❄️5🌹
柔らかな春の日差しの下、並木道を歩きながら朗らかに笑う家族やカップル達、はしゃぐ学生服のグループとすれ違っていく。
ポカポカ陽気の今日は、天気も人もどこか浮かれ気分みたいだ。ふと立ち止まって木の枝を見上げてみると桜の蕾が少しずつ膨らんでいるのが見えた。四月になったら、去年みたいにここもキレイな桜並木になるんだろうな。
「ユキ」
振り返ると、そこには頭に白タオルを巻いたツナギ服姿のアキオが立っていた。リュックを背負ってるところを見ると仕事帰りだったらしい。
「そっちも帰りか?」
「うん、面接終わったばっかり。ラピスロード近くのラーメン屋でね、結果はあとで連絡してくれるって」
「そか」
「うん」
さりげなく出されたアキオの手を握って、二人で並んで歩く。
最近はこうやって外で手を繋いだりする事も、たまに、ある。
アキオは慣れてるっぽいけど、僕はまだちょっとドキドキしちゃってて、でもやっぱり安心する。
「そういや、あのバラのハナシどうなったん?」
「バラ?」
「ほら、バラの子どもの……」
「それ、ハルト君の話?」
「そうそう。結局どうなったん?」
そっか。
アキオにはまだ、あの後の話をしてなかったんだっけ。
学校帰りのハルト君に声をかけたあの日——僕達はお肉のカバサワでヒミツの作戦会議をしていた(学校近くじゃ目立っちゃうし、何より女の子に聞かれちゃったら台無しになりそうだったから)。
「バラを作る?」
コロッケをかじるハルト君に、僕は大きく頷いた。
改めて詳しく聞いてみると、あの袋に入ってた作品は夏休みに作った粘土工作——県のコンテストで優秀賞を取ってあちこちで展示されてから、ようやくあの日に返ってきたものらしい。
だからもともと工作は得意なんだろうってのは予想してたけど、この日のハルト君の爪や指、そしてズボンにも、前に初めて会った時と同じ落としきれなかった絵の具の塗料がやっぱりついていた。
明らかに絵とか工作が大好きな子の格好だ。
「つったって、バラなんかどうやって……」
「だからコレだよ」
偶然懸賞で当たった図書券で買った本のページをハルト君に見せる。
その名も『100均の粘土で作る! カワイイお花のカンタンクレイアート』。
ひまわりやチューリップ、マリーゴールドの中に、赤いバラの作り方も載っている。
「絵の具は自分のか学校の使えばいいし、粘土は夏休みの分余ってない?」
「そういや……うん。たぶん余ってる」
「じゃあ粘土はそれ使ってさ、他の材料はお家のを使えばいいよ。買い足しがあっても100均で全部揃えられるし、君でも作れるんじゃない?」
それからハルト君は、コロッケを食べ終わってしばらくバラのページを黙って眺めていた。「あー……これで、うん」「だったらこうすりゃ……イケるか」とか僕には分からない独り言を呟いて——あんな悪口を言っていた男の子だって思えないぐらい真剣な表情だった。
それから日が暮れる少し前にハルト君を見送って——その後の事は僕にも分からない。
あれから何度かカバサワには行ったけどハルト君には会えなかったし、わざわざ僕も学校に行って聞くこともなかった(怪しまれちゃうだろうし)。
ハルト君、うまくいったのかな。
物思いに耽ってると、前の方から突然、男の子が「ユキ!」と僕達の前に近づいてきた。
まさにウワサをすればってヤツだ。男の子は、つい今までアキオと話をしていたハルト君だった。
「コイツ恋人?」
アキオを指差して言うハルト君に「「ハイぃっ?」」と揃ってマヌケな叫びが出た。
「付き合ってんでしょ。チューした? チュー」
「ちょ、まっ……僕たちそーゆうんじゃないってば!!」
な、なに言っちゃってんのこの子っ?!
いたたまれなくなって握ってた手を慌ててぱっと離す。
疑いの眼差しを僕に向けるハルト君と、反論する直前の口みたいに窄めるアキオ。
二人に挟まれて視線が痛い。
「しゃーないなぁ……」
そう言って突然ハルト君が僕の背中をバンっと押した。
「わッ!」
びっくりして思わず足が前によろめく。
そのまま前のめりにカラダが倒れて……僕はアキオに抱きついていた。
「「なぁッ?!」」
アキオも僕も呆気に取られて一歩も動けない。その内にハルト君はすばしっこい足で僕達の手の届かない所まで逃げ出していた。
とうとう追いつけないぐらい遠くなったところで、振り向きざまハルト君が悪い顔でニッと笑う。
「オレのカノジョ、バラすっげぇ喜んでた! ありがとな! ユキセンセー!」
黒くて澄んだ瞳をキラキラと輝かせながら、ハルト君は夕陽に溶けていく赤い街の中に消えて行った。
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