第47話 一つ屋根の下で④
「ん……」
「どうしたの……」
「……あれ?」
「……何か気になるの?」
彩芽の動きが止まった。気がかりなことでもあるのか……。
「ねえ、声が聞こえてこない?」
「……そうかな、気のせいだろ」
「いいえ、誰かが呼んでる。ほら」
二人の世界に没頭するあまり、外部の音が聞こえなかったのだ。外界の音に耳を凝らしてみると……
はるか向こうから、かすかな声が聞こえた。
「……ん……あれ、そういえば声が聞こえる」
「でしょう」
俺は、体を海の家の方へ向け、じっと目を凝らした。
「わあっ、あいつらだっ。もう宿に戻ってたと思ったのにっ!」
残念この上ない。これからがいいところだったのに、という心の声を飲み込む。
「そろそろ戻らなきゃ、私たち二人で何をしてるのか勘ぐってるわよきっと」
「そうだな、しょうがないな。戻ろう」
お互いの手を体の両サイドに収めて立ち上がると、体からパラパラと砂が舞った。それから大急ぎで砂浜を移動するが、砂に足を取られて走るのは難しい。
大慌てでみんなに合流。千夏の冷ややかな視線が気になる。
「御免なさいみんな。つい海に見とれて遠くまで行ってしまって」
「そっ、そうなんだ。あんまり砂浜が綺麗だったからつい行きすぎちゃって」
「迷子になっちゃ大変だから大急ぎで戻ってきた」
「まあ、みんなが心配してるだろうしね」
と何事もなかったかのように、取り繕う。
「まあ、いいから宿に戻ろう、健士!」と修平がにやにやして肩をたたいた。
夕食は、イワシや味などの近海の魚の刺身や、キンメダイの煮つけなど海の幸いっぱいのご馳走が並び、みんな満面の笑みを浮かべている。
「懐かしい味だなあ」と修平。
「みんな新鮮で、美味しいわあ!」と彩芽がいえば、「これならいくらでも食べられる」と一番食欲旺盛で、ご飯が進んでいるのが和成。
「重量級の卓球選手になるぞ」と俺が脅かす。
「いいの、いいの、卓球に重量制限はない」といくらでもお代わりをする。
「こんなにおいしい食事、私だけ食べちゃっていいのかな」としんみりと桜が言えば、「誘ってくれてありがとう」と千夏。
千夏の存在が、いまいちよくわからない。というか未知な部分が一番多い伊野が千夏だ。彩芽の親しい友人ではあるが、彼女の口からはあまり話題に上らないし、実態は謎が多いい。
気になって訊いてみる。
「千夏は、彩芽の大親友なんだろう。普段女同士でどんなことを話してるんだ?」
「健士君きになるみたいね。まあ、色々よ。ファッションに、オシャレに、将来のことに、恋の話に、家族のこと、人の噂やありとあらゆること」
「そうなんだ……楽しそうだな、そういう話題って」
「気になるでしょう」
俺の噂もされてるんだろうな。絶対されてる、まさか悪口言われてるなんてことはないだろうな。そんなことはないだろう。
「どうしたの、怖がらなくてもいいわよ。健士君の悪口は言ってないからさ」
何を心配しているか図星だった。
「それならいいけど」
だが、本当はどうだかわかったものではない。意外と、彼女外見は上品なお嬢様然としているが、腹に一物持っているタイプかもしれない。お嬢様だからこそ、本音は隠されているのではないだろうか。美しい横顔は謎だらけだ。
「一緒に来てくれてよかったわよ、千夏」と彩芽に言われると、美しい横顔がほころんだ。俺の考えすぎか。
大方食べ終わったところへ、おじさんがデザートのビワを持って現れた。
「これ、この辺の名物だよ。甘くておいしいんだ、食べて」
「うわあ~~いっ、ありがとうございます」
お腹いっぱい食べた後も、ビワの優しい甘さが体中に染みわたり夢のような夕餉の時間が終わった。
「お風呂は男女一時間ずつの交代制。入り口の暖簾とタイムテーブルを見て入って」とおじさん。
「へえ、一時間ずつなんだ。時間を間違えないように入らなきゃなあ。女子とバッティングなん手ことになったら、まずいからな」と和成。
「男子は、何も問題ないじゃない、まずいのは女子の方よ!」と桜に反撃された。
「そうよ、気を付けてね、男子諸君。わざと入ってこないように!」と千夏が睨む。
お風呂タイムも楽しみだ。
――だいぶ間が空いてしまい、ごめんなさい。
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