第1話 アレナの兄

『聖女になり人生謳歌』には、二つのモードがある。

一つ目はイージーモード。主人公であるルナを操作して、聖女になるために頑張ったり、イケメンキャラたちを攻略するモードだ。


そしてもう一つが『ハードモード』。

ゲームの悪役であるアレナ・マスカレードを操作して、キャラたちの攻略を目指す。

だが、選択肢を間違えると即死エンド。普通に考えて難しすぎるモードなのだ。


「ハードモードは必死にクリアしようとしたから、一応覚えてるけど・・・・・・」


それでも、実際に自分がアレナになるとは思わないじゃん!

さてと、これからどうしますか。

とりあえず、アレナ=私に降り掛かってくる死亡エンドは絶対回避しなきゃ!

せっかく、令嬢となったんだもの。前世では出来なかった快適な暮らしをしてみたい!


ちなみにアレナの父親であるベルハ・マスカレードは、帝国の重要的な役割を担う名家の現当主。要するに、マスカレード家は帝国の中でも屈指の権力を持ってるってこと。


「ゲーム通りの結末にならないようにしなきゃね、うん!」


ネガディブに考えたって仕方ないし、前向きに考えなきゃ。

それにしても、アレナのビジュアル良すぎない?こんな美少女なら、男なんてたくさん寄って来るだろうに。


それほどまでにルナが妬ましかったのかな。

今の私には、今までのアレナがどういうふうに過ごしてきたかは分からない。

それでも、私はゲームみたいに死なないように上手くやる。

絶対に!


私がそうして、覚悟を決めているとふとドアがノックされた。


「お嬢様、お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」


「・・・・・・ええ、どうぞ」


「では、失礼します」と入ってきたのは、メイド服を来た茶髪をお団子にしてる女の人。

このメイドさんは、アレナ専属メイドであるリリアン。ゲームファンの間からは『リリー』と呼ばれている。


「お召し物でございます」


リリーは、アレナの味方ではない。

今までアレナがルナにしていたことをキャラに告げ口し、アレナが嫌われるルートを辿ることになった原因の一つだ。


「・・・・・・・・・リリー」


「なんでしょう、お嬢様」


「今日の予定はどうだったか覚えてる?私、少しぼーっとしちゃってて」


「今日の予定は確か、お嬢様のお披露目パーティーがございます。ああ、パーティーといえば・・・・・・後で、今日のパーティーで着ていただくドレスを見てもらいます。とても綺麗なドレスで、お嬢様にとてもお似合いだと思いますよ」


リリーは私のドレスを整えながら、そう教えてくれる。

そっか、アレナのお父さんって家族のこと、すごく溺愛するタイプの人だったっけ。

一見、ただのイケオジかと思ったけどあれは驚いたわ・・・・・・。


私は、今は自分の父親となった男性の顔を思い出しながら溜息をつく。

これからは「お父様」って呼ばないと・・・。


「お嬢様、お着替えが済みましたのでお食事に行きましょう。ご家族の皆様が待っております」


「・・・ええ、お父様たちを待たせるのはいけないものね」


水色の、華やかなドレスのスカートを優しく撫でながら私は、自室を出た。









「アレナ!おはよう!」


食堂に向かっていた私に、そう声をかけてきたのはアレナと同じ白髪に群青色の瞳。

アレナの実の兄であるフェルノ・マスカレード。

ゲームでは悪役だったアレナとは大違いな、善良で優秀な兄だ。


フェルノの年齢は大体・・・十二歳ってとこかな。アレナはフェルノの三歳下だから、現在九歳。まだまだ子供だね。


「フェルノお兄様、おはようございます」


「ああ!アレナも今から朝食に向かうのか?良かったら一緒に行こう!」


「フェルノお兄様が良ければ、喜んで」


なんで実の兄はこーんなに優しいのに、ゲームのアレナはあんな感じだったんだろ。

元々は良い子だったのかなぁ?


「アレナ?どうしたんだ?さっきから浮かない顔だが・・・」


「いえ、ただ昨夜に少し本を読んでいたので寝不足気味なだけでございます。心配をかけて、申し訳ございません」


「そうなのか・・・・・・アレナは勉強熱心だから集中しすぎたのかな。今日は早めに寝た方が良いと思うぞ」


「そうしますわ、今日はゆっくりしようかと」


「その方がいい!お父様方も心配されるだろうし」


全く・・・・・・底なしに優しいお兄様だこと。

ちなみに、フェルノお兄様もゲームでは攻略対象になる。まあ、彼はアレナにとても優しいから、ハードモードだとほとんど攻略しなくても良かったんだけどね。


ただ、私の家族・・・・・・特に兄妹の中でも攻略に関しては『鉄壁の男』がいる。

それが――――――――――


「フェルノ、起きていたのか」


たった今、目の前に現れたマスカレード家の長男、ヴィルト・マスカレードだ。

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