手当たり次第
出雲さんから聞いたお話だ。なんでも彼は奇妙な体験をしたそうだ。その経験が理不尽なものだったので神も仏も信じていないのだという。
「御利益だのなんだのって結構なことを謳っている神社や仏閣がありますけど、昔は信用していたんですよ」
そう語る彼の口調は暗く、余り気乗りしていない様子だったが、愚痴るように話を始めてくれた。彼の話によると……
*
中学三年の時に自転車で遠めの大きな神社に行ったのが始まりでした。その時は高校受験の神頼みのために行った。結構な時間がかかったので親にも呆れられつつも、成績が伸び悩んでいたのは知っていたようで笑うことはしなかった。
そうして受けた高校の全てに受かるという快挙を成し遂げた、いや、成し遂げてしまったと言うべきか……
その成功体験から困りごとがあれば近くから遠くまで神も仏も気にせずお願いを始めた。受験に受かりますようにという願いだったのだが、次第にお金に困ったら収入を願って、健康診断の前には身長が伸びていますようにと、もうそんなものは神頼みしたからなんとかなるはずないだろうというようなことまで頼みだした。
しかしいろいろなものに祈りを捧げていたため、どれが効いたのか分からないが、御利益があるかのように希望が叶っていく。よく考えると不自然なほどなのだが、成功体験というのは人を惑わせる。困りごとがあれば神頼みをしておけばいいという安易な方向へと考えが動いていった。
次第に神社仏閣からオカルトじみたパワースポットまで頼るようになり、高校では成績が伸び悩んだ。勉強の時間をそんなことに使っているのだから伸び悩んで当然なのだが、当時は『祈り方が足りないからだ』と歪んだ考えを持って次から次へと祈っていった。
しかし、ある時に事態が一変した。その時は都内に行く用事があり、その時に一度訪れておこうと思っていた有名な神がいた。とある武将のものだが具体的には伏せておく。
一人上京したときに早速そこに向かった。静謐な空気が満ちた場所だというのが外から見た印象だった。穢れたものは入れない、直感でそう思って、『これは御利益がありそうだ』とそこに一歩踏み入れた。その時のことだ。
バッと冷風が吹いたような感じがしたかと思うと体が突然軽くなった。それと同時に『ギャア!』とか獣のいななくような声が響いた気がした。とはいえ、自分以外誰も奇妙に思っていないことから自分だけに起きたことなのだと理解した。
そうしてそこにお参りをして用事を済ませ、電車で帰ったのだが、その日から憑き物が落ちたように霊的なものへの熱は冷めてしまった。開くまで今にして思えばの話だが、あの神様は自分が拝んでいた神仏を片っ端から排除して自分に取憑いたのだと思う。一人だけに取憑くような器用なことが出来るのか、あるいは自分の分身のようなものを飛ばしたのかは分からないが、それから神仏に祈ることは無くなり、近くの神社の大半は入ろうとすると酷くいやな気分になった。
神頼みが出来なくなったのでそこからは自力での勝負となる。頑張って勉強をして、何とか成績を維持出来るのが限界だった。しかし今までの神頼みとは違い、勉強した内容が頭にきちんと残っていた。
それがしばらく続いた後だ、結局大学受験の時でさえ自力で何とかすることになったのだが、結果、東京の某大学に入ることになる。名門とまではいかないまでも無名というわけでもない、それなりに名の通った大学に合格し進学をした。
上京して引っ越しが終わり少しした頃、あの時の神様が夢に出てきた。いかつい顔に気難しい表情を浮かべ、こちらを見ていたのだが、なんとなくそこでそう言えば近くにあったな。そう気がついてその神社に行った。そこで一応の学業成就したという結果を感謝の意思を持って報告した。その時のこと、ぶわっと風が吹いて、『ああ、もう用を為したから離れたんだな』と感覚で理解した。
そうしてただ一柱の神の力だけで自分は大学受験に成功したのだと理解した。一応御利益はあったんだなと思う。ただ、それにしても個人に努力をさせるという神様らしからぬやり方ではあったのだが……
それからは仏に神社も寺院も入れるようになったのだが、なんとなく大学には入れてからは神仏に頼る気がなくなってしまった。結局、それからは自力で勉強を続けている。
今にして思えば一応は助けてくれた神に対して敬意が無かったとは思うが、それでも見返りを求めるような神ではないらしく、普通に生活出来ている。ただ、今付き合っている彼女がいるのだが、結婚したいとは思っているものの、出来る限り宗教色のないものにしたいと思っている。自分の経験から神というのは安易に利用したり頼ったりすると痛い目を見るのだと理解したからだ。
もし自分に子供が出来たなら、祈る神自由だが、手当たり代はやめておけと言いたいと思う。
*
「とまあこんな体験をしたんですよね。問題は今の彼女が結婚式をしたいと言っていて神前式にしたいと主張していることですかね。別に宗教関係無い披露宴の方はともかく、神様の前で結婚なんてしたらその先子供が出来たとしてもその子に影響があるんじゃないかと気になっちゃうんですよ」
彼はそんな愚痴を言っていた。のろけもあったのだろうが、本当に神と関わるのは程々にしておいた方がいいとは思っているらしい。今のところ、就職までは結婚を先延ばしにしているそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます