第27話 それは主人公がするべき事ではない
27 それは主人公がするべき事ではない
呼び鈴を押して、その人物が顔を出すのを待つ。
数十秒ほど経った頃、彼は戸を開けて姿を見せた。
「はい?
って、お宅は誰?
何で女の子が、僕を訪ねてくる?
きみ、どう考えても公務員じゃないよね?」
彼こと丸真久留米は眉を顰めながら、首を傾げる。
私は単刀直入に、こう宣告した。
「私はあなたを――処刑しにきました。
あなたにとっては唐突かもしれませんが――死んで頂きます」
「………」
丸真久留米・二十七歳。
職業は、殺し屋。
見かけは痩身で、黒いくせ毛が妙に似合う整った顔立ちの男性だ。
実に冗談の様な話だが、彼は専業的な人殺しである。
十代の頃から人を殺す事を生業にして二十三歳まで人を殺し続けた。
けれど、検察が立件出来た殺人行為は、三件だけ。
恐らくその十倍は人を殺している彼は、その三件以外の罪は問われていない。
人殺しを職業にしていた彼は、それ位、巧妙に殺人行為を犯してきた。
逆に言えば、警察と検察の執念の捜査があったからこそ、彼は有罪になったのだ。
長い裁判の末、一審から最高裁まで、彼は死刑を言い渡されている。
そう言う意味では、彼は実に手強い相手と言えた。
その反面、多くの人を殺した彼に、私は何の感情移入もしていない。
罪を問いやすく、それでいて手強い相手。
私が経験値を得るには、正に打って付けの相手と言えた。
「へえ?
面白い事を言うね、きみは。
今の世でそういう事を言うとか、それだけで一種のギャグだよ。
度胸があるとも言えるけど、やっぱり只の蛮勇でしかない。
きみ、もしかして自殺願望者か何か?
だとしたら、訪ねる部屋を間違えている。
確か宗教家でありながら殺人を犯して、死刑になったやつも居た筈。
諭して欲しいなら、そいつの部屋を訪ねた方がいい。
きっと僕よりは、マシな事を言ってくれる筈だから」
「そうですね。
この団地に住む人達は、みな死を宣告された人ばかりです。
でもその中にあって、あなたの様に余裕がある人は、稀有でしょう。
私はその度胸を見込んで、あなたをターゲットに選んだ。
私が彼女と対等である為にも――あなたには死んでもらいます」
「………」
私がもう一度死を宣告すると、丸真久留米は黙然とする。
彼はここまできて、漸く私が本気だという事に気付いたらしい。
「僕を、殺す?
それは明らかに、僕に対する悪意ある迷惑行為だ。
政府も僕に迷惑をかける事を避ける為に、僕を釈放した。
その僕をきみみたいな女の子が、殺す?
一体どうやって?
僕に手を出せば、その時点で――きみの方が死ぬよ?」
「それは、どうでしょう?
その理屈が正しいか、今から試します。
私はあなたを、害そうとして迷惑をかけた。
でも、あなたは世間的に言うと、生きているだけで迷惑な存在です。
その理屈のどちらが正しいのか、私は決着をつけたいだけなんです」
「な、に?」
今の所、あの〝裁きの間〟の事を知っている私の方に、一日の長がある。
よって何の予備知識もない丸真久留米は、完全に虚を衝かれる形となった。
私と丸真の姿が、現実世界から消失する。
次の瞬間、私達二人は、例の白い空間に居た。
「な、に?」
でも、流石は殺し屋だ。
丸真久留米は、僅かに驚いただけで、直ぐに平常心を取り戻す。
彼は直ぐに思考を切り替え――この状況に対応しようとしたのだ。
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