第9話 四人のアリバイは確定

     9 四人のアリバイは確定


「あの、一体どなたでしょう? 

 実は、今とりこんでいまして」


 おずおずと、若いメイドさんは私達に応対する。

 私は普通に、こう騙るだけだ。


「いえ、私達は通りすがりの、探偵です。

 いま悲鳴が聞こえたので、このお屋敷をお訪ねしました。

 何か、あったんですね? 

 それなら、私達にお任せ下さい。

 必ずその案件を、解決してご覧に入れます」


 普通なら、間違いなく追い返されるだけだろう。

 それ位私が言っている事は、目茶苦茶だ。


 だが、事は車奈さんの読み通り進んだ。

 ある事かメイドさんは、私達を屋敷に招き入れたのだ。


「そうでした、か。

 では、どうぞお入りください。

 実は今さっき――このお屋敷のご当主がお亡くなりになったのです」


「………」


 私達四人は、無言で顔を見合わせる。

 ここまでは、白い人が言っていた通りだ。

 

 死亡者が出て、刑事事件が発生した。

 私達は自然な形でこの案件を捜査する、というのがこのゲームの趣旨だろう。


 いや、その前に、私は大事な事をメイドさんに確認する。


「それは、いつですか? 

 正確に言うと、ご当主がお亡くなりになったのは、何時頃です?」


「……えっと、九時半頃でしょうか? 

 今さっきお亡くなりになったのは間違いないので、その筈です」


「……九時半」


 だとすると、私達全員のアリバイは確定だ。

 何せその時間帯だと、私達四人は既に集められていた。


 もっと正確に言うなら、ご当主が亡くなったのは私達がこの空間にやってくる少し前だ。


 その状態で私達がご当主を殺害するのは、絶対に不可能だと言えた。


「では事の成り行きを、詳細に話して頂けますか? 

 一体どういう流れで、そういう事になったのでしょう? 

 いえ、メイドさんは何故ご当主の死亡時刻を、そこまで限定出来る?」


 また手を上げて、車奈さんが質問を始める。

 メイドさんは困ったかの様な顔になったが、幸いにも私達に協力してくれた。


「……えっと、何から話せばいいのでしょう? 

 私は、宇野花家に仕えるメイドです。

 メイドの数は三名で、その他にはご当主の奥様がこのお屋敷で生活をしています。

 ご当主の道明様は六十歳で、昨年脳梗塞を患いました。

 そのため体が不自由で、私達がお世話をさせて頂いていたのです」


 今朝、その道明さんから、携帯で連絡があったらしい。

 それは正に、自殺を仄めかす様な内容だったとか。


 厭な予感を覚えたメイドさん達は奥様と共に、道明さんの部屋に急行した。

 しかし部屋には鍵がかかっている。


 誰も合鍵は持っておらず、その為メイドさん達はドアノブを破壊したらしい。

 ドアを開けて室内を見てみれば、そこには椅子に座って机に倒れている道明さんが居た。


 メイドさんの一人が部屋の中に入ろうとしたが、それを奥様が止めたらしい。

 刑事が来るまでは、現場を荒らす訳にはいかない。


 刑事ドラマを観てそういった知識を持っていた奥様は、真っ先に通報した。

 その矢先に私達がこの屋敷を訪ねてきた、というのが一連の流れの様だ。


「成る程。

 つまりご当主の電話があってから、直ぐにあなた方はご当主の部屋に向かった訳ですね? 

 その間に怪しい人間と、遭遇する事もなかった?」


 車奈さんが問い掛けると、メイドさんは毅然とした様子で首肯する。


「はい。

 屋敷の戸や窓は施錠されていたので、第三者が屋敷に侵入した筈はありません。

 なにより――道明様のお部屋は完全な密室だったのです。

 その上で道明様は私に電話をかけ、自殺する旨を伝えました。

 だとすれば――」


「――〝これは、完全な自殺〟と仰る訳ですね?」


 車奈さんの確認を前にして、メイドさんはもう一度頷く。


「ええ。

 少なくとも私は、そうだとしか思えません。

 その事を証明する為にも、皆様にご協力して頂きたいのです。

 何故なら警察は今、忙しすぎて手が離せないらしいから。

 こちらに裂く人員はないと、先程連絡がありました」


「………」


 当然、そんな事はありえない。

 これはあの白い人の、冗談じみた設定だ。


 だが、これで私達は、第三者からあれこれ言われる事なく捜査が出来る。

 ならば、先ずはこのメイドさん以外の人達から、話を聴く必要があるだろう。


 私がそう話すと、件のメイドさんは力強く首を縦に振る。


「分かりました。

 それでこの件が解決するなら、奥様達も喜んでご協力するでしょう。

 どうぞ中にお入りください。

 ……えっと、それでどの様な状態で事情聴取をするのが、望ましいでしょうか?」


「そうですね。

 では、使われていない部屋を用意して頂けますか? 

 お話はその部屋で、個別にさせて頂きます。

 そういう事で良いわよね、成尾さん?」


 私は勿論、車奈さんに同意する。

 遂に私達はこの案件に着手して、各々知恵を絞る事になった。


 今――人類の運命を決めるゲームは始まりを告げたのだ。

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