスレットも忘れないように! いいわね?」


「え、ああ、うん。うまくできるかは分からないけど、さっき教えてもらったしやってみるよ。なんだかよくわからないけど、今日はありがとう矢峰さん」


 俺がそう言うと、矢峰さんは少し顔を赤くしてフイっと明後日の方向を向いてしまう。

 

「……先」


「え?」


「髪のセット! 詳しく教えてあげるから連絡先教えなさい!」


「……ああ、うん。どうぞ」


 終始よくわからなかったけど、なぜか連絡先まで交換してしまった。

 まあでも、髪型は気に入ったしありがたかったな。

 そんな気持ちを抱きながら、帰路に就いた。

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