第9話 王族の抜け道の再探索

 家の中には木製のテーブルとイス、ベッドが設置された。


 窓際にはマリーゴールドが飾られている。


 窓といってもガラスは無いので、冷たい風は入ってくるけど、木の根に住むよりは遥かに良かった。


「もう一度、【王族の抜け道】の攻略に挑もうと思う。城に入れば【死の黒薔薇】の資料もあるはず」


 昨日足を踏み入れ、死神のお化けと戦闘した抜け道を、便宜上【王族の抜け道】と命名した。


「フィオルンはここで待っててね?」


 私は白いローブを整え、先日拾った大鎌を手に、玄関でフィオルンに尋ねる。


「待てるわけないじゃない」


 すぐに不満げな声が返ってきた。


 このやり取りはこれで何度目か。


 フィオルンが私の過労を心配して何度も着いて行くという。


 けれど私は彼女に【死の黒薔薇】を発動させたくなかった。


 この平行線がずっと続いているのだ。


 お互いに言い分は分かるけど――。


 私は眉根を寄せる。


「フィオルンの今の装備はパジャマと草履。

 戦うには命を削る死の黒薔薇――これ以上、危険なところに行かせたくないの」


 私の説明にフィオルンは、強気にふふんと笑う。


「論理的ね、正論よ。

 ぐうの音も出ないほどにね」


 でも、とフィオルンは続ける。


「私を黙らせるのは論理でも正論じゃない。

 想いじゃないと私の心は変わらない」


「むむむ……」


「我がままを言いたいわけじゃないの、私も――もう少しだけ、生きてみてもいいかなって思ったの」


 フィオルンの蒼い瞳が私を見つめる。


「守られるだけじゃ、この蕾は咲かないわ」


 ――危険に身を置いてでも、生に執着する花を咲かせようとしてみたい。


 自分でも分からないこの気持ちを、育ててみたい。


 フィオルンはそう言いたいのかもしれない。


「……分かった。

 一緒に行こうフィオルン」


「やったぁ!」


「でも……!」


 私は両手を伸ばしてフィオルンの頬を包む。


「死の黒薔薇は絶対に発動しない、約束して」


「……絶体絶命以外では使わないわ、約束する」


 条件を出してるのはこっちなのに、なんて強気な返答か。


「私が、絶体絶命なんて状況、斬り伏せるから、そんな機会は来ないよ」


 私は立てかけた大鎌を再び握りしめ、フィオルンと共に【王族の抜け道】の探索へと向かうことにした。


◆ ◆ ◆


 踏み込んだ【王族の抜け道】は、昨日と違いはない。


 暗く、背筋が寒くなる気配が漂っている。


「今回の探索の目的は二つ」


 私は人差し指を立てる。


「一つはフィオルンの装備を整える為の探索」


「え、そ、そうだったの――!?」


「極寒の中でフィオルンを布一枚で生活させたくない。それにちゃんとした靴も欲しいしね」


 動物がいれば皮を使って洋服も作れるが、この地には生息していない。

 

 糸から布を作る方法もあるけど、死の大地で素材を探す時間よりも、余命の観点から城探索に時間を割いた方が良いと考えた。


「1000年前の靴や服は、経年劣化で着られないだろうけど……もし魔術的な保護が働いている服があれば――死神のローブみたいにね」


 死神のローブは死神が扱う死の力から生まれている。


 それはある意味で言えば魔術的な力だ。


 世界にはそれと同様に魔術で守られている古代の武具が存在する。


 王家の迷宮のような場所だ。


 可能性はゼロじゃない。


「ココノ、私の為ばかりじゃない。

 自分のことにも力を使いなさいよ」


「フィオルンとずっと過ごせるようになったら、少し考えてみるよ」


「――!」


 私の言葉にフィオルンは、頬を赤くして、いつもの様にそっぽを向いてしまった。


「そ、それで、もう一つの目的はなんなのよ」


「もう一つは、城への道を見つけ出すこと。

 地図が書ければいいけど、紙もペンもないから、壁に印をつけながら行こう」


「でも、壁に書けるものなんて持ってた?」


「ニブルヘイムは死の土地で生命がない代わりに、無機物が豊富だって気が付いたんだ」


 だから、ほら、と、集めておいた石を見せる。


「これは、何かしら……」


「白亜、チョークともいうんだけど、壁に白い線を描ける石だよ。

 視認性も良いから目印に丁度いいんだ」


「ふうん、ココノって黙ってれば、背が小さくて、銀髪、赤目で滅茶苦茶可愛いのに、喋ると詳しすぎて可愛くないわね」


「褒め言葉と受け取っておきます」


 そんなやり取りをしつつ、私たちは慎重に抜け道を探索した。


 昨日踏み込まなかった部屋もひとつずつ確認して、何も無ければ「×」、武器があれば「ぶき」など、目印を残していく。


 死と生の転換グリム・シフトで周囲の死の気配を吸収しながら進むことで、常に戦闘で扱えるスキルの準備をする。


 だが幸いなことにアンデットの姿はなく、第一目的である衣類保管庫へと足を踏み入れることができた。


「よほど発展してた国だったんだろうね。

 逃げ道のほとんどに生活用品がまとめられている部屋がある……」


 衣類保管庫の鉄の扉には魔術的な刻印があり、そのおかげでカビ臭さはない。


「この部屋、他と雰囲気違うわね」


 フィオルンは辺りを見回しながら、壁のクローゼットにそっと手をかけた。


「広さは12畳以上ありそうだね。

 クローゼットもしっかり備え付けられているし、所々に保管に関する魔術の記述がある……もしかして大切な場所なのかも」


「開けるわよ」


「私が開ける、フィオルンは私の背中に」


 この部屋に死の気配は元から無い。


 神聖な空気が漂っているので、アンデットが潜んでいるとは思えないけど、念には念を入れよう。


 クローゼットに手をかけてそっと中を開ける――。


 ギィィィ。


 両開きの扉を開けると、中には色とりどりの洋服が綺麗に掛けられていた。


「わあ……素敵じゃないココノ!」


「すごい、これ全て魔術が込められてる……」


 私の【死神だった者の目リーパー・オキュラー・レプリカ】が魔術の気配を感じる。


 本来の目なら魔術の内容も理解できるのだろうけど、今の私には、ただの服じゃないってことしか分からなかった。


「ねえねえ、この服、どうかしら?」


 フィオルンは早くも貴族のような洋服を取り出して、自分に合わせて見せる。


 彼女はゆるふわの金髪を持ち、蒼い瞳の少女。


 すべての服が似合いそうだった。


 相当数あるから、どれが良いか悩んでいると、ふと壁に掛けられた純白の洋服を見つけた。

 

 レースや金の刺繍が施されているが、品のある落ち着いた装飾である。


「あそこの白いカジュアルドレスがフィオルンに似合うと思う」


 あの白いドレスだけ、特別な感じで壁に掛けられているのは気になるが、フィオルンは気にせず手に取る。


「……この感触……」


 嬉しそうに洋服を手に取っていたフィオルンだが、ふと手を止める。


「――これ、聖服ね」


「聖服?」


 私はついオウム返しに聞く。


「聖女専用の洋服なの。

 儀式用と普段着用があるけれど、この服は儀式用ね。

 スカートの裾の金刺繍の入れ方に、セフィロト生命の木が含まれてるわ」


 フィオルンが指さす場所にはセフィロト生命の木が描かれている。


 これはこの王都の紋章だ。


「……この国の聖女の為に作られた洋服なのね」


 壁際には純白のドレスと合わせるように、革で作られたブーツが置かれている。


「身に着けることなく、国は滅びてしまったのね……」


 フィオルンは悲しそうにドレスを抱く。


「あたし、この服にするわ」


「うん、それが良いと思う」


 試着室も残されており、フィオルンは中で聖服へと着替える。


 衣擦れの音が静かに響く。


 髪留めをつけ、ブーツを履く音が続いた。


 カーテンが再び動き、中からは天界に住んでいる女神さまのような装いのフィオルンが、頬を赤らめて立っていた。


「ど、どうかしら」


 金色の髪に純白のドレスが映える。


 胸元はひもを引っ張ると、胸の下でキュッと締まる作りで、シンプルだけどお洒落だ。


 サイズもぴったりで、まるでフィオルンの為に作られたと言っても過言じゃないほど似合っている。


「すぅぅぅっごくかわいい!」


「あ、あたりまえじゃない――」


 髪をかき上げて平静を装っているが、口元が緩んでいる。


「あ、あとこれも見つけたわ」


 フィオルンが背後から取り出したのは——。


「片手棍、ハンマーね」


 聖職者と言えば昔から鈍器と相場が決まっている――と私の前世の記憶が呼びかけてくる。


「あいつらの頭をかち割るのには丁度いいわね」


 あいつらとはアンデットを指しているのか、それとも誰を指しているのか。


 私は深く考えないようにして、第一の目的が果たせたことを安堵することにした。



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🔨次回:第10話 抜け道の探索と疲労

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