第25話:誰だお前

「ヤバいなぁ……死んでるよねこの人……」


 水龍が死んでいる人間に近付いて見ると、やはり呼吸もしておらず心臓も動いていない。さっきまであった魔力は間違いなくこの人間から発せられたものだが、死んでしまっているなら話すらできない。

 周りに誰かいないか見渡してみると、今まではなかった家などがあることに気付いた。


「ここに住んでたのかな? ん……向こうにももう1人いるけど……。あ、今この姿見られたらヤバいじゃん! 僕が殺したって思われちゃう!」


 死んだ人間の近くに龍がいたと目撃されたら終わる。間違いなく殺人犯だと思われるだろう。そう考えた水龍だったが、逃げたとしてもこの湖には龍がいるのがバレているので詰んだ状態だと気付いた。

 あんま大きな魔力を持っている闇属性の魔法使いを殺せるのは、この森でも龍ぐらいだと思われるだろうと。


「もー。最悪だよ! どうしよう……」


 起きないと思いながらも、水龍は倒れている人間のほっぺたを前足でペシペシ叩いていた。万が一もう1人が起きてきたら、回復魔法を必死にかけるいい龍だと思ってもらえるようにスタンバイすることにしたのだ。

 多分そんな姿を見たとしても自分が殺したと思われそうだが、なんとかやり過ごせる奇跡を信じるしかなかった。

 そんな思いを馳せながら改めて人間たちのいる場所をゆっくり見回してみると、水龍が気になるのを見つけた。


「あ! お肉だ! お肉あるじゃん!!」


 基本的に水中で過ごしているので魚はよく食べていたが、陸地にいる動物の肉はあまり食べていない。

 水龍が本気を出せば狩りをすることなど造作もないが、基本的にはめんどくさくてその辺にいる魚だけ食べてあとは寝るだけの暮らしだった。

 久々に肉を見て興奮した水龍は、吊るされた肉をちぎると倒れている人間の近くに持ってきてちびちびと食べ始めた。


「んー、美味しいなぁ。やっぱ肉っていいよなぁ」


 小屋にいる人間がいつ起きてもいいように、倒れている人間の近くで待機しながらの食事。

 久々の肉をゆっくり堪能し最後の一口を食べ終わり、うとうとし始めた瞬間それは訪れた。


「ぷはっ!! はぁ……はぁ……ハイヒール!」

「えっ!? あ、ハイヒール!」


 死んでいたと思った人間が息を吹き返したのだ。しかも人間の近くに転がっていた魔石と勘違いされたのか、水龍を掴むとそのまま胸に押し当てられた。

 水龍も眠気でうとうとしていたせいで、急に伸びてきた手に抗うことができず、むしろハイヒールと言われ命令されたのかと勘違いして魔法を発動した。

 その違和感に先に気づいたのが、先ほどまで死んでいた人間――もといアーベルだ。


「え? ん?」


 アーベルが握っているはずの魔石が横に転がっているのを見ると、自分が握っているのはナニかとマジマジと見つめる。

 水龍も握られたままアーベルの顔の前に持ってこられてしまい、困ったような顔をしながらアーベルに話しかけた。


「あ、どうもこんばんは……」



 ◇



「と言うわけで、今日から一緒に暮らす水龍だ」

「よろしくお願いします」

「いや意味がわからないんですけど師匠!?!?」


 意味がわからないのはこっちのセリフだ。いつも通り夜の修行に死んで生き返ったら羽の生えたトカゲみたいな奴がいたんだぞ?

 しかもハイヒールを唱えて俺を回復までしてくれた。さらに言葉を話すなんて見たこともない。

 とりあえず肉を欲しそうにしていたので何枚か分け与えたら、こんな風に懐かれたのだ。


「お肉が美味しかったので、僕も一緒に暮らそうかと」

「水龍ちゃんも何を言ってるの!?」


 簡単に言えば餌付けされた羽トカゲだ。こんな小さなサイズで言葉も喋れて魔法も使えるなんて素晴らしいじゃないか。いつか解剖してぜひその生態を……いや、辞めておこう。そんな恐ろしい顔で俺を見るんじゃない。

 俺としても龍とは会いたかったし、むしろこうやってコミュニケーションが取れるのが嬉しい。知性のある魔物? と呼べばいいのかわからんが、龍と仲良くなって損はないだろう。

 実際のサイズも見せてもらったが、これから暮らすなら小さいサイズのままの方がありがたい。


「あのですね師匠? この湖にいる龍は本当にいるかも知られていませんからね? しかも本来人前にも姿を見せませんし、むしろ悪さをしに来た勇者を一撃で追い出した恐ろしい存在……」


 そこまでエリィが一気に喋ると、視線を水龍の方へと移す。

 水龍もエリィの視線に気付いて首を傾げた。


「むぅ?」

「……可愛い存在ですね」


 エリィが手を伸ばすと水龍は抵抗することなくその手に乗った。そのまま撫で始めると水龍も嬉しそうに目を細めながら笑顔になる。

 もしかしたら本来は恐ろしい存在かもしれんが、特に今の俺達に危害は加えないだろう。むしろ肉を与えていれば大人しくしてそうな気もする。

 元々俺らはこの森を荒らすために来たわけでもないしな。


「もう、わかりましたよ。水龍ちゃん、一緒に暮らしましょう?」

「うん! 僕からもお願いします!」

「そうなると、名前を決めなきゃですね……」


 水龍でいいのでは? とも思ったが、水龍とは種族名なのでちゃんと名前があった方がいいと言われた。確かに俺も名前じゃなくて「ヒューマン」とは呼ばれたくはないな。

 そうなると名前かぁ……水龍に聞いてみたが、何でもいいそうだ。


「んー、スイとかリュウとか……」

「師匠はセンスないんですね?」

「ぐぬぬぬ」


 その後2人であーでもないこーでもないと話した結果、水流の名前は「ブルー」になった。なんか安直な気がするが本人も喜んでいるので問題はないだろう。

 こうして俺たちの修行場に1人? の住人が増えることになった。

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